ニューロダイバーシティとは「標準」を変えていく実践的活動

発達障害知的障害

昨今よく話題にのぼる「ニューロダイバーシティ」において本質を理解されている方は少ないのではないかと思います。ニューロダイバーシティとは一体何なのか?どのように実現していけば人々の「生きやすさ」を追求できるのかを、書いていこうと思います。

最近参加した、第10回成人発達障害支援学会「公開講座」でお話ししてくださった村中直人さんのお話しが大変わかりやすく共感できたため、記事の参考にさせて頂いています。

ニューロダイバーシティとは?

ニューロダイバーシティ(neuro-diversity)とは、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠陥多動性障害)、SLD(学習障害)など、発達障害を神経や脳の違いによる「個性」だとする概念のことであり、「ニューロダイバーシティは発達障害の言い換えではなく、人それぞれ異なる特性を尊重して、多様性の違いを社会で生かそう」とする考え方を指します。

よく誤解されているのは「”普通” の解釈を広げて違いに寛容になろう。頑張ってついて来れたら仲間に入れてあげよう」といった考えと混同していらっしゃる方が一定数存在することであり、これは自民族中心主義と同じで大変失礼なことにあたります。

現在の日本は義務教育の過程でニューロダイバーシティの対義語である「ニューロユニバーサリティ」が刷り込まれている状況であり、「人間だからだいたいみんな一緒」という思い込みに毒されているのです。

一例をあげますと、「人のされて嫌なことはしない。人にされて嬉しいことを自分も人にしてあげましょう」と教育の過程において習った方が多いと思いますが、物事の感じ方、受け取り方が異なっている発達障害者がこの言葉を真に受けて実行した場合、トラブルになります。

筆者は幼少期「虫姫」と呼ばれるくらい昆虫が好きで、自分の採った昆虫をプレゼントの意味で友人の机に入れてトラブルになった事がありました。酷く叱られたものですが、「教職者は嘘つきだ!」といった感想しか残らなかった為、ニューロユニバーサリティの弊害を多いに被ってきた形になります。

参考:ADHDの見た目からは分かりにくい困難さとは?

ニューロダイバーシティの歴史

ニューロダイバーシティ運動は1990年代にインターネット上の自閉者のグループから始まったとされています。それまで異常者扱いをされてきて、「世界で自分だけがおかしい。誰にも理解されない」と思ってきた自閉者達はインターネットの幕開けと共についに仲間と出会ってしまうことになります。

そこにはコミュニケーションの弊害も共感性の欠如もなく、ありのままの自分を受け入れてくれる世界がありました。「私たちは初めてコミュニケーションを楽しいと思った」という当事者の感想が残っています。自閉者たちは初めて、共感し合えてスムーズに意思疎通が出来る相手を見つけたのです。

自閉文化とインターネットは非常に相性が良かったためか、2000年代は2ちゃんねる、Twitter(現X)と今日に至るまで自閉者たちのコミュニケーションツールとして活躍しています。

そして、自分たちの特性を単純な能力の欠如や劣性として捉える眼差しに疑問を投げかけ、人の多様性の一部として尊重する社会のあり方を主張し始めました。ニューロダイバーシティは人権擁護のために生まれた言葉なのです。

参考:大人の発達障害【ASD女性の特徴】女性特有の事例と対策6選 

なぜニューロダイバーシティが必要なのか

ニューロユニバーサリティで教育を受けてきた、日本人にとって「ニューロダイバーシティを受け入れろ!」と言われても一朝一夕でどうにかなるものでないのは、よくわかっています。

しかし、「ニューロダイバーシティは障害者でない貴方にとってもメリットがあり、生きやすくなるよ」と言われたらどうでしょうか?ニューロダイバーシティという言葉は障害者だけでなく、すべての人が対象となる概念です。なぜなら人間は思っているよりも「他人と似ていない」し、脳や神経の働き方レベルで全員が多様な存在だからです。

クロノタイプとニューロダイバーシティ

わかりやすい例として、「クロノタイプ」を取り上げてみようと思います。みなさんは「朝型」でしょうか?「夜型」でしょうか?公開講座では当事者が多かったためか、「夜型」が優勢でしたが、日本社会においては朝型で1日の予定が組まれていることが多いと思います。

実はこのクロノタイプ、近年の研究で遺伝の影響がとても大きいことがわかってきました。つまり「朝型」の人が努力して「夜型」になることは難しいし、その逆もそうなのです。

そのような科学的な根拠から考えると、全員一律の「早寝、早起き」の推奨は好ましくないことがわかります。早寝早起きの強制は朝型のクロノタイプを持つ人にとっては有利ですが、夜型の人にはとても不利な社会だからです。

クロノタイプの合っていない生活は睡眠不足になるだけでなく、人の思考力や記憶力、認知機能を低下させることも分かっています。自分に合った睡眠リズムを追求できるようになると、集中力や業務効率がアップしたといった研究結果も出ています。

こちらも参考に:労働審判の手続きの流れや費用・注意点。申し立てるべきケースと解決金の相場

ニューロダイバーシティの実現に向けて

クロノタイプの違い以外にも人間を理解するためのニューロダイバーシティの視点は無数にあります。脳や神経の働き方の個人差をあまり考慮しない事が当たり前だった社会のあり方において、「一律に扱い管理することを良し」としてきた歴史があります。

高度成長期には、拡大し続けるマーケットに向けて効率と大量生産を追求したマネジメントで産業や経済は爆発的に成長しましたが、少子化が進み、大きく様変わりした社会ではその頃の成功体験から脱却しなくてはいけない時代がきています。

ニューロダイバーシティとは「真に一人ひとりを大切にし、尊重する社会のあり方を問う言葉」です。人の力を最大限に引き出す働き方や学び方の個別最適化は「大きな変化に耐え、変化の激しいこれからの時代に対応する」これからのマネージメントであると言えるでしょう。

ニューロダイバーシティに取り組む企業

ここまでニューロダイバーシティに関して書いてきましたが、実際にニューロダイバーシティを取り入れている企業の例を見て行きます。

アメリカ:Googleの事例

ADHDの特徴をGoogleのマネージャーに見せたところ「うちの部下全員そうだよ」と返ってきたのは有名な話だと思いますが、今回はGoogleでの「ASD者の採用と受け入れ体制」について見て行こうと思います。

Googleでは、スタンフォード大学のニューロ・ダイバーシティ研究者と採用プロジェクトを構築しており、ASD者に向けて「既存の採用プロセス、面接時間の延長、事前質問の提供、口頭ではなく書面による面接の実施」など特性に応じた対応を用意しています。

受け入れる現場の整備も進め、「違いを深く理解するための最大500人の管理職や採用担当者を対象としたトレーニングを実施」しています。

「(自閉症キャリアプログラムは)自閉症の候補者を優遇するものではなく、現在の不利な条件を取り除くことで、公平なチャンスを得られるようにするものだ」と、新たな取り組みへの期待を語っているようです。

アクサ生命保険株式会社の事例

アクサ生命におけるニューロダイバーシティの啓発活動は、2019年に従業員の有志が、発達障害のご家族がいる社員や自分自身が発達障害であるという認識を持つことで生きづらさを感じている社員のための相談会・セミナーなどを開始したのが始まりのようで、2020年から、この活動をダイバーシティ&インクルージョンの施策に組み込み、会社として正式にサポート、推進することとなった過程があります。

啓発活動以外の具体的な取り組みは書かれていませんでしたが、「​インクルージョン&ダイバーシティへの取り組み」のページに推進体制が書かれていたので当事者からの声を期待したいと思います。

日本:株式会社デジタルハーツの事例

デジタルハーツは、ゲームなどの機器の不具合を探し出す「デバッグ」を専門とする日本のIT企業です。バグを見つけるという緻密さが要求される仕事への適性が高いASD者を採用しています。

デジタルハーツでは、まずは時給制のアルバイトから始まり、バグを多く見つけられるスタッフは契約社員や社員へと昇格するというスタンスを取っています。引きこもり暦の長かった人も無理なく働き始められるという点でもニューロダイバーシティ採用の好事例と言われています。

参考:発達障害の方に向いている仕事(一般雇用・障害者雇用)|活用できる支援機関をご紹介 

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