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メンタルケアの新手法、オープンダイアローグとは?役割や7つの原則

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オープンダイアローグとは

最近では、1980年代にフィンランドで開発され、発展したオープンダイアローグが注目を浴びています。現代において、精神疾患の治療には多岐にわたる手法が存在しますが、その中で患者に薬物治療を行わずに「対話」だけで回復させるという手法がオープンダイアローグです。

統合失調症やうつ病に対して高い効果を発揮する実績が高く評価されています。特に、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で孤独感や依存症のリスクが高まり、家族との距離感が変わる中で、心身の疲労が増す状況も考慮されます。

オープンダイアローグは医療現場だけではなく、福祉や教育などの現場でも応用可能となっています。

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対話によって自然に問題が解決されていく

最近では、日本でも精神医療に従事する専門家向けのオープンダイアローグの教育研修が始まり、精神医学の学会でも講演やワークショップが盛んに行われています。

オープンダイアローグは主に発症初期の統合失調症患者への治療的介入手法です。この手法には、実践のためのシステムやケアの思想も含まれています。通常、臨床の現場では医師と患者が1対1で向き合うイメージがありますが、オープンダイアローグでは、患者、家族、専門家チーム(医師、看護師、心理士など)が輪になって「開かれた対話」を行います。また、その対話の最中には、専門家同士が感じたことを話し合い、それを当事者たちに共有するリフレクティングも行います。こうした相互作用によって、自然な回復が促進されます。

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「治療」や「解決」を前提としない唯一の療法

フィンランドのケロプダス病院では、事前の打ち合わせや台本もなく、患者や家族から連絡をもらったら24時間以内に専門家チームが結成され、自宅を訪問し「お話を聞かせてください」といって対話が始まります。

参加者は、患者本人と家族、友人など。患者さんが話したいと思う人を交えて対話をします。専門家チームは医師、看護師、心理士、トラウマセラピストなどで構成され、病院の外来、または訪問で行われます。

病状や症状はとりあえずおいておいて、「あくまでも患者さんが何に困っているかを、みんなで一から聞いていきましょう」というスタンスです。

「ノープランで臨め」が基本ルールです。オープンダイアローグは「治療や解決を目的としない、ほぼ唯一の手法」であると言えるでしょう。

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オープンダイアローグの効果

オープンダイアローグによるアプローチは、統合失調症クライエントの入院治療期間を短縮させたり、再発を防いだりする効果が報告されています。さらに、薬物治療の使用率を低下させる効果も確認されており、急性期の精神病治療においてエビデンスが確立され、世界各国での導入が進んでいます。

それまでの慣習では、本人や家族が不在の状況で治療方針が定められていました。しかし、オープンダイアローグでは、本人と家族を意思決定の場に招き入れ、ますますその声を尊重しようとしました。この変化により、入院患者が40%も減少するという好結果が生まれました。これは、以前は本人の声がほとんど聞かれなかったこと、そして家族の意見が無視されていたことを如実に物語っています。

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オープンダイアローグの7つの原則

オープンダイアローグには、「実践を可能にする精神医療システムの原則を表す5つの基本的な原則」(1から5)、および「オープンダイアローグにおける対話実践の理念や思想を表す2つの原則(6と7)」があります。

1. 即時対応

即時対応は、必要に応じてただちに対応することを指し、初回の連絡から24時間以内に治療チームを組織して対応します。24時間以内の対応が難しい場合でも、クライエントのニーズに柔軟に対応し、できるだけ早い段階でサポートを提供できるよう努めています。精神的な症状はクライエントにとって以前は言葉で表現できなかったような思いや体験の現れであり、これが最初の数日間に限られて表れることが一般的です。

2. 社会的ネットワークの視点をもつ

オープンダイアローグでは、患者本人だけでなく、その周囲の家族や友人など周りの人とのかかわりに注目する視点が大切です。患者本人とかかわりのある人をできるだけ集めて、一緒に話を聞きます。クライエント、家族をはじめ、友人や知人など、つながりのある関係者をみな、ミーティングに招くこともオープンダイアローグの概念の中では重要です。精神的な症状はクライエント本人だけでなく、クライエントを取り巻く人々との関わりの中で起きているという考え方に基づいています。クライエントと家族の話を別々の場で聴くことは避け、大切なつながりのある人はできるだけミーティングに参加してもらうように話し合います。

3. 柔軟性と機動性

その時々のニーズに合わせて、どこででも、何にでも柔軟に対応することを意図した原則で、ニーズがあれば自宅ででも、毎日でもミーティングを行い、柔軟性と機動性を重視します。

4. 責任

オープンダイアローグでは、クライアントが保健所や行政、学校などにかかわる必要があるときに、クライアントをたらいまわし状態にすることを許しません。治療チームは必要な支援全体に責任を持って関わります。関係機関の担当者と一緒に対話を実施し、責任をもって治療にあたります。他の医療機関や他の部門の支援が必要な時には、クライエントだけを受診させるのではなく、治療チームがでかけていったり、他の期間の人たちを治療ミーティングに招いたりしてともに対話します。

5. 心理的連続性

この原則は、クライエントをよく知っている同じ治療チームが最初から続けて連続的に対応することを意味するものです。患者をよく知っている人物がチームに居続けることで、心理的連続性を維持し、治療プロセスの全体において、様々な支援を一つのまとまりのあるものとして統合して相互の効果を高め合うようにします。

6. 不確実性に耐える

問題が起きたときに、解決や結論を急がないようにします。オープンダイアローグは、根気強く対話を続けることで、独自の最適な答えを出していくプロセスを重視します。結論を急がずに葛藤や相違があったとしても、答えのない不確かな状況に耐えることを意図した原則で、クライエント、家族、関係者の多様な意見を共存させ続けるように考えることを目指します。対話を続ける中で、クライエントに適合した独自の治療方針が見えてきます。

7. 対話

オープンダイアローグにおいて、対話することは治療を達成するための手段ではなく、それ自体が目的であり、問題の解決はその先に現れるものであると考えます。治療チームのスタッフはいかなる状況にあるクライエント、家族、関係者とでも対話を続けられるように対話の力を磨き続ける必要があります。スタッフは患者や家族、関係者がどんな状態であっても対話を続け、対話を重視します。オープンダイアローグにおいて、対話は解決のための手段ではなく、対話自体を目的としてとらえます。

カウンセリングやグループミーティングとの違いは?

従来の手法が「1対1」または「1対多」というミーティングだとすると、オープンダイアローグは「N対N(チーム対チーム)」で行うという点が大きく違います。

チーム制で行うメリットはいくつかあります。まず、権力構造や二者関係から解放されます。医者と患者の関係では、「医者が言ったことは重い」「医者はエライ」「医者の言うことを聞かなければならない」という前提が出来上がってしまいます。そうした権力構造の下にある環境では、患者さんは自由にものを言えなくなり、共依存(特定の相手との関係にとらわれている状態)やハラスメントといった問題も起きがちです。そうしたヒエラルキーをなくすためにも、チーム制はとてもいい方法です。全員が対等な立場で場に臨むことができるように、ミーティングの場では医者を「先生」とは呼ばずに互いを「さん」づけで呼び合うことも大切なルールです。

また、オープンダイアローグには「その人がいないところで、その人の話をしない」というルールがあります。つまり、これは患者不在のところで治療方針を決めないということであり、患者の尊厳や知る権利を尊重することにつながります。オープンダイアローグでは上下関係がない、薬もほとんど使わない、そして患者の人権が守られる。このような倫理的な環境で行うので、患者だけでなく、治療者側も実はすごく楽なのです。

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オープンダイアローグにおける対話実践の12の基本要素

(1)2人以上のセラピストの参加

オープンダイアローグでは、2人以上のセラピストがチームを組み、協力して対話することが重要視されています。治療ミーティングでは、2人以上のスタッフが継続的に関与し、その中で一人が話を聞き、もう一人が質問を投げかけるなど、チームワークを活かした対話が実現します。

(2)家族や社会ネットワークメンバーの参加

オープンダイアローグでは、治療ミーティングにはじめからクライエント、家族、およびつながりのある人々を招きます。このアプローチでは、家族や社会ネットワークのメンバーが最初から対話に参加することが価値ある要素とされています。これにより、患者以外の関係者の参加による多面的な視点がもたらされ、対話がより豊かに進展します。

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(3)開かれた質問を使う(オープンクエッション)

治療ミーティングの冒頭では、「はい」「いいえ」で答えることのできる質問であるクローズドクエスチョンとは異なり、「はい」「いいえ」では答えづらく、深い探求を促すオープンクエスチョンが用いられます。「今日ここに来るという考えに至った経緯は何ですか?」や「このミーティングをどのように使いたいですか?」などが、オープンダイアローグの始まりにおいてよく利用されるオープンな質問です。

(4)クライアントの発言に応答する

クライエントの語りに対しては、クライエント自身の言葉を取り入れ、繊細で注意深い傾聴と共に、言葉以外の手段である沈黙などの非言語的な反応にも配慮し、丁寧に応答します。対話を促進するためには、クライアントが述べた内容に対してクライエントの言葉や表現を使って応答することが大切であり、また、傾聴に焦点を当てることも効果的です。

(5)今この瞬間を重視

オープンダイアローグでは、ミーティング中にクライアントやその家族の反応や感情を注視し、それらを積極的に取り上げながら対話を進めます。クライアントや家族がどのようなやりとりをしているか、どのような感情が生じているかに焦点を当て、その場で起きていることに対話を通じてアプローチしていきます。ミーティング内でのクライアントや家族の即時的な反応や感情に重点を置くことで、クライエントが安心して自分の気持ちを表現できる場を提供します。

(6)多様な観点を明るみに出す

オープンダイアローグでは、様々な視点や意見を尊重し、対話の場での意見の一致を追求するのではなく、多様な意見を重視して創造的な意見交換を促進します。参加者それぞれの考えや感じ方の多様性を尊重し、異なる意見でも全てを傾聴し、尊重することがこの手法の重要な原則です。

(7)関係が強調される点をつくる

オープンダイアローグでは、人と人とのかかわりが理解できるようなタイミングを意図的につくることがあります。たとえば、家族間の関係に焦点を当てた質問などを通じて、人間関係の質を強調する要素を導入します。これにより、個人だけでなく、個人を含む関係性を理解できるようになります。対話の場では、お互いの人間関係に対する反応や感情を大切にし、ミーティング中に人間関係に関する質問を通して、関係性にかかわる要素を丁寧に扱っていきます。

(8)問題発言や問題行動への対応

オープンダイアローグでは、一見問題に見える言動であっても、困難な状況への「意味のある」反応であると捉え、適切に対応します。病的なものとして問題視するのではなく、その言動がクライエントにとってどのような意味を持つのかを考えていきます。ミーティング中には問題発言や問題行動が見られることもあり、これに対しては単に間違いを指摘するのではなく、その発言や行動がどのような意味を持つのかに焦点を当てることが重要視されます。

(9)クライアント自身の言葉と物語を重視

オープンダイアローグにおける対話では、クライアント本人に何が起こったのか、どのような考えや感情体験があったのか話すように促し、対話の参加者全員がクライアント本人の発言の細かい点に注目して会話を進めます。単なる症状の報告ではなく、クライエントの言葉や物語に耳を傾け、経験や考え、感情も含めながら話すように促し、ミーティングの参加者がクライエントの体験を共有しやすくなるように努めます。

(10)専門職同士の会話(リフレクション)

治療ミーティングでは、スタッフ同士が参加者たちの語りを聞いて心が動かされたこと、浮かんできたイメージ、アイデアなどを参加者の前で話し合い、時間を取ります。これはリフレクティングとも呼ばれ、スタッフはクライエントたちの方を見ずに、スタッフ同士だけ顔を見合わせながら行います。そうすることで、クライエントたちは「話す時間」と「聞く時間」を分けることができ、リフレクティングが終わったらその話し合いについてクライエントたちがどう感じたかに耳を傾けます。

オープンダイアローグには、医師や看護師、臨床心理士など複数の専門家が同席します。専門職同士がクライアントや家族の前で会話し、あえてクライアントに観察させるリフレクションがおこなわれます。

(11)透明であること

透明であることは、治療にかかわる会話の内容が、参加者全員に共有される状態のことを意味します。治療についての選択肢などの話し合いが、全員の前でなされるなど情報の透明性が重要視され、本人のことは本人のいないところでは決めません。いわゆる「透明性」のことで、治療に関するすべての会話が参加者全員で共有されます。

(12)不確かさに耐える

「答えのない不確かな状況に耐えること」は、オープンダイアローグの7つの原則でも出てきたと思います。結論を急がずに多様な意見を受け入れ、クライエントに適合した治療方針を検討していきます。この原則は、危機的な状況や診断に対して急いで結論を出さず、むしろ不確かさに耐えることを強調しており、対話の中でも誤った判断や決断を避ける助けとなります。

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オープンダイアローグをおこなうときのポイント

上記と重複してしまいますが、改めて重要なポイントをお伝えしようと思います。

治療チームは複数人で

対話の基本要素として、「セラピストは2人以上でおこなう」というポイントがありますが、オープンダイアローグにおいては、治療チーム側も最低2名体制で行うことが推奨されています。

治療者とクライアントが一対一になると、治療者と被治療者という上下関係が生じやすくなります。このような上下関係を避け、さまざまな関係性における対話を深めていくためにも、治療チームは2人以上でオープンダイアローグを実施することが重要です。

対話自体が目的である

オープンダイアローグにおける対話は、クライアントを説得したりアドバイスを与えたりすることを目的としていません。むしろ、対話をすることそのものが目的です。

各参加者が自分の考えや感じたことを発言し、お互いに関心を向け合うプロセスが重視されています。治療者側が「症状を改善しよう」「入院するように説得しよう」といったアプローチに走りがちですが、オープンダイアローグでは議論を避け、対話自体が目的であることを意識して行動することが大切です。

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「ちゃんと聞いてもらえた」という体験が人を変えていく

オープンダイアローグは、複数の専門職とクライアント、その家族などの関係者が一堂に集まり、対話を深める手法です。

クライアントはオープンダイアローグの対話によって、話を聞いてもらえたという実感を得やすくなり、自発的に発言する意欲が高まります。この自発的な発言が増えることで、治療者側もクライアントの困りごとや悩みをより深く理解できるメリットが生まれます。

オープンダイアローグは、医療機関以外の福祉や教育など、様々な場面での活用が可能な技法です。臨床の現場だけでなく、他の領域でも適用できる選択肢として検討してみることをお勧めします。

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