愛着障害は、養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子供の情緒や対人関係に問題が生じる状態のことです。主に養育者と子どもの関係において語られる場面が多いのですが、大人になっても苦しみ続ける人が少なくありません。
この障害の原因は、虐待や養育者との離別にあり、特に母親を代表とする養育者と子供との間に愛着がうまく芽生えないことが挙げられます。乳幼児期に養育者ときちんと愛着を築くことができないと、「過度に人を恐れる」または「誰に対してもなれなれしい」といった症状が現れることがあります。
大人の愛着障害には、親密さを避ける傾向や怒りなどの情緒面、さらに対人関係に不安があります。
本記事では「大人の愛着障害の特徴や原因」、「子どもの愛着障害との違い」、そして「効果的な治療法」についても詳しく解説します。読者は大人や子どもの愛着障害への特徴や具体的な対処法について理解できるでしょう。
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愛着(アタッチメント)とは?
愛着障害とは?
なぜ愛着が大切なのか?
愛着の形成は子供の成長においてどのような意味があるのでしょうか。
子どもの成長における愛着の重要性を以下でご説明します。
①人への信頼感が芽生える
乳幼児期に養育者との間に愛着が形成された子どもは、自分の欲求を満たしてもらえたという気持ちから、人への信頼感が芽生え、やりとりを通して、人とかかわる楽しさや喜びを体験することができます。普段の生活の中で、特定の養育者に無条件で甘えられる経験を繰り返すことで、人との信頼関係を築けるようになります。これによって、人と関わったり会話をしたりすることに楽しさや喜びを感じられる大人に成長できるのです。
②心理的な安心感を得られる
愛着障害の定義
愛着障害は「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」と「脱抑制型愛着障害」に診断が分けられます。
・「脱抑制型愛着障害」
それぞれのタイプは、正反対な特徴があります。反応性アタッチメント障害は人に対して過剰に警戒するタイプであり、脱抑制型愛着障害は人に対して過度に馴れ馴れしいといったタイプと定義されています。
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「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」
5歳までに発症し、小児の対人関係のパターンが持続的に異常を示すことが特徴です。反応性アタッチメント障害は、反応性愛着障害とも呼ばれ、人に対して過剰に警戒するタイプであり、人にうまく頼ることができません。
恐れや過度の警戒、同年代の子どもとの対人交流の乏しさ、自分自身や他人への攻撃性、みじめさ、ある例では成長不全などがみられます。
乳幼児期に、養育者が無視や無関心、ネグレクトなどの不適切な養育を行ったことが原因であることが多いです。
反応性アタッチメント障害の特徴は、次のとおりです。
- 他人を信用できない
- 恐怖心や警戒心が強い
- 人の言葉に深く傷つく
- 自傷行為がみられる
- 嘘をつきやすい
- 体調不良を起こしやすい
- ちょっとしたことで酷く落ち込む
- 自己肯定感が低い
- いつも人目を気にしてビクビクしている
- 感情の起伏が少ない
- 謝れない
「自分の存在価値」が分からなくなり、他人を信じられず頼れない、自分や他人を攻撃する、自分の評価が低い、感情を出せないといった問題が起こりやすくなります。
参考:自傷行為とは?
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「脱抑制型愛着障害」
5歳までに発症し、周囲の環境が著しく変化しても持続する傾向を示す、異常な社会的機能の特殊なパターンになります。
脱却制型愛着障害は、脱却制性対人交流障害とも呼ばれ、人に対して過度に馴れ馴れしいタイプであり、無差別に人に甘えることができます。
初対面の人にもかまわずべったり抱きつこうとしたり、協調性が欠落していたりと発達障害にも似ているとされています。
特定の養育者との愛着形成がうまくできず、注意を引くために情動的な行動をする場合もあります。
脱却制型愛着障害の特徴は、次のとおりです。
- 誰にでもかまわず抱きつく、馴れ馴れしい
- 周りの注意を引くために大声を出す
- 人によって態度を変えることはない
- 落ち着きがない
- 乱暴な言動
- わがままな言動
- 強情で意地悪さが見える
- 嘘をつく
自分が示す愛着の範囲が分からず、知らない人にまで広範囲に愛着を求めます。たとえば自分ではなく兄弟ばかりを期待する養育者の興味や関心を、ひくために上記の行動を取ります。
愛着障害はどちらのタイプであっても、対人関係や情緒面に影響を与えてしまい、「問題のある子」と思れやすいでしょう。大人になっても仕事や家庭の中で、生きづらさを感じて辛い想いをすることになります。
参考:社会的機能とは?
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愛着障害の診断基準
「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」
A. 5歳以前に発症することが一般的である。
B. さまざまな人間関係の場面で、しばしば相手に対して矛盾した反応を示すことがありますが、その反応は関係や状況に応じて異なります。
C. 情緒障害は、感情の欠如や他人との関わりを避ける傾向、自身や他者への攻撃的な反応、または過度の不安や緊張などで現れることがあります。
D. 一方、愛着障害を持つ人々は、通常、正常な成人との相互作用や社会的関係のスキルを持ち、適切な反応ができる場合があります。
参考:情緒障害とは?
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「脱抑制型愛着障害」
子どもが愛着障害である場合の具体的な傾向
子どもが愛着障害の場合、どういった態度・素振りを見せるのか見ていきましょう。
「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」
「脱抑制型愛着障害」
「脱抑制型愛着障害」の場合、養育者に限らず誰に対しても過剰に依存し、自分に注目してもらおうとして不注意や乱暴な行為に走る傾向があります。
- 知らない人にもためらいなく接近することがよくある。
- 誰であれ抱きつき、慰めを求めることがある。
- 落ち着きがなく、乱暴な行動が見られることがある。
参考:アサーションとは?
参考:ADHD(注意欠如・多動症)とは?
「どちらにも見られる態度・素振り」
大人の愛着障害と子どもの愛着障害の違い
医学的な愛着障害の診断基準は子どもが対象とされており、発症は5歳以前とされています。しかし、現実には自分が愛着障害ではないかと悩む大人も少なくありません。
大人と子どもの愛着障害には、いくつかの違いが存在します。この章では、子どもと大人の愛着障害の特徴の相違点について解説します。
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子どもの愛着障害
愛着障害は乳幼児期の愛着形成が上手くいかなかったことが原因であり、医学的には子どもを対象とした障害に位置付けられます。一方、「反応性アタッチメント障害」と「脱抑制型愛着障害」は異なるタイプの愛着障害ですが、共通した特徴があるとされています。
個人差はありますが、子どもの愛着障害の特徴として以下のような特徴が挙げられます。
・食事量が少なく、身体が周囲より小さくなっている
・体調不良を起こしやすい傾向がある
・自分や他人を傷つける行動をとることがある
・大人を試すような行動をする傾向がある
・理由もなく嘘をつくことがある
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そして、愛着障害の中でも「反応性アタッチメント障害」か「脱却制型愛着障害」どちらなのかを、次の特徴をもとに判断していきます。
よく見られる特徴 |
|
反応性アタッチメント障害 |
人に対して過剰な警戒心や恐怖心を持ち、困りごとがあってもうまく頼めない |
脱却制型愛着障害 |
誰にでも馴れ馴れしく、近寄ったり、抱きついたりする |
ただし、子どもの愛着障害は他の発達障害とも関連している可能性があるため、明確な判断が難しいとされています。反応性アタッチメント障害の子どもは感情の起伏が乏しく、他の子との交流が制限されることがあります。
これらの特徴は自閉症スペクトラム障害とも共通するため、区別が難しいでしょう。同様に、脱抑制型愛着障害の子どもは情動的な行動や落ち着きのない言動が見られることがありますが、これはADHD(注意欠如・多動症)とも類似しているため、判断が難しいでしょう。
参考:自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性とは?
大人の愛着障害
愛着障害は、子ども時代に発症し、大人になっても持続することがあります。子どもの時に養育者との愛着が形成されないと、大人への成長においても重大な影響を及ぼす可能性があります。実際、大人になっても愛着障害が見られることは珍しくありません。
しかし、その原因が愛着障害であることに気づかないこともあります。大人の愛着障害は、対人関係や仕事において苦労することがありますが、本人や周囲の人がその背後にある問題に気づくことはまれです。
愛着障害は子どもだけでなく、大人にも起こり得ます。乳幼児期に養育者との愛着が形成されないまま大人になると、愛着障害の症状が持続することがあります。社会に出る際には、対人関係や仕事で苦労することがありますが、その背景にある心の病気としての愛着障害に気づかない場合が多いです。
愛着障害に関する大人の研究はまだ少なく、医学的には明確な病気としては扱われていません。しかし、心療内科では愛着障害が問題の核心になることがよくあります。
精神科医の岡田尊司先生は愛着障害の第一人者であり、その著書で大人の愛着障害について分かりやすく解説しています。
① 対人関係がうまくいかない
愛着形成に問題があった場合、大人になってから他人との適切な距離感を保つことが難しく感じます。仕事では、周囲とうまくコミュニケーションが取れず、失敗や上司からの叱責が増える傾向にあります。また、恋人や配偶者ができても家庭生活がうまくいかないことがあり、自分の子どもに愛情を注ぐ方法にも戸惑うことがあります。時には虐待の加害者になってしまうケースもあります。
大人の愛着障害には、対人関係における3つの特徴があります。まず、適切な距離感を保つことが難しく、怒りを上手くコントロールできない傾向があります。また、思考が極端で柔軟性に欠け、物事を白黒で捉えがちです。さらに、過去に捉われがちで、自尊心が低く、選択を信じられず後悔や不安を抱えることがあります。進路や就職などの決断も難しく、人生の満足度が低くなる傾向があります。
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② 情緒面が不安定
③ アイデンティティの問題
愛着障害があると、アイデンティティの確立(自分は自分であると自覚すること)が上手くいかないことがあります。アイデンティティの確立には、自己肯定感や自己の役割、そして自分自身の価値観を理解することが不可欠です。
具体的な特徴として、まず、愛着障害がある人は決断力がない傾向があります。大人になると自分自身で考え、選択しなければならない場面が増えますが、愛着障害があると自己の問題を解決するのが難しくなることがあります。
また、自己肯定感が低いことも特徴の一つです。自己肯定感が低い人は、自分に対して否定的になりがちであり、自分の選択に対する満足度も低くなります。
さらに、否定的な感情を抱くこともあります。自分自身を信じることができないため、自己を責めたり落ち込んだりする傾向があります。
アイデンティティの確立は、青年期に重要な段階です。この時期に自己の存在を見出すために、自己肯定感や好奇心、積極性などの土台が築かれます。しかし、愛着障害が続いていると、アイデンティティの確立が妨げられ、人生の選択や決定において苦労することがあります。
参考:アイデンティティとは?
愛着障害が引き起こす疾患
大人の愛着障害は、二次的に他の疾患を引き起こす可能性があります。主に次のような病気です。
- うつ病
- 心身症
- 不安障害
- 摂食障害
- 睡眠障害
- 自律神経失調症
- 境界性パーソナリティー障害
仕事や家庭などの生活において困難が生じる前に、適切な治療や生活の工夫によって症状を和らげることに努めましょう。大人になってからでも工夫次第では症状をやわらげることができたり、困りごとを克服できることもあります。
参考:自律神経失調症とは?
参考:不安障害とは?
愛着障害の治療、対処方法
愛着障害は、発達障害などと違って、子どもの育つ環境や養育者の子育て方法に原因がある、後天的なものとされています。
愛着障害は、乳幼児期の子どもと養育者の間に何らかの原因があり、愛着形成できなかった結果生じる後天的な状態です。そのため、愛着障害自体を薬物療法などで治すという方法は、最適とは言えません。
愛着障害によってうつ病や心身症などの二次的な疾患を発症した場合は、その疾患の治療を受けることが先決になります。
ここでは、子どもと大人の愛着障害に対する治療法や対処方法について紹介します。
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子どもの愛着障害の治療、対処法
大人の愛着障害の治療、対処法
大人の愛着障害の場合、実親との愛着形成よりも、友人や職場の同僚、恋人やパートナーとの良好な関係が重要です。
これらの人々がありのままの自分を受け入れ、支えてくれることで、安心できる居場所を確保できます。この居場所があることで、感情的になりにくく、自己肯定感や自尊心も向上し、愛着障害の症状が改善される可能性があります。
幼少期に不足した愛情深いスキンシップやコミュニケーションを補うために、恋人やパートナー、友人、教師などとの関係が重要です。
対等な人間関係や自己の存在価値を認められる環境で活動することも、愛着障害の克服に役立ちます。また、理想的な親の役割を果たし、後輩を指導することも、アイデンティティの確立や自信を高め、愛着障害の改善につながる可能性があります。
愛着障害の治療において、安心できる場所や安全基地を提供することが重要です。
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