
このブログの読者の中では労働問題を抱えたことがある方は多いのではないでしょうか?「労働基準監督署で注意を促してもらったのに未払いの賃金を払ってもらえない。」「時間外労働がなくならない。」など金銭のお悩みを抱えている方もおられるでしょう。そういった時に役立つのが「労働審判制度」です。
労働審判とは?
労働審判とは、会社と労働者の間の労働トラブルを解決するための裁判所の手続きのことです。労働問題について扱っており、解決までのスピードが速いことが特徴としてあげられます。
非常にタイトなスケジュールで手続きが進み、準備期間が短いことも特徴としてあげられます。会社の主張を裁判所へ伝える機会が限られているため裁判の流れを把握して必要なタイミングで的確な主張や証拠の提出を行いましょう。
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1. 労働審判の概要
原則3回以内の期日で終了
労働審判の構成は労働審判官と呼ばれる裁判官が1名、労働関係に詳しい民間の専門家から選ばれる労働審判員が2名の合計3名の構成となっています。この組織を労働審判委員会と呼び、審理を担当します。
裁判官だけでなく、民間の専門家を交えて審理することでより実情に即した判断ができる専門性が高い制度になります。民間の専門家は労働関係の慣習や事情をよく理解しているため、公平性の高い判断が可能になります。手続きは非公開のため、傍聴できません。
参考:労働審判委員会とは?
2. 労働審判の管轄
管轄とは、どこの裁判所で労働審判を行うかについての取り決めのことです。以下にあてはまる裁判所は労働審判法第2条により、労働審判を申し立てることが可能です。
1.相手方の居住地か、事業所の所在地を管轄する地方裁判所
2.自分の現在の勤務先。または最後に勤務していた勤務先の所在地を管轄する地方裁判所
3.当事者が合意で定める地方裁判所
簡易裁判所では労働審判を行うことは出来ません。
参考:「労働審判法」はこちら
裁判所の管轄区域について:裁判所「裁判所の管轄区域」はこちら
労働審判事件を取り扱っている地方裁判所
・東京地方裁判所 立川支部
・静岡地方裁判所 浜松支部
・長野地方裁判所 松本支部
・広島地方裁判所 福山支部
・福岡地方裁判所 小倉支部
3. 申立から3ヶ月以内の期間で終了することが多い
通常年単位で長引くことが多い裁判ですが、労働審判の大きな特徴は「申立から解決までの期間が短い」という特徴があります。
平均して3ヶ月程度で終了し、平均的な審理期間は80.6日です。
4. 不当解雇・残業代請求・パワハラ等の紛争が対象
労働審判では労働者個人と会社の間の労働トラブルを扱っています。
労働者同士の揉め事や、会社と労働組合の間の紛争、労働関係以外のトラブルは労働審判では取り扱うことができません。
労働審判で争われるのは以下のような内容になります。
地位確認:解雇や雇止めの無効を求める裁判
未払い賃金請求
ハラスメントトラブル:セクハラ、マタハラ、パワハラなど
転勤命令や配置転換命令のトラブル
労働審判は、雇用主、労働者どちらからも申し立てることが出来ます。公務員は労働審判手続の対象外となり、労働審判の申し立てはできません。
参考:不当解雇とは?
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労働審判のメリット
労働審判とは、「労働者個人と会社との間で発生した労働トラブル」迅速に解決するための手続きです。以下でメリット・デメリットをお伝えします。
① 通常の訴訟と比べて早期解決が見込める
通常の訴訟で労働トラブルを争うより早期での解決が見込めます。通常は審理期間も1年以上かかり、費用も高額になるでしょう。審理期間が1年を超えるケースも珍しくありません。
労働審判の場合は原則3回の期日で審理が終了し、申し立てから3か月以内に終了した事件は全体の70.5%となっています。
参考:審理期間とは?
② 労働問題の専門家が参加する
上記で紹介した労働審判委員会が関与しますので、労働現場の実情に詳しい専門家の適切な解決案の提示が可能になります。
③ 口頭主義
通常の訴訟は準備書面と紙の証拠を交互に提出する形で主張、立証を行いますが、労働裁判は口頭で答える形で行われます。口頭で主張しないで書面だけで審理してもらうことはできません。
参考:準備書面とは?
④ 強制力がある
労働審判は、「呼び出しを受けた者が正当な理由なく欠席をすると過料の制裁を受ける強制力のある手続き」になっているため強制力のある手続きと言えるでしょう。
期日に出頭しなければ、事実上敗訴であり、申立人の言い分通りに労働審判が下される場合があるため、相手方(会社側)が出席する可能性は高いと言えます。
労働トラブルの解決制度は、労働審判だけでなく、労働局や労働委員会のあっせんなどがありますがあっせんのデメリットとしては、任意参加となる点で不参加の際にも何らかの不利益を被ることはありませんので労働審判を利用する方が理に適っています。
労働審判の判定は裁判上の和解と同じ効力があり、強制執行も可能となります。一例としては、会社に未払い賃金の支払いが命じられたのに会社が従わなかった場合は、会社の預金口座や資産に対する差し押さえが可能となります。
⑤ 労働者個人と会社との間に発生した労働トラブルが対象
労働審判は労働者個人と会社との間に生じた労働トラブルを解決するための制度となっており、労働組合(集団)と会社の紛争や、個人(上司や同僚など)を相手方とするパワハラ・セクハラ事案などは対象外となっています。労働者個人と会社との間のトラブルであっても、金銭貸借や不倫のように労働問題ではない事案も労働審判で審理することはできません。
あくまで個人対事業主との審判になりますので、職場全体の整理解雇や就業規則の不利益変更など、争点が複雑な事案は労働審判には適応されません。
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労働審判の4つのデメリット
①拙速な判断となる可能性がある
労働審判は、通常の裁判と比べて迅速に解決できますが、裁判所が検討に時間を掛けられないために誤った判断をしてしまう可能性があります。
通常の裁判では、長い期間をかけて、当事者双方が主張を行く体制をとっています。
上記の主張を支える証拠についても、当事者は時間をかけて情報を集め、取捨選択した状態で、裁判所へ提出することが可能ですが、労働審判の場合はそれができません。
また、相手の手元にある証拠が必要な場合は、各種裁判上の手段を使って開示を求めていくことも通常の裁判の場合は可能となります。
裁判所は、十分に主張が出揃って争点が明確になってから、慎重に法を適用して判断を下すこととなりますので誤った判断をする可能性は低くなります。
労働審判の場合は第1回目の期日までに、当事者が主張を出し尽くすのがポイントとなります。
そのため、準備不足だと主張内容が不十分となってしまう可能性があり、その主張の適否について、裁判所が検討する時間も限られます。
したがって、裁判所が誤った事実を認定し、不当な判断となってしまう可能性も否めないでしょう。
②関係者の証人尋問ができない
通常の裁判の場合、当事者双方が十分に主張をし合い争点整理が終わると証人尋問になります。
労働事件の場合は、当事者の主張内容を裏付けするために、労働者本人以外に上司や代表者(通常は中小企業の場合)などの尋問を行うことが典型的と言えます。
労働審判の場合にはこのような尋問手続は実施されていません(例外あり)
この証言などにおいては、尋問ではなく陳述書を提出する方法で取り調べが行われます。
陳述書のみの場合だと、本人に対して反対尋問を行うことができませんし、法廷においても本人応答の様子を直接観察することも出来ません。
通常の裁判と同じく労働審判においても、労働審判委員会から当事者に対して様々な質問が問いかけられるのが普通なので、その際、本人の様子を観察することはできます。
しかし、尋問の場合と異なり、自分が確認したい事項を直接、質問することは出来ません。
質問する機会があったとしても、極めて限定的な範囲にとどまるので期待は出来ません。
また、労働審判の場合は通常の裁判の尋問で実施されている「嘘をつかない」などの宣誓や偽証の場合の制裁や告知もありません。
そのため、相手が嘘を伝える可能性があることも懸念されます。
③会社代表者や労働者本人が直接審理に出席する可能性が高い
通常の裁判では、代理人を立てるため、依頼者本人が手続に出席することはほとんどありません。
多くの場合、会社代表者や労働者本人は、尋問のときに限って出席し、手続きは代理人が任されている場合が多いでしょう。
労働審判においては、通常、第1回目の期日に労働者本人や会社代表者が出席します。比較的大きな企業の場合は会社代表者が出席することは稀で、状況をよく知る責任者が出席します。
よって、直接の出席を望まない当事者にとっては負担になると思われます。
④付加金を加算できない可能性が高い
「残業代未払いの請求等のケース」に限りますが、労働者は本来の請求額プラス付加金を加算して請求することができます。
一例だと、未払い残業代が200万円の場合は付加金の請求が全額認められると、会社はその同額の200万円を加算し、合計400万円の支払いが請求されます。
労働審判において、裁判所はこの付加金の加算を認めません。
残業代は通常給与の25%プラスになるため高額になる場合が多いので、労働者にとって損だと言えるでしょう。
また、裁判においても、「会社が悪質な運営をしていない」などの事情があれば、付加金の加算は認められない傾向にありますが、労働審判と比べると付加金が認められる可能性は高いです。
したがって、少しでも多くの金額を獲得したい労働者の場合、労働審判より裁判のほうが得策といえるでしょう。
労働審判と訴訟の違いは?
労働問題の解決方法は1つではなく、裁判やあっせん等様々な方法があります。
ここでは他の方法と比べて費用面や効力などを見ていきましょう。
労働審判と裁判の違い
労働審判と裁判(民事訴訟)の同じ点としては、どちらも裁判所で行われる手続きということです。労働審判が「労働者と事業主の間の労働問題」だけを対象としているのに対し、民事訴訟にはこういった制限はなく、民事上のトラブル全般を対象としています。
また、労働審判は非公開で行われるのに対し、民事訴訟手続きは公開で行われる手続きになります。裁判の様子はどなたでも傍聴可能です。
民事訴訟は時間をかけて審理が行われるため、期日の回数に制限はありません。訴訟提起から訴訟終了まで1~2年程度かかることが予想されます。
労働審判は、訴訟と比較して短期間での解決を目指す手続きであり、3回の期日では解決の見込みが薄い事案には不向きと言えるでしょう。争点が複数あるような複雑な事案は初めから民事訴訟を選択するのがおすすめです。
・どちらも裁判所で行われる
・民事訴訟は民事上のトラブル全般
・民事訴訟は傍聴可能
・労働審判は3回の期日なので解決の見込みが薄い場合は不向き
・争点が複数あるような複雑な事案は民事訴訟を選択
労働審判と民事調停の違い
民事調停とは、「裁判所が間に入り、当事者双方の歩み寄りを促して、話し合いによって争いを解決することを目的とした手続きになります。」手続きは非公開になります。
労働審判は話合いがまとまらない場合において、労働審判という形で労働審判委員会の判断が示されます。民事調停はこのような制度がなく、相手方が調停に応じない場合や合意に至らない場合などは手続きは打ち切られます。
上記の説明からも民事調停は「相手が話し合いに応じる意思がない事案には不向き」と言えるでしょう。
・民事調停は話し合いで解決を目指す手続き
・労働審判は話合いがまとまらない場合に労働審判委員会の判断が示されるもので強制力あり
・民事調停は「相手が話し合いに応じる意思がない事案には不向き」
労働審判と少額訴訟の違い
少額訴訟とは「60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用することができる手続き」のことを言います。原則として1回で審理は終了し判決が下されるという特徴を持っており、裁判の様子をだれでも傍聴することが可能です。
少額訴訟を利用するのは「60万円以下の金銭の支払いを求める場合のみ」で、複雑な事案の解決には不向きといえます。労働トラブルの解決手段として活用できる場面は限られており、申し立てられた相手方が少額訴訟手続きでの解決に反対した場合においては、通常の訴訟手続きに移行する運びとなります。
・少額訴訟は「60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用することができる手続き」
・少額訴訟は原則として1回で審理は終了して判決が出る
・少額訴訟は複雑な事案の解決には不向き
・少額訴訟は労働トラブルの解決手段として活用できる場面は限られている
・申し立てられた相手が少額訴訟での解決に反対した場合は通常の訴訟になる
労働審判とあっせんの違い
あっせんとは「都道府県労働局または都道府県労働委員会で行われる手続き」を指し、双方の合意による解決を目的としており、第三者が間に入ります。
話し合いによる解決を目的としているので、当事者が合意しなければ、あっせんは打ち切りになります。裁判所で行われているその他の手続きとは異なり、申立費用は無料です。
あっせんへの参加は義務ではないため、申し立てられた相手方は、あっせんに参加するかどうかを自由に決めることが可能となります。参加しなかった場合も罰則は適用されません。
労働審判の場合には、調停や確定した審判の内容を相手方が履行しなかったとすると、強制執行によって相手方の財産を差し押さえることができます。一方、あっせんでの合意には労働審判のような効力はなく、合意内容をもとに強制執行(差し押さえ)は行えません。
・あっせんとは「都道府県労働局または都道府県労働委員会で行われる手続き」
・当事者が合意しなければあっせんは打ち切り
・あっせんの申立費用は無料
・労働審判の場合は判決により強制執行が可能
・あっせんは合意内容をもとに強制執行(差し押さえ)できない
労働審判と訴訟・あっせんの比較表
あっせんには労働局で行うものと、労働委員会が行うものがあり、民事訴訟と民事調停もまた異なります。これらの違いをわかりやすく表にまとめましたので参考にしてください。
労働審判 | 民事訴訟 | 民事調停 | 少額訴訟 | あっせん | あっせん | |
審査機関 | 地方裁判所 (労働審判委員会) | 簡易裁判所または 地方裁判所 | 簡易裁判所 (調停委員会) | 簡易裁判所 | 都道府県労働局 | 都道府県労働委員会(一部の都道府県を除く) |
金額 | 有料(訴訟のおよそ半分) | 有料 | 有料(訴訟のおよそ半分) | 有料(訴訟と同額) | 無料 | 無料 |
対象者 | 労働者と事業主間の労働トラブル | 民事全般 | 民事全般 | 民事紛争全般 (60万円以下の金銭の支払いを求める場合のみ) | 労働者と事業主間の労働トラブル | 労働者と事業主間の労働トラブル |
効力 | 強制執行可能(調停成立、審判確定の場合) | 強制執行可能 | 強制執行可能(調停成立、審判確定の場合) | 強制執行可能 | 強制執行不可(民法上の和解契約の効力) | 強制執行不可(民法上の和解契約の効力) |
特徴 | ・原則3回以内で終了(平均審理期間80.6日) ・非公開手続き ・調停または労働審判による解決 ・異議申立があると訴訟に移行する | ・平均審理期間は16.7月(令和3年) ・公開手続き ・和解または判決での解決 | ・非公開手続き ・話し合いによる解決が目的 ・合意しない場合は手続きは打ち切り | ・原則1回で終了 ・公開手続き ・和解または判決による解決 ・相手が少額訴訟手続きに反対した場合は訴訟に移行する | ・原則1回で終了 ・非公開手続き ・話し合いによる合意解決が目的 ・あっせんに参加するかどうかは任意 | ・期日の回数制限はなし ・非公開手続き ・話し合いによる合意解決が目的 ・あっせんに参加するかどうかは任意 |
労働審判の申立書の書き方
この内容は主に雇用主側に向けてのものになります。
裁判所から労働審判の呼出状が届いたら、まずは申立書の内容を確認しましょう。従業員の請求内容や主張内容を正確に把握することが重要です。
労働審判の申立書の内容は以下になります。(労働審判規則第9条)
・当事者の氏名または名称、住所、電話番号等
・申立ての概要
・申立ての理由
・予想される争点や争点に関連する重要な事柄
・申立に至る経緯(申立前に行われた交渉やあっせん等の経過や内容等)
当事者の氏名または名称、住所、電話番号等
当事者とは、申立人と相手方のことを指し、申立人は労働審判を申し立てた側のこと、相手方は申し立てられた側のこととなっています。
労働審判は労働者側から申し立てられるケースがほとんどなので、労働者が申立人、会社が相手方となります。
申立ての概要
申立人(労働者)が相手方(企業)に対して求める内容を表したものです。例えば、以下のような形で記載されることが一般的です。
▶事例1:解雇無効(地位確認)を求める場合
申立人が、相手方に対し、雇用契約上の権利を有する立場にあることを確認します。
▶事例2:未払い残業代の支払いを求める場合
相手方は、申立人に対し、〇万円及びこれに対する令和〇年〇月〇日から支払い済み分まで年〇分の割合による金員を支払い義務がある。
申立ての理由
この項目には、申立人が申立ての概要に記載した事項を求めることができる請求の根拠と、申立てに関する具体的な事実が記載される箇所になります。
予想される争点及び争点に関連する重要な事実
労働審判でのコツは申立の段階で相手方がどのような反論をするかを想定して、先回りして主張しておく決まりがあります。
この項目には、会社が主張すると予想される内容とそれに対する従業員の反論が書かれています。具体的には「会社はこう主張しますが、このような理由で自分の主張が正しい」という見解を述べる場面になります。
申立てに至る経緯
ほとんどの場合は申立前に交渉やあっせん手続きをしたが解決しなかったため、労働審判を申し立てたというケースです。何の前触れもなく労働審判を申し立てるケースは稀になります。
労働審判では、早期解決のため、申立前の経過も重視されます。申立書に「申立前の交渉」「あっせん手続きの状況等」を記載することとなります。
労働審判申し立てから手続きの流れ
ここまで読んでくださりありがとうございます。労働審判を申し立てる場合の準備と手続きの流れを見ていきましょう。
1 申し立ての前の準備
予想される争点に関する証拠の準備および申立書の作成をしておきましょう。
① 証拠
賃金の不払いの例を挙げてみましょう。証拠としては雇用契約書や給与明細、就業規則(賃金規定)、出勤簿、タイムカード、賃金台帳などが挙げられます。
解雇であれば、前述のほかに「解雇通知書」や「解雇理由証明書」なども証拠となります。
② 申立書(労働審判手続申立書)
申立書のひな形は裁判所のサイトに掲載されています。そちらを参考に作成してみてください。
証拠と申立書などの提出書類を揃えて、管轄の地方裁判所へ提出し、申し立てを行います。
2 手続きの流れ
手続き全体の一般的な流れを以下に記載します。
① トラブル発生から申し立て
管轄である地方裁判所に申立書を提出しましょう。申立書の内容は
・申し立ての趣旨・理由
・予想される争点に関する重要な事実
・申し立てに至った経緯の概要
などになります。
② 期日の指定
労働審判官から第1回期日について指定と呼び出しが行われます。
第1回期日は原則、申し立てから40日以内に設定される仕組みです(労働審判規則13条参照)。
③ 第1回審判期日
事実に関する主張と証拠調べて答弁書への反論などが行われます。
審理時間はおおむね2~4時間程度となっています。当事者は労働審判委員会から法的な見解を伝えられて、調停に関する意向の確認や説得を受けます。
証拠調べおよび、主張・反論は第1回期日でほとんど場合は終了します。
よって、第1回期日は最終的な結果に影響を与えるとても重要な場面です。
④ 第2回・3回審判期日
第2回期日は当事者の都合を考慮して、第1回期日の2週間~1か月後に設定される流れです。
第1回期日で確認できなかった事実関係などを除いて、基本的に第1回期日で事実関係の審理は終わっているので、第2回期日は調停でのやり取りが中心となっています。
第2回期日以降の追加書類・証拠の提出は基本的に認められておりません。(労働審判規則27条)。
多くのケースでは、第2回期日までに調停が成立、第3回期日までに合意しなかった場合は労働審判が下される仕組みとなっています。
3 労働審判の終わり方(終局)の種類について
労働審判の終わり方はどのようなケースがあるのでしょうか?主に「調停成立」「労働審判」「訴訟への移行」の3つになります。
ケース1 調停成立
話し合いがまとまると調停成立となります。
調停とは?
調停とは、「労働審判委員会が間に入り、当事者が譲歩しながら話し合いによって解決すること」を指します。
成立した調停の内容は調書に記載される決まりとなっており、裁判上の和解と同一の効力を持ちます。
妥協点が見つからない場合、労働審判委員会が見解や調停案を示す可能性もあります。
ケース2 労働審判
調停が不成立なった場合、労働審判委員会が事案の実情に即した労働審判を下します。
労働審判とは、通常の訴訟でいう判決に該当します。
事前に調停案が示されている場合については、その調停案とほぼ同じ内容の労働審判が言い渡されるケースも少なくありません。
異議申し立ては2週間以内となっていて、それ以降は審判が確定するため、異議申し立てを行うことはできません。確定した労働審判内容も裁判上の和解と同一の効力を有します。
ケース3 訴訟手続きへの移行
労働審判の告知から2週間以内に異議申し立てがあると労働審判は効力を失います。その後は通常の訴訟手続きへと移行します。
ケース4 そのほかの終わり方
上記以外には、「期日外での話し合いで和解が成立」するケースもあります。この場合は労働審判事件が取り下げられる流れとなります。一番平和なケースかもしれません。
くわえて、トラブルの内容が複雑で期日内に審判を終わらせるのが困難な事案は労働審判には向きません。この場合においては労働審判委員会が審判を出さずに事件を終了させて通常の訴訟手続きに移行するケースがあります。
労働審判はどんなときに利用するべき?
色々と書いてきましたが、労働裁判はどのような場合に利用するのが良いのでしょうか?以下で述べていきます。
(1)労働審判を利用すべき4つのケース
労働審判は短期間で迅速な解決が見込める手続きと言えるでしょう。
裁判官や労働の知識経験を有する専門家が加わるため、法的に妥当な内容での解決にも期待できます。調停および労働審判は確定判決と同一効力を持つため、強制執行によって金銭を回収することも可能となっています。
これらの利点を踏まえると、以下のようなケースで労働審判を利用するべきといえます。
・賃金の未払いや解雇などの生活に関わる問題の早期解決を図りたいケース
・会社の違法性を示す明確な証拠を持っていて法的な決着が見込めるケース
・会社に交渉を持ちかけても無視されて話が進まないケース
・未払いの残業代や損害賠償金などの金銭での解決を望むケース
(2)労働審判は、弁護士に依頼することを裁判所も推奨している
前述しましたが、労働審判には短期間で的確な主張・立証をしなければならず、書類作成や証拠集めも労力と人手が必要なため、裁判所も弁護士に依頼することを推奨しています。
「会社側から提出される答弁書や書類を精査し、審判の前に証拠を準備すること、審判期日では口頭で的確に言い分を述べること」は自身で行うのは大変難しいことです。
さらに期待する結果につなげることは容易ではないため、弁護士に依頼して進めるのがベストな選択であると言えるでしょう。
また、労働審判は当事者いずれかの異議申し立てによっても訴訟に移行する可能性があるため、会社側が徹底的に争う姿勢を示しているケースなどは、労働審判を申し立てても時間が無駄になってしまいます。
したがって、労働審判を申し立てるべきか、訴訟を提起するかの判断を含め、事件の当初から弁護士に相談のうえ、どの方向で訴訟するかを検討するのがよいと考えます。
申立にかかる費用
労働審判を申し立てる時に掛かる費用としては大きく分けて3つで「申立手数料」「郵券代」「弁護士費用」となっています。
(1)申立手数料
申立手数料とは、労働審判の申立てをするときに裁判所に支払うお金のことを指します。収入印紙で裁判所に納めるため、別名、「印紙代」と呼ばれます。申立手数料は、相手方に請求する金額(訴額)をもとに計算される仕組みです。
一例では、100万円の未払い賃金の支払いを求める場合、申立手数料は5,000円になります。請求額に比例して申立手数料も高くなります。
※手数料の金額は、裁判所「手数料」から
(2)郵券代
郵券代とは、「裁判所から事件の当事者へ書類を送付する際の郵便代」のことを指します。郵便切手の形式で納付するのが一般的で、「予納郵券」とも呼ばれます。
およそ2,000~4,000円程度になることが多く、余った郵便切手は労働審判終了後に返却になります。
必要な金額や切手の種類は裁判所によっても異なってくるため、事前に裁判所のホームページで確認するか、裁判所へ電話して確認しましょう。
(3)弁護士費用
「弁護士費用」は申立てにかかる費用で一番高額になります。
どのくらい費用がかかるかは、事案の内容や依頼する弁護士によって異なります。弁護士に頼まず、自分で申立てをすることも可能ですが、専門性が高い手続きなので弁護士に依頼しなければ対応が難しいでしょう。
法テラスの弁護士費用立替制度は労働者が経済的な余裕が無く、弁護士費用を支払うことが難しい人が利用することができます(利用には家庭の年収などの条件があります。なお、事業主側は法テラスの利用はできません)
会社側のダメージと解決金の相場
労働審判で会社が受けるダメージとしては、大きく分けて「金銭面のダメージ」と「労力面のダメージ」の2つになります。
金銭面のダメージは、労働者への解決金の支払いと弁護士費用があげられます。
解決金の金額は、事案によって大きく違いますが統計を見ると、解雇に関する労働審判事件の解決金の平均値は「285万円」となります(令和4年、厚生労働省統計)。
労働審判は会社側に不利な制度ではない
上記の通り、労働審判を申し立てられたら、会社側にも金銭面や労力面で一定の負担があります。
ただし、労働審判制度自体が、労働者側に有利な制度で会社側に不利な制度かというと、そんなことはありません。労働審判で紛争を解決することは、会社側にもメリットがあることが多いです。
会社側が有利になるケースとしては、会社側の主張にもかかわらず、解雇が不当解雇と判断されたり、あるいは未払い残業代があると判断されるようなケースは労働審判よりも訴訟の方が、会社が労働者に支払う金銭が高くなる傾向があります。
未払残業代請求訴訟で会社側に支払い義務があると判断されてしまうと、未払残業代に加えて、付加金の支払いを命じられるケースも多く、不当解雇を主張される訴訟で解雇無効と判断された場合には労働審判よりも支払いの期間が長くなること等が関係しています。
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