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「精神保健指定医」とは?役割と資格取得、やりがいについて解説

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精神保健指定医とは?

一般的な精神科医や心療内科医のプロフィールには、「精神保健指定医」という言葉が記載されていることがあります。しかし、通常の精神科医との違いは何でしょうか?

一部の医師は精神科医のキャリアパスを考える上で、精神保健指定医の資格を取得しようとしています。精神保健指定医は、通常の精神科医とは異なる役割を果たすため、資格の取得が必要です。この記事では、精神保健指定医と精神科専門医の違いから、精神保健指定医の職務内容や年収、やりがいなどについて解説します。

参考:精神保健指定医とは?

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精神保健指定医ができること

精神科においては、他の医療科とは異なり、患者の同意が得られなくても強制的に入院させることができる制度が精神保健福祉法で規定されています。この法律に基づき、都道府県知事や政令指定市長が患者の同意が得られない場合でも強制的な入院を命じることができます。医療機関の臨床現場における職務と、公務員としての職務。その2つを兼ね備えている点が特徴となります。

精神障害のある方は、その症状や行動によって、自分自身や他人に危害を加える可能性が高まる場合があります。こうした危険性がある場合、法的な手続きを経て都道府県知事や政令指定市長が強制入院を決定し、患者を保護するために入院措置が取られることとなります。

現在では入院を受け入れている精神科の医療機関において、精神保健指定医の配置が義務となっています。

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精神保健福祉法における指定医については以下のとおり定められています

精神保健指定医の定義

厚生労働省は、「精神保健指定医療においては、本人の意思によらない入院や一定の行動制限を行うことがあるため、これらの業務を行う医師は、患者の人権に十分に配慮した医療を行うに必要な資質を備えている必要がある」と述べています(厚生労働省「精神保健指定医とは」より)。この資質を有する医師として、厚生労働大臣によって指定されたのが「精神保健指定医」です。彼らは一定の実務経験や研修を経て指定されています。

精神保健指定医制度は、1987年(昭和62年)の精神衛生法改正により創設され、患者の人権に配慮した医療を提供することを目的としています。

「精神保健指定医」の指定要件は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第18条に明記されています(後述)。これは精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第19条4に規定された措置入院、緊急措置入院、医療保護入院など、任意入院以外の判断を職務として遂行できる法的な資格です。

参考:措置入院とは?

参考:緊急措置入院とは?

 

以下、精神保健福祉法による指定医の定めとなります。

  • 第十八条  厚生労働大臣は、その申請に基づき、次に該当する医師のうち第十九条の四に規定する職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者を、精神保健指定医(以下「指定医」という。)に指定する。
    • 一  五年以上診断又は治療に従事した経験を有すること。
    • 二  三年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有すること。
    • 三  厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること。
    • 四  厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修(申請前一年以内に行われたものに限る。)の課程を修了していること。

 

  • 2  厚生労働大臣は、前項の規定にかかわらず、第十九条の二第一項又は第二項の規定により指定医の指定を取り消された後五年を経過していない者その他指定医として著しく不適当と認められる者については、前項の指定をしないことができる。

 

  • 3 厚生労働大臣は、第一項第三号に規定する精神障害及びその診断又は治療に従事した経験の程度を定めようとするとき、同項の規定により指定医の指定をしようとするとき又は前項の規定により指定医の指定をしないものとするときは、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。

 

 

精神科専門医との違い

精神科専門医は、日本精神神経学会の定める研修を受けた後に認定される専門医資格です。通常、精神科専門医は患者さんの意に反した強制入院を指示することはできません。一方で、精神保健指定医は、精神科専門医としての業務に加えて、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第19条4に定められた任意入院以外の判断を職務として遂行できるのが大きな特徴です。

具体的には、任意入院以外のケースである措置入院が必要とされる患者に対して、精神保健指定医は独自の判断で入院を決定できます。一方で、精神科専門医が同様のケースで措置入院が必要と判断した場合でも、医師の権限としては直ちに入院を指示することはできません。そのような場合、精神保健指定医に診察を依頼し、その医師の判断を仰ぐ必要があります。

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精神保健指定医が創設された背景

精神科医療の現場では、患者本人の心身の保護や、家族や周囲の安全確保を目的とした強制入院など、患者の人権に直接影響を及ぼす措置が必要なケースがあります。これらの重要な決定を下す際には、患者の人権を擁護し同時に適切な医療を提供できる医師が必要とされています。

このため、昭和62年の精神衛生法改正によって精神保健指定医制度が創設されました。この制度は、患者の人権擁護に資する医師が一定の資質を有し、措置入院などの法的な判断を遂行できるようになることを目的としています。精神保健指定医は、患者の状態や医療ニーズに対応しながらも、人権と尊厳を最大限に尊重した医療を提供する使命を担っています。

参考:精神保健指定医制度とは?

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精神保健指定医の職務と年収について

ここでは、精神保健指定医の具体的な職務内容や年収について解説します。

精神保健指定医の職務

前述の通り、精神保健指定医の職務には、医療従事者としての業務と公務員としての業務の2つの側面が存在します。

■ 医療従事者としての臨床現場での職務

  • 任意入院者の退院制限
  • 措置症状の消退
  • 医療保護入院、応急入院
  • 身体拘束、隔離
  • 措置、医療保護入院の定期病状報告
  • 仮退院に関する診察や判定

 

■ 公務員としての職務

  • 措置入院の命令(※)、およびその解除
  • 精神科病院に対する指導監督規定の立入調査、診察、判定
  • 移送時の行動制限
  • 移送時の診察・判定
  • 精神医療審査会における調査権限の強化に伴う医院の診察
  • 精神障害者保健福祉手帳の返還命令時の診察

※自傷他害の可能性がある患者に対して行政が入院を命じるもの

これにより、精神保健指定医は、医療業務の一環として患者の心身の健康を保護するとともに、公務員としての職務を通じて法的な規制を行使し、患者の人権を適切に配慮する役割を果たしています。

参考:精神医療審査会とは?

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精神保健指定医の年収

精神科医の平均年収は約1,605万円前後とされています。

地域による給与の差が大きく、一般的に地方ほど給与水準が高くなる傾向があります。一般企業などの場合は、地方に比べて都心の年収の方が高いというケースが多くありますが、医師の場合は異なる実情がみられます。

ただし、給与額は勤務している医療機関の種類や勤務体系、精神科医本人の年齢などにも影響されますので一概には言えないようです。

精神保健指定医の資格取得は、精神科医にとってキャリアアップとなり、通常の精神科医よりも年収が増加する傾向があります。また、精神保健指定医の資格は転職の際の求人でも重要視されるポイントとなります。

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精神保健指定医の仕事のやりがい

精神保健指定医の資格は、特定の条件を満たし、厚生労働大臣の指定を受ける必要がある特別な国家資格です。

精神保健指定医は、患者さんの人権を守りつつ、本人に適切な医療を提供し、深く関わります。

また、家族や地域社会との協働を通じて患者さんの社会復帰を促進し、社会参画の機会を提供するなど、社会生活を総合的に支援します。この役割を通じて、患者の安全確保だけでなく、家族のサポートや地域社会の福祉に大きく貢献します。精神保健指定医の仕事は、重責を実感しつつも、彼らにしかできない専門的な職務であり、その実践においてやりがいを感じることができるでしょう。

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自分の判断が患者さまに影響を与える

最も大きなやりがいの一つは、「自分の判断によって、患者を守り、症状の改善に貢献している」点です。

特に、重度の精神障害を抱える患者の治療においては、一人ひとりの状態や症状に応じた個別の処置が求められます。同じ患者であっても、タイミングや状況によって適切な対応が変化することがあります。例えば、強制入院や身体拘束など、患者の意思にかかわらず法に基づいた行動制限が必要な場合、その要否を判断するのも精神保健指定医の役割の一環です。

精神科医の仕事は医療および非医療の両面でデリケートな要素が多いため、専門的な判断ができる精神保健指定医の立場で働くことで、医師たちはやりがいを感じています。さらに、他の診療科の医師や看護師、行政と連携する機会が多いことから、多様な職種とのコミュニケーションが必要であり、様々な経験を通じて知識とスキルを積み上げることができる点も、精神保健指定医の魅力の一部です。

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キャリアアップを実感できる

精神保健指定医の資格を取得するには、複数の条件をクリアする必要があり、これは精神科医の上位資格と言えます。そのため、この資格を取得することは明確なキャリアアップの一環であり、取得者には特別な専門性が期待されます。

資格を持たない精神科医よりも年収が高いことが一般的であり、また、医療機関も資格を有する医師を優遇する傾向があります。たとえば、厚生労働省の指針により、入院患者を受け入れる精神科医療機関には、必ず常勤の精神保健指定医が配置されています。このため、大規模な医療機関では「精神保健指定医が〇人在籍中」といった情報がアピールポイントとなり、求人募集の際にも強みとしてアピールされることがあります。

また、有床ではない精神科の求人でも、精神保健指定医資格を持つ医師が勤務する場合、診療報酬が加算されるため、求人応募が歓迎されるケースが多いです。

参考:精神科医療機関とは?

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資格の取得方法

次に、精神保健指定医資格の取得方法について詳しく説明します。この資格を取得するためには、事前に複数の応募資格を満たす必要があり、加えて提出書類、臨床経験、研修など様々な条件をクリアする必要があります。

資格取得の要件は以下の通りです。

  1. 5年以上の医療実務経験(診断または治療に従事した経験)を有していること。その中で、3年以上は精神科医としての臨床経験があること。
  2. 厚生労働大臣が指定する程度の診断または治療に従事した経験を有していること。
  3. 厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で指定された研修(申請前1年以内に完了したものに限る)の課程を修了していること。

参考:「精神保健指定医とは」 厚生労働省

それぞれ説明します。

5年以上の臨床経験(うち3年以上の精神科医としての臨床経験)

医師としてのキャリアの最初の2年間は初期研修医として過ごすこととなりますが、この期間も算定の対象となります。その後、精神科で3年以上の臨床経験を積むことで、医療実務経験に算入できるようになり、精神保健指定医の資格申請は医師免許取得後、最短5年で取得可能となります。

ただし、精神科には他の診療科から転科してくる医師も多く存在し、必ずしも精神科医としての臨床経験が5年である必要はありません。これにより、異なる診療科での経験を有する医師が精神保健指定医の資格を取得する場合はもう少し簡単になります。

厚生労働大臣が定める精神科臨床経験

「厚生労働大臣が定める程度の診断または治療に従事した経験」の確認には、申請時に提出されるケースレポートと口頭試験が行われます。

具体的には、精神保健指定医の申請には、5つの分野から5つの症例を集め、これらのケースレポートを提出する必要があります。その後、厚生労働省による口頭試験が行われます。提出するケースレポートには細かな要件が定められていますので事前に確認しておきましょう。ケースレポートの提出から約1年後に合否が発表されます。

口頭試験は質疑応答形式で行われ、ケースレポートに加えて、その他の症例に対する知識や医師の人間性に関する面も確認されます。これにより、精神保健指定医としての十分な専門性と医師としての資質が確認されるのです。

以前は研修会とケースレポートのみでしたが、精神保健指定医の不正取得を防ぐための「精神保健指定医の指定に関する要件・実施方法等の見直し」に伴い、2018年に口頭試問の追加、ケースレポート様式の見直しや指導医の要件見直しなどがされ、現在の認定制度に至っています。

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厚生労働大臣が定める研修の修了

3日間にわたって行われる「精神保健指定医研修会」への参加が資格取得の要件となります。精神保健指定医研修会では、主に精神保健福祉法などの法制度に焦点を当てて学習が行われます。受講料は約45,000円程度です。

重要な点として、申請前1年以内に行われた研修である必要があるため、日程に留意する必要があります。

※なお、令和3年7月1日以降の申請では新しい様式が導入されているため、新規申請の際には変更点に留意してください。

参考:精神保健指定医研修会 新規申請のための研修会

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新規申請の場合

新規申請の際には、申請書やケースレポートなどを都道府県を経由して厚生労働省に提出します。提出された書類は書面審査を経て、その後口頭試問の日時と場所が通知されます。口頭試問では、一対一で複数の審査員が対象者に対して質問を行い、最終的に精神保健指定医としての指定可否が決定され、その結果が通知される流れとなります。

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資格の更新方法

精神保健指定医の資格は、5年ごとに更新が必要とされています。更新のためには、5年ごとに実施される研修を受講し、その後に研修の実施団体を通じて都道府県知事または指定都市の市長に申請を行い、資格を更新します。5年ごとの研修を受けなかった場合、やむを得ない理由がある場合を除き、厚生労働大臣が認めるまで、当該指定は失効となります。

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精神保健指定医のこれから

厚生労働省の調査によれば、平成29年度時点で精神疾患を有する患者数は約419.3万人であり、2002年と比較して1.6倍以上増加しています。一方で、2018年12月31日時点の精神科医師総数は15,925人で、これは2002年の11,790人に対して1.35倍の増加に留まっています。

近年ではストレスの高まる社会環境と共にメンタルヘルスケアの重要性が認識され、超高齢化社会の進展に伴い、精神科を受診する患者数の増加が懸念されています。地域社会を支える精神保健指定医の需要は今後も高まるでしょう。

資格取得のための条件が多いですが、精神科医として3年以上の経験がある方にとっては、精神保健指定医を目指すことは一考価値があります。患者とその周りの人々に寄り添った医療を提供したいと考えている方にとって、やりがいのある資格と言えるでしょう。

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