非自殺的な自傷行為と自殺行動は、どちらも深刻な問題ですが、本質的な違いがあります。混同しがちな両者の違いを理解することは、適切な支援を提供するために重要です。
発達障害や精神障害を持つ方の中には自傷行為を行ったことがある方も多いのではないでしょうか?
この記事では自傷行為の懸念がある、発達障害や精神疾患の方に向けて「非自殺的な自傷行為と自殺行動の違い」や治療、予防法などを書いています。
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自傷行為とは
自傷行為は、われわれの臨床においてしばしば遭遇する問題です。「自らを傷つける」行為には、状況によって様々な種類があります。
最も悲惨な自傷行為は、うつ病の症状として行われる自死志向の行動です。しかし、自殺を直接的に意図しない自傷行為も多く存在します。
身体を直接傷つける行為以外にも、アルコール依存、衝動買い、ギャンブル依存、性的放縦などが、広義の自傷行為に含まれます。
精神分析学の創始者であるフロイト.Sは、このような無意識のうちに自分を傷つける行為を説明するために、「タナトス(死の本能)」という概念を提唱しました。
自傷行為は、意図的に身体を傷つける行為として定義されます。切る、焼く、叩くなど、感情のコントロールや内的な苦痛の緩和を試みるものです。
思春期や若年層に多く見られ、うつ病、不安障害、過去のトラウマなどが原因として挙げられます。
健康への害や長期的な精神的悪化のリスクがあり、決して軽視すべきではありません。
10人に1人が経験し、6割が10回以上繰り返すとも言われています。
多くの人が病院を受診せず、支援を必要としているケースも少なくありません。
自傷行為は、他人の視線の届かないところで開始されることが多く、最初は自殺を目的としていても、次第に治療的な効果を求めるようになります。
耐えがたい心の痛みを、身体の痛みで和らげようとするのです。
しかし、身体の痛みに慣れてしまうと、自傷行為はエスカレートし、致死的な自傷に繋がる可能性もあります。
自傷行為は、周りの人が気づかないうちに進行してしまうケースも多くあります。
「本当に死ぬ気はない」、「注目を浴びたいだけ」と軽視せず、周囲の人は注意深く対応し、支援していくことが大切です。
自傷行為は、単なる心の弱さではなく、深刻な問題です。
専門的な治療やサポートを受けることで、改善することが可能です。
自傷行為に悩む方や、周囲に自傷行為をする人がいる場合は、一人で抱え込まず、専門家に相談しましょう。
参考:フロイト.Sとは?
参考情報
- うつ病患者会: https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_kango_20220705.pdf
- 精神障害者家族会: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A8%E5%9B%BD%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E8%80%85%E5%AE%B6%E6%97%8F%E4%BC%9A%E9%80%A3%E5%90%88%E4%BC%9A
- NPO法人: https://seniornet.ne.jp/
- 国立精神・神経医療研究センター: https://www.ncnp.go.jp/
- 精神障害者保健福祉手帳: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/techou.html
- 就労支援サービス: https://www.mhlw.go.jp/index.html
- 生活支援サービス: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/index.html
非自殺的な自傷行為
非自殺的な自傷行為について
手首をカミソリで切るような行為は、一見すると自殺企図と区別がつきません。しかし、非自殺的な自傷行為は、死を目的とするものではなく、心の叫びなのです。
自傷行為をする人は、「死にたい」という気持ちを抱いているとは限りません。むしろ、つらい感情や苦痛から逃れるための方法として、自傷行為に頼ってしまうのです。
タバコの火で体を焼くなど、明らかに死に至らない行為を繰り返す人もいます。医師も、このようなケースでは自殺の意思は確認できないと判断します。
しかし、油断は禁物であり、初めて自傷行為を行った際には、本人の真意が判断できないこともあります。薬の過剰摂取など、結果的に命を落とす可能性も否定できません。
自傷行為を繰り返す人は、長期的には自殺に繋がる可能性も高くなります。医師や家族は、非自殺的な自傷行為であっても、決して軽視すべきではありません。
主な自傷行為の例
- 鋭利なもので皮膚を切る・刺す
- 皮膚を焼く
多く見られる特徴
- 青年期初期に発症
- 境界性パーソナリティ障害、特に、反社会性パーソナリティ障害、摂食障害、物質使用障害(アルコール使用障害を含む)、自閉症などの精神疾患を併発していることが多い
- 女性の方がやや多い
- 年齢とともに減少
- 同じ部位に繰り返し傷をつける
- 前腕や太ももなど、目立たない部位を選ぶ
- 自傷行為に関する考えにとらわれる
- 手首自傷(リストカッティング)
- 精神安定剤や鎮痛剤などの大量服薬(オーバードーズ)
- 拒食症や過食・嘔吐の食行動異常
車やバイクで暴走するような身体的危険行動
深夜に1人で繁華街や治安の悪い地域を歩くような状況的危険行動
見知らぬ人と避妊せずにセックスするような性的危険行動
自傷行為の理由
- つらい感情を和らげる
- 対人関係の悩みを解消する
- 自責の念から自分を罰する
- 助けを求める
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非自殺的な自傷行為の診断
非自殺的な自傷行為は、深刻な問題であり、適切な診断と治療が必要です。医師は、診察、問診、心理検査などを総合的に行い、非自殺的な自傷行為と診断します。
診断のプロセス
- 診察・外傷の確認: まず、医師は診察を行い、治療を必要とする外傷がないかどうかを確認します。
- 非自殺的な自傷行為の判断: その後、医師は患者の意思、理由、気分などを評価し、問題の行為が死ぬことを意図したもの(自殺行動)であったか、そうではない行為(非自殺的な自傷行為)であったかを判断します。
- 患者の意思: 自殺するためではなく、負の感情から解放されるために自分の体を傷つけていると答える場合が多いです。
- 行為の頻度と方法: 死に至る可能性が低い方法を繰り返し選択している場合もあります。
- 自殺リスクの評価:
- 患者と親しい人と面談: 患者の気分の変化や生活上のストレスについて質問します。
- 本人の問題意識: 本人が自傷行為を問題だと考えていなければ、その行為について話そうとしないこともあります。
- 対話による問題意識の喚起: 医師は、患者の話に耳を傾け、その体験を真剣に受け止めることで、患者がどのように感じているか、その感情がどのようにして自傷行為につながったかを理解し、問題意識の喚起を促します。
- 詳細な状況把握:
- 自傷行為の方法: どのようにして自傷行為を行うのか、また何種類の方法で行うのか(例えば、皮膚を焼くのか、切るのか)
- 頻度: 自傷行為の頻度はどれほどか
- 継続期間: 自傷行為をどれくらいの期間続けているか
- 目的: 自傷行為自体にどのような目的があるか
- 治療への意欲: 治療に参加する意思はどれほどあるか
- 併存する精神疾患の確認: うつ病や解離性障害などの他の精神疾患がないか確認します。
- 自殺企図の推定: 自殺を試みる可能性を推定します。
自傷行為を話せることの重要性
自傷行為をしている多くの人は、誰かに自傷のことを話すことはありません。しかし、自傷行為のことを他者に話して傷の手当をしたり、医療機関に受診したりする行動ができている場合は、自傷行為を抑えるための第一歩です。
「自傷行為は問題なんだ」と意識することで、その後の治療により自傷行為を抑えることが期待できます。
参考:精神保健福祉法とは?
参考:睡眠障害とは?
自己破壊行為と「嗜癖」
多重債務、問題飲酒、性的逸脱行為などの自己破壊的行動は、「嗜癖」という概念で説明がつきます。
嗜癖とは、俗にいう「〇〇中毒」のような状態であり、禁断症状が生じて病的な行動が抑制できなくなることを意味します。
アルコール問題は、精神科治療の対象となっていますが、本人に治療意志がない場合は制限するのが難しいのが現状です。
一方、自傷行為は直接的なものと間接的なものがあり、間接的なものには物質使用障害、摂食障害、過量服薬、危険行動などが含まれます。 これらの行為は、自傷行為と密接に関連しており、生命を脅かす危険性もあります。
これらの自己破壊的行動は、根本的な解決には精神科治療や社会的な支援が必要となります。 しかし、本人が問題意識を持っていなかったり、治療を拒否したりするケースも多く、治療が難しいのが現状です。
参考:希死念慮とは?
非自殺的な自傷行為の治療
非自殺的な自傷行為として主に行われる治療は精神療法と薬物療法です。
精神療法
弁証法的行動療法 (DBT)
1年間、週1回の個人とグループセッションを行い、24時間体制の電話サポートを提供します。衝動的な行動への対処、感情調節、ストレス管理などを学びます。
感情調節集団療法(emotion regulation group therapy)
14週間にわたって集団療法を行い、感情への気づき、理解、受容を支援します。否定的な感情を前向きに受け止め、衝動的な反応を抑制できるようにします。
非自殺的な自傷行為の治療薬として承認された薬剤はありませんが、一部の患者ではナルトレキソンや一部の非定型抗精神病薬で効果がみられたとの報告があります。
他の精神障害がみられる場合は、その障害に対する治療を行います。可能であれば、精神医療の従事者を紹介してもらってください。
参考:ナルトレキソンとは?
参考:非定型抗精神病薬とは?
薬物治療
- 自傷行為の治療薬として承認された薬剤はありませんが、うつ病、双極性障害、境界性パーソナリティ障害などの併存疾患がある場合に、抗うつ薬、気分安定薬、抗精神病薬などが使用されることがあります。
- 薬物療法は、衝動的な自傷行為や希死念慮を一時的に抑えるために用いられます。根本的な治療としては精神療法が重要です。
参考:希死念慮とは?
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その他の方法
- 代替法: 自傷行為以外の方法で、つらい感情や衝動を処理する方法を学びます。刺激的な代替法(例:輪ゴムをパッチンする、氷を握る)、鎮静的な代替法(例:深呼吸、マインドフルネス)、補助的な代替法(例:日記を書く、音楽を聴く)などがあります。
- 信頼できる人と話す: 自傷行為について話せる人を見つけることが大切です。家族、友人、カウンセラー、セラピストなどが該当します。
治療を受けられる場所
- 精神科医療機関
- 心療内科
- 大学病院
- NPO法人
- オンラインカウンセリング
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参考:発達障害の二次障害とは?
自傷行為を発見した際の周りの方の対応
自傷行為を発見した周りの方は、驚きや恐怖から、すぐに行為をやめさせようとすることが多いでしょう。しかし、自傷行為は、言葉で表現できない苦痛や葛藤を伝える手段として行われることがあります。
以下、自傷行為を発見した際の周りの方の対応ポイントをまとめました。
1. 温かさと冷静さを保った態度で接する
- 過度に同情したり、批判したり、否定したりしない。
- 助けたいという気持ちは伝えつつ、押し付けない。
2. 傷つけた身体を丁寧にケアする
- 傷口の消毒や処置を行う。
- 痛みや苦しみを和らげるためのサポートをする。
3. 内面の訴えを真剣に聴き、共感する
- 批判や先入観を持たずに、話を聞く。
- 気持ちを理解し、共感を示す。
- 困難な状況に耐えてきたことを労う。
4. 自傷行為の背景や気持ちに理解を示す
- 自傷行為に至った経緯や、その時の想いを聞いて理解しようと努める。
- 自傷行為という問題に直面していることを認める。
5. 代替的なストレス対処法を一緒に探す
- 適切なストレス解消方法を学ぶ機会を提供する。
- 一緒に代替方法を模索する。
6. 専門機関への相談を勧める
- 自傷行為がすぐに治るわけではないことを理解し、長期的なサポートが必要であることを伝える。
- 本人の同意を得た上で、専門機関に相談することを勧める。
7. 自身の心身のケアも大切にする
- 自傷行為に直面することで、周りの方も大きな負担を感じることがあります。
- 休息やリフレッシュを心がけ、自身の心身の健康を保つことも重要です。
参考資料
ここからは「自殺行動」について説明します。
自殺行動
自殺は、多くの要因が複雑に絡み合って起こる問題であり、うつ病をはじめとする精神疾患が最も一般的かつ重大な危険因子となります。しかし、それだけではありません。
自殺の方法は、銃器の使用など死に至る確率が高いものから、比較的致死率の低いものまで様々です。致死率が低い方法を選択したからといって、必ずしも自殺の意図が弱かったとは限りません。
自殺念慮や自殺企図は、決して軽視することはできません。深刻なサインであり、速やかに助けを求めることが重要です。
危機的な状況にある人や自殺を考えている人は、一人で抱え込まずに、以下の相談窓口に連絡してください。
#いのちSOS: 0120-061-338 (特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク)
子どもの場合は: 24時間子どもSOSダイヤル 0120-0-78310
自殺という言葉は、近年、科学的研究の進展、自殺の犠牲者や生存者に対する理解の深まり、そして自殺に関連する偏見の減少を反映して、より適切なものに変化してきました。
自殺行動には、以下の種類があります。
- 自殺既遂: 自身に危害を加え、死亡に至った行為
- 自殺企図: 死に至ることを意図して自傷行為を行い、結果的に死亡に至らなかった行為。けがを伴う場合もあれば、伴わない場合もあります。
- 希死念慮: 自殺について考えたり、計画したり、準備したりすること
自殺率に関する統計情報は、主に死亡証明書や調査報告に基づいており、実際よりも低く見積もられている可能性があります。それでもなお、自殺行動は重大な健康問題であり、性別、年齢、人種、信条、収入、教育水準、性的指向に関わらず、あらゆる人々に見られます。典型的な自殺者像は存在しませんが、中年以上の男性、アメリカンインディアンの若者、LGBTQの人々など、一部の集団では自殺のリスクが高いことが分かっています。
参考:人口動態調査死亡票における自殺死亡者の精神疾患について抜粋
調査対象は平成20年人口動態統計の自殺死亡30,229人であり,方法は目的外使用による死亡票閲覧・転写入力と提供を受けたオンラインデータの分析より精神疾患の記載状況を検討した。
なお,平成20年自殺死亡30,229人のうち確認できたものは29,799人(98.3%)であった。
自殺行動の原因
自殺する人のおよそ6人に1人が遺書を残していますので、ときに自殺の理由を知る手がかりになります。
理由として多いのは、精神障害、絶望感、周囲の人の負担になっていると感じることや様々な生活上のストレスに対処できないことなどが挙げられいます。
また、研究により、自殺既遂者の多くが死亡時に複数の危険因子を有していたことが示されています。自殺により死亡する人の約85~95%は、死亡する時点で診断可能な精神障害をもっているとされています。
自殺行動につながる要因として最も多くみられるのは以下のものです。
うつ病
うつ病(双極性障害のうつ状態としてのうつ病も含む)は、自殺企図の約半数に関係していて、自殺既遂での割合はさらに高くなっています。
うつ病は、思いがけず突然に起こる場合もあれば、最近体験した喪失や悲惨な出来事が誘因になる場合や、複数の要因が組み合わさって起こる場合もあります。
うつ病の人では、夫婦間の問題、最近の逮捕や法律上のトラブル、恋愛上のトラブルや破局、親との確執やいじめ(青年の場合)、愛する人の喪失(特に高齢者の場合)などが、自殺企図のきっかけになります。うつ病の人に強い不安もみられる場合は、自殺のリスクがより高くなります。しかし、一方で、自殺未遂後に精神科治療を受け、その後の経過で回復する例もあります。
高齢者の身体疾患(特に痛みを伴う慢性疾患)
高齢者の自殺の20%を占める原因は糖尿病、多発性硬化症、がん、感染症など、診断されて間もない身体疾患などがあります。
脳の機能に直接影響を及ぼす疾患
エイズや側頭葉てんかん、頭部外傷などの一部の病態は、脳の機能に直接影響を及ぼす可能性があり、それゆえ自殺リスクを高めるとされています。
小児期のトラウマ体験
特に身体的虐待や性的虐待は、自殺企図のリスクを高めます。
飲酒
うつ病の悪化は自殺行動の可能性を高めることがあります。また、アルコールは自制心を弱め、衝動性を高めるため、自殺を試みる人の約30%が事前に飲酒をしています。
その約半数の人が酩酊した状態で自殺を試みます。飲酒、特に大量の飲酒は、酔いが覚めたときに深い自責の念を引き起こすため、不健康な飲酒をしている人は自殺のリスクがより高くなります。
ほぼすべての精神障害
孤立
孤立は自殺のリスクを高めます。離別、離婚、または配偶者の死別を経験した人は、自殺の可能性が高くなります。安定的な人間関係の中で生活している人は、一人暮らしの人と比べて自殺率が低い傾向にあります。
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抗うつ薬と自殺のリスク
自殺企図のリスクは、抗うつ薬治療を開始する前の1カ月間で最も高いというデータがでています。
抗うつ薬の使用を開始してからは、自殺による死亡リスクが低くなります。ただし、小児、青年、若年者では、抗うつ薬の使用により、ときに自殺念慮や自殺行動の頻度が若干高まることがあります(自殺既遂の頻度は高まりません)。
24歳未満での抗うつ薬の服用は自殺念慮や自殺企図のリスクの増大と結び付けられていますが、適切な治療(薬物治療や精神療法が含まれる可能性があります)でうつ病に対処しないでいると、自殺のリスクがさらに大きくなる可能性があります。
※使用上の注意の改訂について
そのため、使用する小児や青年の親にはこのリスクについて警告すべきであり、特に服用開始後最初の数週間は、以下の副作用が起きていないか、小児および青年を注意深く見守るべきです。
不安の増大、興奮、不穏(落ち着かなくなる)、易怒性、怒り、また、軽躁病への移行(活力にあふれ愉快な気持ちであるが、怒りやすくなったり、集中できなくなったり、興奮したりすることが多くなる)も注意すべき重要な副作用です。
医師と患者および家族は、自殺傾向がうつ病の中核的な特徴の一つであることを認識しておくべきです。
公衆衛生上の警告を受けて、医師たちはうつ病の診断を下すことを減らし、小児や若年者に対して抗うつ薬を処方することを30%以上減らしました。
しかし、これと同じ時期に、若年者の自殺率は一時的に14%増加しました。したがって、うつ病の薬物療法を控えさせるこの警告は、結果的に自殺による死亡者数の減少ではなく、逆に増加につながってしまった可能性があります。
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自殺行動の方法
自殺方法の選択は、文化的要因や致死的な手段(例えば銃器)の利用しやすさに影響を受けることもあります。
生存の可能性が低い方法(高層ビルから飛び降りるなど)から救命の可能性が高い方法(薬物の過剰摂取など)まで色々あります。
致死的でない方法を選んだ人でも、致死的な方法を選んだ人と同じくらい本気で死のうとしていた可能性はあります。
自殺企図で最も頻繁に用いられる方法は、薬物の過剰摂取と服毒です。銃や首つりなどの暴力的な方法は、選択するとほぼ確実に死に至るため、自殺企図ではあまり多くありません。
米国では自殺既遂の約50%で銃が使用されています。女性より男性がよく使用する方法です。
その他の方法としては、首つり、服毒、飛び降り、刃物の使用などがあります。 世界的には、殺虫剤による中毒死が自殺の大きな割合を占めていて、危険な殺虫剤が広く入手できるアジアで特に多く見られます。
自殺行動の予防
医師は自殺をほのめかす人や自殺企図をした人を入院させることができるため、今にも自殺を試みようとしている場合や、実際に自殺を試みてしまった場合は、できるだけ早く救急隊が派遣されるように、直ちに119番に電話をするべきです。
自殺予防を目的とした公衆衛生政策では、学校や職場での自殺予防訓練やピアカウンセラーの導入など、複数の方法が採用されています。
精神医療へのアクセスの改善には、かかりつけ医の医療機関や病院の救急部門だけでなく、精神医療の場においても、自殺リスクを低下させる臨床的介入を提供することが含まれています。
また、自殺企図や自殺既遂に至る前には多くの人が警戒すべきサインを発しています。
見つけておくべき苦痛や自殺念慮の徴候には、気分、行動、睡眠、活力の変化など、その人の通常の行動パターンにおけるあらゆる変化が含まれています。
自殺傾向のある人の大半は自分の考えや苦痛を直接声に出さないことが多いため、ある人が絶望感を抱いていたり、自分が他者の重荷になっているように感じているなどの可能性が見られる傾向にあります。
最近では、ソーシャルメディアのプラットフォーム上で稼働するAIが、リスクのある個人を同定し、時宜を得た支援を提供するのに役立っています。致死的な手段の利用を困難にする公衆衛生政策も予防的な措置になります。
参考:躁病エピソードとは?
参考:自己犠牲とは?
医療専門家による自殺未遂後の対応
医療専門家は、あらゆる自殺行為を真剣に受け止め、個々の患者の状況に合わせて安全確保と治療計画を調整します。
重傷を負った場合
- 医師は外傷の評価と治療を行い、必要に応じて入院させます。
- 薬の過剰摂取の場合は、吸収を防ぎ、体外への排出を促す処置を行います。
- 解毒剤があれば投与し、呼吸補助を行います。
精神科評価と治療
- 初期評価後、精神科医に紹介し、自殺企図の原因を明らかにし、治療計画を立てます。
- 精神科医は、以下のような評価を行います。
- 自殺企図までの経緯や病歴を聴取
- 自殺の危険因子、具体的にはどのような出来事が原因だったのかを特定
- 精神障害の症状、治療歴、精神療法歴について質問
- 精神状態を評価し、精神障害や薬物乱用の兆候がないか確認
- 病歴と家族歴を聴取
- 人間関係、ソーシャルネットワークについて聴取
- 家族や友人から、薬物使用について聴取
- 自殺思考の引き金となる状況、出来事、場所、思考、感情状態を特定し、対処法を検討
- うつ病患者は、自殺念慮がないか注意深く観察し、薬剤や精神療法による治療を行います。
- リチウム、抗うつ薬、抗精神病薬、クロザピンなどの薬剤は、自殺リスクを低下させる可能性があります。
自殺リスクの高い患者への対応
- 自殺念慮や抑うつなどの症状を定期的にスクリーニング
- 支持的かつ非判断的な対応
- 安全計画の利用や致死的手段に関するカウンセリング
- 家族とのコミュニケーション
- 危機対応システムの利用
- 致死的手段の排除または安全保管の指導
- 精神科医への紹介
- 外来受診頻度の増加と患者との密接なコミュニケーション
自殺リスク低減に向けた医療システムの取り組み
- Zero Suicide:全スタッフ対象の自殺スクリーニング研修、電子カルテの活用、短期介入の実施を提唱
- 認知行動療法(CBT)、弁証法的行動療法(DBT)、愛着に基づく家族療法などの新しい介入
治療の最適化
- 個々のニーズに合わせた治療計画の作成
- 必要に応じて治療の調整とフォローアップケア
まとめ
精神疾患・発達障害を抱える方に自傷行為との向き合い方についてまとめてみました。
大切なのは、未来を焦らず、あきらめずに、温かい気持ちで自分自身を見守ることです。
それぞれ、自分のペースで未来に向かって歩み出しています。
離職や休職は決して無駄ではありません。むしろ、自分自身と向き合い、成長する貴重な機会となる可能性もあります。