ミルタザピン(リフレックス・レメロン)について
ミルタザピン(商品名:リフレックス/レメロン)は、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)に分類される比較的新しい抗うつ薬です。
現在、NaSSAに分類される薬は「ミルタザピン(商品名:リフレックス/レメロン)」のみで、2009年に発売されました。
ミルタザピンは、セロトニンとノルアドレナリンの働きを高める効果があり、
などに効果があるとされています。うつ状態だけでなく、他の不安障害の治療にも用いられています。
以下の文章では、商品名である「リフレックス」「レメロン」もすべて「ミルタザピン」として記載します。
参考:離脱症状について
ミルタザピンのミルタザピンの剤形と薬価
ミルタザピンはリフレックスという販売名で流通しており、
・15mg錠
・30mg錠
の2剤形で販売されています。
日本では2018年12月からジェネリック医薬品が発売となり、薬価が大幅に下がりました。
自己負担割合(1~3割)をかけた金額が、患者さんの自己負担になります。
参考:アカシジアとは?
こちらも参考に:精神科訪問看護のサポート内容。需要や具体的な事例をご紹介!
こちらも参考に:愛着障害(アタッチメント障害)大人の特徴|原因や治し方について
ミルタザピンの用法と効果のみられ方
軽症から中等症のうつ病では、SSRIやSNRIが主に使用されていますが、これらの抗うつ薬は効果が現れるまでに2〜3週間以上かかることが一般的です。これに対して、ミルタザピンは比較的短期間(1週間程度)で効果が現れる場合があります。
長期服用に関しては、成人の場合、1日1回1錠(15mg)から開始し、1週間以上続けた後に1日1〜2錠(15〜30mg)に増量します。眠気が強い薬であるため、通常は就寝前に服用します。
飲み始めは、眠気や倦怠感が強く出ることがあるため、初めは7.5mgの半量から始めることが一般的です。
「MANGA研究」と呼ばれる抗うつ薬を比較した有名な研究では、リフレックス(ミルタザピン)が最も高い有効性を示したと評価されています。
参考:SSRIとは?
こちらも参考に:リワークプログラム・リワーク支援(心療内科・精神科)とは | メンタルヘルス不調により休職している方の職場復帰
こちらも参考に:発達障害は遺伝する?原因は?兄弟間・親子間の確率など
半減期と最高血中濃度到達時間
ミルタザピンは効果が長い薬で半減期は32時間、最高血中濃度到達時間は1時間ですので、服用から33時間程度で効果が半分に落ちることになります。そのため、1日1回の服用で効果は持続します。
薬の血中濃度は、飲み続けていくことで安定していきます。半減期からおよそ4~5倍の時間で安定するといわれますので、安定には5日ほどかかる計算です。このようになると定常状態と呼ばれます。
服用後は自動車・自転車の運転や危険を伴う機械の操作には従事しないように注意しましょう。個人差はありますが、飲み始めの数日は特に眠気が強く出ると言われています。
参考:半減期について
参考:最高血中到達時間について
こちらも参考に:ニューロダイバーシティとは「標準」を変えていく実践的活動
適応となっている病気や症状
ミルタザピンは、2009年に日本でうつ病やうつ状態の治療薬として承認され、海外でも同様に使用されています。適応症は、うつ病やうつ状態に限られており、2018年12月からはジェネリック医薬品も販売されています。
日本での保険適用は2022年8月から始まり、それ以前は自費診療薬として広まっていました。
ミルタザピンは、不安や落ち込み、食欲不振にも効果があるため、不安障害や胃腸障害、嘔吐恐怖が認められる方にも使用されます。また、眠気が強く出るため、睡眠の自由が効く休職中の方や専業主婦に向いているとも言えます。
ミルタザピンは他の抗うつ薬とは異なる作用メカニズムを持つため、SSRIやSNRIで効果が得られなかった場合にも、ミルタザピンへの切り替えや併用によって改善が期待できます。
こちらも参考に:【ポイントや注意点は?】障害年金の受給要件と請求条件・年金額
日本での禁忌
ミルタザピンの投与が禁止されている患者は以下の患者になっています。
・MAO阻害剤(セレギリン塩酸塩)を投与中あるいは投与中止後2週間以内の患者
・本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者
となっています。
MAO阻害剤(セレギリン塩酸塩)が禁忌の理由は脳内ノルアドレナリン、セロトニン症候群、無顆粒球症、好中球減少症、痙攣、肝機能障害の神経伝達が高まると考えられています。
参考:MAO阻害剤(セレギリン塩酸塩)とは?
こちらも参考に:発達障害グレーゾーンとは?特徴や仕事探し、正確な診断、治療の可否
注意して使用する患者は以下の通りです。
妊婦・産婦・授乳婦への投与
添付文書では「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」とあり、積極的に勧められる状態にはないといえるでしょう。
こちらも参考に:就労継続支援A型とは?仕事内容と平均給料 | 利用までの流れ、B型との違いなど解説
こちらも参考に:特例子会社とは?職種や給与、働くメリットやデメリットについて
ミルタザピンの強さ。他の抗うつ薬との比較
ミルタザピンが抗うつ剤の中でどういった効果の位置づけとなるのか表にまとめてみました。
以下に効果を記述しておくので他の抗うつ剤と比較してみましょう。
タイプ | 商品名 | NA | 5-HT | 抗Ach | 抗a | 抗H1 |
三環形 | アナフラニール | +++ | +++++ | ++++ | ++ | +++ |
三環形 | トリプタノール | +++ | ++++ | ++++ | + | ++++ |
三環形 | トフラニール | +++ | ++++ | ++++ | + | ++++ |
三環形 | ノリトレン | ++++ | + | +++ | ++ | ++++ |
三環形 | アモキサン | ++++ | + | + | ++ | ++++ |
四環形 | テトラミド | +++ | – | + | +++ | +++++ |
四環形 | ルジオミール | ++++ | – | + | + | +++++ |
SSRI | パキシル | + | +++++ | ++ | – | – |
SSRI | ジェイゾロフト | – | +++++ | + | + | – |
SSRI | デプロメール/ ルボックス |
– | ++++ | – | – | – |
SSRI | レクサプロ | – | +++++ | – | – | – |
SNRI | サインバルタ | ++++ | +++++ | ± | – | – |
SNRI | イフェクサー | +++ | +++++ | – | – | – |
SNRI | トレドミン | +++ | ++ | – | – | – |
NaSSA | ミルタザピン | ++++ | +++++ | + | + | +++++ |
NaSSAであるミルタザピンは
・セロトニンとノルアドレナリンの効果が期待できるため、気持ちを安定させる
・抗ヒスタミン作用が強いため、食欲や眠気を増幅させる
と考えられるでしょう。
治療では他のお薬と併用することが多く、SNRI(サインバルタやイフェクサー)とは相性が良いと言われていて難治性のうつに用いる「カルフォルニアロケット療法」が有名です。
こちらも参考に:うつ病で現れる初期症状・行動・対策や仕事復帰を目指すときのポイント
こちらも参考に:療育(発達支援)とは?効果と早期療育の重要性。定義や施設について
ミルタザピンの副作用
重大な副作用として、以下があげられます。
セロトニン症候群、無顆粒球症、好中球減少症、痙攣、肝機能障害、黄疸、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、多形紅斑、QT延長、心室頻拍の報告があります。
服薬で異変を感じた場合はすぐにかかりつけ医に相談しましょう。
抗うつ薬によるレストレスレッグス症候群のリスク
こちらも参考に:場面緘黙とは?症状や治療方法・仕事選び
ミルタザピンでの副作用比較
ミルタザピンは臨床の成績も優秀で、うつによく効く薬ですが、「眠気」と「食欲増加」が2大デメリットで人によっては長期間継続する事が難しくなります。
また、男性より女性の方が1.5倍ほど体重増加が見られたとの報告があります。
それでも昔の抗うつ剤と比べるとずいぶんと副作用は少なく、新規抗うつ薬に分類されます。ミルタザピンの副作用について、他の抗うつ剤と比較してみましょう。
薬の副作用
便秘・口渇 | ふらつき | 眠気 | 体重増加 | 嘔吐・下痢 | 生機能障害 | 不眠 | ||
三環系 | トリプタノール | +++ | +++ | +++ | +++ | ± | ++ | – |
三環系 | トフラニール | ++ | ++ | + | ++ | ± | ++ | + |
三環系 | アナフラニール | +++ | ++ | + | ++ | + | ++ | + |
三環系 | アモキサン | + | + | + | ++ | – | ++ | ++ |
三環系 | ノリトレン | ++ | + | + | ++ | – | ++ | + |
四環系 | テトラミド | + | + | ++ | + | – | + | – |
四環系 | ルジオミール | ++ | ++ | ++ | ++ | – | ++ | – |
SSRI | ルボックス/ デプロメール | + | – | + | + | +++ | + | + |
SSRI | パキシル | + | – | + | ++ | ++ | +++ | ++ |
SSRI | ジェイゾロフト | – | – | ± | + | ++ | +++ | ++ |
SSRI | レクサプロ | – | – | + | + | ++ | ++ | ++ |
SNRI | サインバルタ | – | ± | ± | ± | ++ | ++ | ++ |
SNRI | イフェクサー | – | ± | ± | ± | ++ | ++ | ++ |
SNRI | トレドミン | – | ± | ± | ± | ++ | ++ | ++ |
NaSSA | ミルタザピン | – | ++ | +++ | +++ | – | + | – |
その他 | デジレル / レスリン | – | + | ++ | + | + | + | – |
その他 | ドグマチール | ± | ± | ± | + | – | + | ± |
その他 | トリンテリックス | – | – | ± | ± | ++ | + | + |
ミルタザピンには嘔吐や下痢といった胃腸障害が見られず、性機能障害や不眠の副作用が少ないとされている一方、眠気と体重増加は他の抗うつ薬と比べても強く出ているようです。
こちらも参考に:オランザピン(ジプレキサ)の効果と副作用
こちらも参考に:大人の発達障害【ASD女性の特徴】女性特有の事例と対策6選
ミルタザピンで太る2つの機序
なぜミルタザピンを服用すると太ってしまうのでしょうか。どのような点に注意して服用をすべきで、体重増加が生じてしまった場合はどのような対処法があるのでしょうか。
ここではミルタザピンで生じる体重増加と眠気について詳しくお話させていただきます。
こちらも参考に:発達障害グレーゾーンとは?特徴や仕事探し、正確な診断、治療の可否
ミルタザピンの抗ヒスタミン作用(脳内ヒスタミンH1受容体占有)
ヒスタミンは神経伝達物質の一つで、身体のさまざまな情報伝達に関与しています。例えば、
- アレルギー反応の引き起こし
- 胃酸の分泌促進
- 脳の覚醒レベルの向上
- 食欲の抑制
といった作用があります。
ヒスタミンには食欲を抑える効果があるため、抗ヒスタミン作用によってその働きをブロックすると、食欲が抑えられなくなり、逆に食欲が増進されることがあります。これが、体重増加や肥満に繋がる理由です。
さらに、ミルタザピンは脳内のヒスタミンH1受容体を強力に阻害するため、他の抗うつ薬に比べて眠気が強く現れることがあります。
また、研究によれば、脳内のヒスタミンH1受容体は10歳ごとに約13%減少することが報告されており、年齢を重ねるごとにミルタザピンによる眠気の副作用が出にくくなる傾向があります。そのため、花粉症などで抗アレルギー薬を服用して眠気を感じる人には、ミルタザピンによる治療はあまり適していないかもしれません。
こちらも参考に:大人の神経発達症(発達障害)とは ?ADHD・ASD症状や治療法について
こちらも参考に:心理検査の種類と目的。活用方法。発達障害の診断には使えるの?
ミルタザピンの鎮静作用
こちらも参考に:精神障害者手帳3級取得のメリット | 割引や控除割引や支援を紹介
ミルタザピンの抗5HT2c作用
こちらも参考に:診断書をもらえないケースについて解説。注意点、理由と対処法
こちらも参考に:朝起きれない病気の原因と対策|生活リズムを改善する方法
ミルタザピンと体重増加。対策法について
ミルタザピンを服用する際に、なるべく体重を増やさないようにするためにはどのような工夫をすれば良いのでしょうか?また体重増加が生じてしまった場合はどのような対策をとればいいのでしょうか。
こちらも参考に:大人のADHDの女性の特徴。よくある悩みと特徴を紹介
こちらも参考に:【令和6年(2024年)報酬改定】個別支援計画書(ISP)の書き方、留意点と記載例|放課後等デイサービス
まずは食生活・運動習慣の見直しを
抗うつ剤を服用していたとしても、規則正しい生活、適度な運動など生活を改善する行動を続けていれば、体重は落ちやすくなります。
運動・睡眠・食事を記録し自身の生活を見直しましょう。
抗うつ剤を服用していても、しかるべき行動をとっていれば、体重は落ちやすくなるため、体重が適正に維持される生活習慣を改めて見直してみましょう。
ダイエット方法としてこちらも参考にしてください。
こちらも参考に:ヘルプマークとは?対象者や配布場所、受けられる配慮。入手方法を紹介
こちらも参考に:情緒不安定の原因と対策、症状と対処法。考えられる病気の診断名
どうしても困るようなら減薬・変薬を
どうしてもミルタザピンによる体重増加が困るようであれば、ミルタザピンの量を減らしたり、他の抗うつ剤に変更したりといった方法を担当医と共に検討しましょう。
すでにある程度の量のミルタザピンを服用していて、その効果もある程度感じている場合
減薬を検討しましょう。
減薬すれば作用も弱まりますが副作用(体重増加など)の程度も軽減します。
作用と副作用のバランスが取れている用量を主治医と一緒に探していきましょう。
こちらも参考に:LD(学習障害)/限局性学習症(SLD)とは?神経発達症(発達障害)の種類と特性・特徴、困りごと、接し方など
「初期用量や低用量で体重増加が生じてしまう場合」 or 「一定期間服用を続けているのに抗うつ作用は分からず体重増加だけ生じている場合」
ミルタザピンの作用もほとんど得られていないのに、副作用だけが出ている状態になります。この状態ではミルタザピンを継続するメリットは乏しいため、別の抗うつ剤に変更することも検討しましょう。
よく用いられる代表的な抗うつ剤で体重増加が少ないのは以下になります。
などに変更を検討しましょう。
こちらも参考に:認知の歪みとは。具体例と治し方、ストレスに対処する方法紹介!
ミルタザピンの離脱症状と減薬方法
薬を減らす際には、離脱症状が現れることがあります。ミルタザピンは離脱症状が比較的少ない薬ですが、急に減量すると心身に不調が生じることがあります。
ミルタザピンの離脱症状としては、「耳鳴り、しびれ、吐き気、頭痛、イライラ、不安感」などが挙げられます。これらのリスクを最小限に抑えるためには、半錠ずつゆっくりと減量したり、服用間隔を徐々に延ばすなど、焦らずに段階的に調整することが重要です。
参考:離脱症状について
ミルタザピンのミルタザピンの剤形と薬価
ミルタザピンはリフレックスという販売名で流通しており、
・15mg錠
・30mg錠
の2剤形で販売されています。
日本では2018年12月からジェネリック医薬品が発売となり、薬価が大幅に下がりました。
自己負担割合(1~3割)をかけた金額が、患者さんの自己負担になります。
参考:NaSSAとは?
こちらも参考に:障害年金申請は「診断書」が9割!押さえるべき3つの注意点と流れ
こちらも参考に:オランザピン(ジプレキサ)の効果と副作用
ミルタザピンの歴史
オランダの製薬会社オルガノン社(現MSD社)は、1980年代に、既存の抗うつ薬テトラミドの構造を改良し、新しい抗うつ薬ミルタザピン(商品名:リフレックス、レメロン)を開発しました。ミルタザピンは、テトラミドと同じくピペラジノアゼピン系という化学構造を持つ化合物であり、テトラミドの副作用である強い眠気を改善した点が特徴です。
オルガノン社は、テトラミドの開発に続き、ミルタザピンを開発したことから、これらの薬剤を総称して「オルガノン3兄弟」と呼ぶことがあります。この「3兄弟」とは、テトラミド、テシプール、そしてミルタザピンの3つの薬剤を指します。
参考:精神薬一覧
こちらも参考に:リワークプログラム・リワーク支援(心療内科・精神科)とは | メンタルヘルス不調により休職している方の職場復帰
ミルタザピンの特徴
不眠や食欲不振を解消し、リラックス作用の期待できるミルタザピンですが、どのようなメリット・デメリットがあるのか以下にまとめてみました。
「メリット」
・効果がしっかりとしている
・1日1回、夜のみの服用で効果が期待できる
・不眠に有効
・食欲低下に有効
・吐き気や性機能障害が少ない
・独自の作用メカニズムでSNRIと相性がいい
・離脱症状が少ない
・ジェネリックが発売されている
参考:SNRIとは?
「デメリット」
・眠気が強い
・太りやすい
筆者の旦那もミルタザピンを飲んでいるのですが、上記2つのよく言われるデメリットの他に、「強い倦怠感」や「アカシジア」などの副作用を挙げていました。
テトラミドから改良されたとはいえ、眠気はやはり強いようです。
参考:アカシジアとは?
こちらも参考に:精神科訪問看護のサポート内容。需要や具体的な事例をご紹介!
こちらも参考に:愛着障害(アタッチメント障害)大人の特徴|原因や治し方について
ミルタザピンの用法と効果のみられ方
軽症から中等症のうつ病では、SSRIやSNRIが主に使用されていますが、これらの抗うつ薬は効果が現れるまでに2〜3週間以上かかることが一般的です。これに対して、ミルタザピンは比較的短期間(1週間程度)で効果が現れる場合があります。
長期服用に関しては、成人の場合、1日1回1錠(15mg)から開始し、1週間以上続けた後に1日1〜2錠(15〜30mg)に増量します。眠気が強い薬であるため、通常は就寝前に服用します。
飲み始めは、眠気や倦怠感が強く出ることがあるため、初めは7.5mgの半量から始めることが一般的です。
「MANGA研究」と呼ばれる抗うつ薬を比較した有名な研究では、リフレックス(ミルタザピン)が最も高い有効性を示したと評価されています。
参考:SSRIとは?
こちらも参考に:リワークプログラム・リワーク支援(心療内科・精神科)とは | メンタルヘルス不調により休職している方の職場復帰
こちらも参考に:発達障害は遺伝する?原因は?兄弟間・親子間の確率など
半減期と最高血中濃度到達時間
ミルタザピンは効果が長い薬で半減期は32時間、最高血中濃度到達時間は1時間ですので、服用から33時間程度で効果が半分に落ちることになります。そのため、1日1回の服用で効果は持続します。
薬の血中濃度は、飲み続けていくことで安定していきます。半減期からおよそ4~5倍の時間で安定するといわれますので、安定には5日ほどかかる計算です。このようになると定常状態と呼ばれます。
服用後は自動車・自転車の運転や危険を伴う機械の操作には従事しないように注意しましょう。個人差はありますが、飲み始めの数日は特に眠気が強く出ると言われています。
参考:半減期について
参考:最高血中到達時間について
こちらも参考に:ニューロダイバーシティとは「標準」を変えていく実践的活動
適応となっている病気や症状
ミルタザピンは、2009年に日本でうつ病やうつ状態の治療薬として承認され、海外でも同様に使用されています。適応症は、うつ病やうつ状態に限られており、2018年12月からはジェネリック医薬品も販売されています。
日本での保険適用は2022年8月から始まり、それ以前は自費診療薬として広まっていました。
ミルタザピンは、不安や落ち込み、食欲不振にも効果があるため、不安障害や胃腸障害、嘔吐恐怖が認められる方にも使用されます。また、眠気が強く出るため、睡眠の自由が効く休職中の方や専業主婦に向いているとも言えます。
ミルタザピンは他の抗うつ薬とは異なる作用メカニズムを持つため、SSRIやSNRIで効果が得られなかった場合にも、ミルタザピンへの切り替えや併用によって改善が期待できます。
こちらも参考に:【ポイントや注意点は?】障害年金の受給要件と請求条件・年金額
日本での禁忌
ミルタザピンの投与が禁止されている患者は以下の患者になっています。
・MAO阻害剤(セレギリン塩酸塩)を投与中あるいは投与中止後2週間以内の患者
・本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者
となっています。
MAO阻害剤(セレギリン塩酸塩)が禁忌の理由は脳内ノルアドレナリン、セロトニン症候群、無顆粒球症、好中球減少症、痙攣、肝機能障害の神経伝達が高まると考えられています。
参考:MAO阻害剤(セレギリン塩酸塩)とは?
こちらも参考に:発達障害グレーゾーンとは?特徴や仕事探し、正確な診断、治療の可否
注意して使用する患者は以下の通りです。
妊婦・産婦・授乳婦への投与
添付文書では「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」とあり、積極的に勧められる状態にはないといえるでしょう。
こちらも参考に:就労継続支援A型とは?仕事内容と平均給料 | 利用までの流れ、B型との違いなど解説
こちらも参考に:特例子会社とは?職種や給与、働くメリットやデメリットについて
ミルタザピンの強さ。他の抗うつ薬との比較
ミルタザピンが抗うつ剤の中でどういった効果の位置づけとなるのか表にまとめてみました。
以下に効果を記述しておくので他の抗うつ剤と比較してみましょう。
タイプ | 商品名 | NA | 5-HT | 抗Ach | 抗a | 抗H1 |
三環形 | アナフラニール | +++ | +++++ | ++++ | ++ | +++ |
三環形 | トリプタノール | +++ | ++++ | ++++ | + | ++++ |
三環形 | トフラニール | +++ | ++++ | ++++ | + | ++++ |
三環形 | ノリトレン | ++++ | + | +++ | ++ | ++++ |
三環形 | アモキサン | ++++ | + | + | ++ | ++++ |
四環形 | テトラミド | +++ | – | + | +++ | +++++ |
四環形 | ルジオミール | ++++ | – | + | + | +++++ |
SSRI | パキシル | + | +++++ | ++ | – | – |
SSRI | ジェイゾロフト | – | +++++ | + | + | – |
SSRI | デプロメール/ ルボックス |
– | ++++ | – | – | – |
SSRI | レクサプロ | – | +++++ | – | – | – |
SNRI | サインバルタ | ++++ | +++++ | ± | – | – |
SNRI | イフェクサー | +++ | +++++ | – | – | – |
SNRI | トレドミン | +++ | ++ | – | – | – |
NaSSA | ミルタザピン | ++++ | +++++ | + | + | +++++ |
NaSSAであるミルタザピンは
・セロトニンとノルアドレナリンの効果が期待できるため、気持ちを安定させる
・抗ヒスタミン作用が強いため、食欲や眠気を増幅させる
と考えられるでしょう。
治療では他のお薬と併用することが多く、SNRI(サインバルタやイフェクサー)とは相性が良いと言われていて難治性のうつに用いる「カルフォルニアロケット療法」が有名です。
こちらも参考に:うつ病で現れる初期症状・行動・対策や仕事復帰を目指すときのポイント
こちらも参考に:療育(発達支援)とは?効果と早期療育の重要性。定義や施設について
ミルタザピンの副作用
重大な副作用として、以下があげられます。
セロトニン症候群、無顆粒球症、好中球減少症、痙攣、肝機能障害、黄疸、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、多形紅斑、QT延長、心室頻拍の報告があります。
服薬で異変を感じた場合はすぐにかかりつけ医に相談しましょう。
抗うつ薬によるレストレスレッグス症候群のリスク
こちらも参考に:場面緘黙とは?症状や治療方法・仕事選び
ミルタザピンでの副作用比較
ミルタザピンは臨床の成績も優秀で、うつによく効く薬ですが、「眠気」と「食欲増加」が2大デメリットで人によっては長期間継続する事が難しくなります。
また、男性より女性の方が1.5倍ほど体重増加が見られたとの報告があります。
それでも昔の抗うつ剤と比べるとずいぶんと副作用は少なく、新規抗うつ薬に分類されます。ミルタザピンの副作用について、他の抗うつ剤と比較してみましょう。
薬の副作用
便秘・口渇 | ふらつき | 眠気 | 体重増加 | 嘔吐・下痢 | 生機能障害 | 不眠 | ||
三環系 | トリプタノール | +++ | +++ | +++ | +++ | ± | ++ | – |
三環系 | トフラニール | ++ | ++ | + | ++ | ± | ++ | + |
三環系 | アナフラニール | +++ | ++ | + | ++ | + | ++ | + |
三環系 | アモキサン | + | + | + | ++ | – | ++ | ++ |
三環系 | ノリトレン | ++ | + | + | ++ | – | ++ | + |
四環系 | テトラミド | + | + | ++ | + | – | + | – |
四環系 | ルジオミール | ++ | ++ | ++ | ++ | – | ++ | – |
SSRI | ルボックス/ デプロメール | + | – | + | + | +++ | + | + |
SSRI | パキシル | + | – | + | ++ | ++ | +++ | ++ |
SSRI | ジェイゾロフト | – | – | ± | + | ++ | +++ | ++ |
SSRI | レクサプロ | – | – | + | + | ++ | ++ | ++ |
SNRI | サインバルタ | – | ± | ± | ± | ++ | ++ | ++ |
SNRI | イフェクサー | – | ± | ± | ± | ++ | ++ | ++ |
SNRI | トレドミン | – | ± | ± | ± | ++ | ++ | ++ |
NaSSA | ミルタザピン | – | ++ | +++ | +++ | – | + | – |
その他 | デジレル / レスリン | – | + | ++ | + | + | + | – |
その他 | ドグマチール | ± | ± | ± | + | – | + | ± |
その他 | トリンテリックス | – | – | ± | ± | ++ | + | + |
ミルタザピンには嘔吐や下痢といった胃腸障害が見られず、性機能障害や不眠の副作用が少ないとされている一方、眠気と体重増加は他の抗うつ薬と比べても強く出ているようです。
こちらも参考に:オランザピン(ジプレキサ)の効果と副作用
こちらも参考に:大人の発達障害【ASD女性の特徴】女性特有の事例と対策6選
ミルタザピンで太る2つの機序
なぜミルタザピンを服用すると太ってしまうのでしょうか。どのような点に注意して服用をすべきで、体重増加が生じてしまった場合はどのような対処法があるのでしょうか。
ここではミルタザピンで生じる体重増加と眠気について詳しくお話させていただきます。
こちらも参考に:発達障害グレーゾーンとは?特徴や仕事探し、正確な診断、治療の可否
ミルタザピンの抗ヒスタミン作用(脳内ヒスタミンH1受容体占有)
ヒスタミンは神経伝達物質の一つで、身体のさまざまな情報伝達に関与しています。例えば、
- アレルギー反応の引き起こし
- 胃酸の分泌促進
- 脳の覚醒レベルの向上
- 食欲の抑制
といった作用があります。
ヒスタミンには食欲を抑える効果があるため、抗ヒスタミン作用によってその働きをブロックすると、食欲が抑えられなくなり、逆に食欲が増進されることがあります。これが、体重増加や肥満に繋がる理由です。
さらに、ミルタザピンは脳内のヒスタミンH1受容体を強力に阻害するため、他の抗うつ薬に比べて眠気が強く現れることがあります。
また、研究によれば、脳内のヒスタミンH1受容体は10歳ごとに約13%減少することが報告されており、年齢を重ねるごとにミルタザピンによる眠気の副作用が出にくくなる傾向があります。そのため、花粉症などで抗アレルギー薬を服用して眠気を感じる人には、ミルタザピンによる治療はあまり適していないかもしれません。
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ミルタザピンの鎮静作用
こちらも参考に:精神障害者手帳3級取得のメリット | 割引や控除割引や支援を紹介
ミルタザピンの抗5HT2c作用
こちらも参考に:診断書をもらえないケースについて解説。注意点、理由と対処法
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ミルタザピンと体重増加。対策法について
ミルタザピンを服用する際に、なるべく体重を増やさないようにするためにはどのような工夫をすれば良いのでしょうか?また体重増加が生じてしまった場合はどのような対策をとればいいのでしょうか。
こちらも参考に:大人のADHDの女性の特徴。よくある悩みと特徴を紹介
こちらも参考に:【令和6年(2024年)報酬改定】個別支援計画書(ISP)の書き方、留意点と記載例|放課後等デイサービス
まずは食生活・運動習慣の見直しを
抗うつ剤を服用していたとしても、規則正しい生活、適度な運動など生活を改善する行動を続けていれば、体重は落ちやすくなります。
運動・睡眠・食事を記録し自身の生活を見直しましょう。
抗うつ剤を服用していても、しかるべき行動をとっていれば、体重は落ちやすくなるため、体重が適正に維持される生活習慣を改めて見直してみましょう。
ダイエット方法としてこちらも参考にしてください。
こちらも参考に:ヘルプマークとは?対象者や配布場所、受けられる配慮。入手方法を紹介
こちらも参考に:情緒不安定の原因と対策、症状と対処法。考えられる病気の診断名
どうしても困るようなら減薬・変薬を
どうしてもミルタザピンによる体重増加が困るようであれば、ミルタザピンの量を減らしたり、他の抗うつ剤に変更したりといった方法を担当医と共に検討しましょう。
すでにある程度の量のミルタザピンを服用していて、その効果もある程度感じている場合
減薬を検討しましょう。
減薬すれば作用も弱まりますが副作用(体重増加など)の程度も軽減します。
作用と副作用のバランスが取れている用量を主治医と一緒に探していきましょう。
こちらも参考に:LD(学習障害)/限局性学習症(SLD)とは?神経発達症(発達障害)の種類と特性・特徴、困りごと、接し方など
「初期用量や低用量で体重増加が生じてしまう場合」 or 「一定期間服用を続けているのに抗うつ作用は分からず体重増加だけ生じている場合」
ミルタザピンの作用もほとんど得られていないのに、副作用だけが出ている状態になります。この状態ではミルタザピンを継続するメリットは乏しいため、別の抗うつ剤に変更することも検討しましょう。
よく用いられる代表的な抗うつ剤で体重増加が少ないのは以下になります。
などに変更を検討しましょう。
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ミルタザピンの離脱症状と減薬方法
薬を減らす際には、離脱症状が現れることがあります。ミルタザピンは離脱症状が比較的少ない薬ですが、急に減量すると心身に不調が生じることがあります。
ミルタザピンの離脱症状としては、「耳鳴り、しびれ、吐き気、頭痛、イライラ、不安感」などが挙げられます。これらのリスクを最小限に抑えるためには、半錠ずつゆっくりと減量したり、服用間隔を徐々に延ばすなど、焦らずに段階的に調整することが重要です。
参考:離脱症状について
ミルタザピンのミルタザピンの剤形と薬価
ミルタザピンはリフレックスという販売名で流通しており、
・15mg錠
・30mg錠
の2剤形で販売されています。
日本では2018年12月からジェネリック医薬品が発売となり、薬価が大幅に下がりました。
自己負担割合(1~3割)をかけた金額が、患者さんの自己負担になります。