離人感・現実感消失症について

精神疾患

精神科や心療内科で扱われる症状の中には、名前からは症状の実態がイメージしにくいものもあり、「離人感・離人症」はそのひとつです。

離人感で経験される感覚自体は一般的にはそこまで異常なものではないため、症状の実際の例を聞けば「自分もそんなふうに感じたことがあるかもしれない…」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、離人感や現実感消失について説明します。

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離人感や現実感消失とは

離人感(あるいは離人症)は、

自身の身体または精神プロセスから遊離(解離)しているという,持続的または反復的な感覚から成る解離症の一種であり、自分の行動や考え、体の感覚などに現実味を感じられない状態のことです。

思春期や青年期ぐらいの年頃で離人感を体験する方もいるので、そのぐらいのときを思い出してください。

自分で考えて行動しているけど、何か思ったり感じたりすることもなくどこか淡々と行動をして一日が終わっていく。遠くのテレビをぼんやり見ているみたいに、クラスメイトたちが見える。

あるいは、自分自身の行動をどこか遠くから眺めている感じがする。そんなふうに現実感に乏しい感じがしたことはありませんか。そういった感覚が離人感です。

とはいえ、全ての人が離人感を体験しているわけではないため、このような経験がない方も当然います。

そういった方はあまり想像したくないことですが、家族が目の前で事故に遭った場面を考えてください。すごくショックなはずだけど、どこか他人事の出来事のように現実感が湧かない。

目の前で騒ぎが起こっているけど、音がどこか遠い感じがする。そのような状態が離人感に近いと思われます。

一方で、現実感消失とは、自分の周りの状況に現実感を持てない状態のことです。

目に見える世界が生き生きと色づいている感覚がしない、自分と周りの間に見えない壁があるような感じがするなどと表現されます。

離人感と同様に、現実感消失もあまり病的なものではありません。これらの症状は、離人感・現実感消失症として解離症の一種とされ、重度のストレスが原因となることがあります。

治療としては、精神療法と抑うつまたは不安に対する薬物療法を併用することが行われます。

離人症の例

茜さんは仕事のストレスなどが続く中、自分が自分でない感覚に襲われることがありました。

最初は一回きりの体験で「病院に行くほどの事では無い。」と考えていたのですが、次第にストレスを感じていない状態でも同じような感覚に陥ることが多くなってきました。

周りからも違和感を持たれることがあり、仕事や日常でもうまく集中ができないという問題が生じてきていたため、心療内科を受診し、「離人症」と診断されました。

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離人感や現実感消失はそこまで深刻な症状ではない

 

一過性の離人感または現実感消失は、一般集団の約50%が生涯のうちに少なくとも1回経験します。

しかし、離人感・現実感消失症の診断基準を満たす人は約2%のみとなっており、これらの症状は、他の多くの精神障害の症状や痙攣性疾患などの身体疾患の症状としても生じることがあります。

他の障害とは独立して発生しており、遷延性または反復性であり、かつ生活機能に支障が出ている場合は、離人感・現実感消失症と呼ばれます。

この疾患は男女に同等の頻度で発生し、発症年齢の平均は16歳。小児期の早期または中期に発症することもあります。発症が25歳以降の症例は5%のみで、40歳以降の発症はまれとされています。

言うなれば、離人感や現実感消失は「今をイキイキと生きている」という実感に乏しい状態です。

これらの症状は「解離」という障害群の中に含まれ、起きて生活している間は「ずっと」何か考えたり感じたり行動したりしています。

しかし、離人感や現実感消失が生じているときには、この「ずっと」が途切れてしまいます。この途切れることが解離と呼ばれ、途切れるのが一時的なものであれば問題はほぼないが、解離が生活に支障を来す場合や本人が苦痛を感じる場合は治療対象となるでしょう。

離人感や現実感消失では統合失調症のような「自分が誰かに操られている」という妄想的な考えはなく、現実検討能力も保持しています。

参考:統合失調症とは?
参考:現実検討能力とは?

参考:痙攣性疾患とは?

参考:遷延性とは?

 

症状と徴候

離人感・現実感消失症の症状は通常、間欠的に現れ、その強さは増減を繰り返します。

症状の発現期間は数時間から数日の場合もあれば、数週間や数カ月、時には数年にわたることもあります。ただし、症状が数年または数十年にわたって一定の強さで常に現れる患者もいます。

離人感の症状としては、以下が挙げられます。

・自身の身体、精神、感情、および/または感覚から離脱しているように感じる
・生活を外部から傍観しているような感覚
・自分がロボットであるような感覚や自動制御されているような(行動や発言内容を自分でコントロールできない)感覚
感情の動きが少なくなり、感情的および身体的に麻痺したように感じることがある
自身の感情を認識・説明することができない患者もいる(失感情症)
・自分の記憶から切り離されたように感じ,記憶を明瞭に思い出すことができない。

 

現実感消失の症状としては以下があります。

・外界(例,人々,物体,あらゆるもの)から切り離されたように感じ、外界が現実ではないように感じられる
夢や霧の中にいるかのような感覚や、周囲から隔てられているかのような感覚
世界が生き生きとした感じがなく、色がない、または人工的に感じられる
主観的な歪みが見られ、物がかすんで見えたり、異常に明瞭に見えたりする場合もある
音が実際により大きくまたは小さく聞こえる場合もあれば、時間の経過が遅すぎるまたは速すぎると感じたりする場合もある

これらの症状はほぼ常に苦痛をもたらし、重度の場合は非常に耐えがたくなります。不安と抑うつもよく見られ、患者は自らの非現実的体験が現実の体験ではなく、ただ自分がそう感じているだけであることを認識しています。

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診断

離人感・現実感消失症の診断は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth EditionDSM-5)の以下の基準に基づいて臨床的に行われます。

  • 離人感、現実感消失、またはその両方について持続性または反復性のエピソードが認められる。
  • 自らの解離体験が現実ではないことを患者が認識している(すなわち、患者の現実検討能力は損なわれていない)。
  • 症状によって、著しい苦痛が生じているか、社会的または職業的機能が著しく損なわれている。
  • また、症状を他の身体疾患または精神障害(例、てんかん発作、継続中の物質乱用、パニック症、うつ病、他の解離症)で十分に説明することができない。

MRIおよび脳波検査を施行して器質的原因を除外する必要があります。(特に症状や進行が典型的ではない場合:40歳を過ぎてからの発症など)。尿の中毒性物質の検査も適応となる場合があります。

心理学的検査、特別な構造化面接、および質問票は、診断に役立つツールとなります。

 

予後

離人感・現実感消失症の患者は、医療や福祉の介入なしで改善することが多くあります。

特に症状が治療可能な場合や一過性のストレスから生じている場合や症状が長期間続いていない場合には、完全に回復することが珍しくないでしょう。

持続的または反復的な離人感または現実感消失症状があっても、患者が常に忙しい思考や他のことに注意を向けることで、自分の主観的な感覚から気をそらすことができる場合があり、その結果、重症化しなかったのです。

重症化してしまった一部の患者は離人感および現実感消失が慢性的で難治性となることがあります。慢性的な疎外感や関連する不安や抑うつにより、日常生活に支障をきたしてしまいます。

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病因

病因となることを見て行きましょう。離人感・現実感消失症の患者は、しばしば以下のような重度のストレスを経験しています。

・小児期に情緒的虐待またはネグレクトを受けていることが多いです。特に頻度の高い原因とされています。・身体的虐待を受けた経験があることがあります。

・ドメスティックバイオレンスを目撃した経験があります。
・親が重度の身体または精神障害患者である場合があります。
・家族や親しい友人が不意に亡くなる経験があるかもしれません

この症状が引き起こされる誘因として、対人的なストレス、経済的な問題、職業的なプレッシャー、抑うつや不安、または違法薬物の使用(特にマリファナ、ケタミン、幻覚剤)などが挙げられます。

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離人感や現実感消失が生じるメカニズム

離人感や現実感消失は、基本的には「解離」の一つであり、強いストレスに「圧倒された時」のストレス反応の一環です。

この状態では、自分が自分でないような感覚になり、健忘(解離性健忘)や解離性遁走など、様々な形をとります。

離人症も強いストレスに圧倒された反応の一つであり、この中で起こる特徴的な状態の一つと言えます。

事件や事故のような大きなストレスが起きた場合、冷静に対処することは理想的ですが、直面することがつらい現実もあります。

離人感や現実感消失は、実感を薄れさせることで、自分を守るための一種の自己防衛とも言えます。

特に大きなストレスがない場合でも、若い人に見られることがあり、年齢が上がるにつれて見られなくなることから、ストレスへの耐性や対処能力が関係している可能性があります。

参考:解離性健忘とは?

参考:解離性遁走とは?

似て非なる概念-メタ認知-

感情を遠ざけるという点で似た概念として、「メタ認知」という言葉があります。

メタとは、外側に立って見ること。そのため、メタ認知は一歩引いた位置から物事を見つめたり、考えたりすることを意味します。

哲学者ソクラテスは「無知の知」と言いました。これは、「自分には知識がないということを知っていること」を指します。「知識がない自分」を「知っている自分」。この後者の視点がメタ認知です。外側に立つことで視野を広げ、感情の渦に巻き込まれにくくなります。

ストレスによるつらい感情を弱めるという結果は同じですが、離人感では無意識に行われる自己防衛であり、メタ認知は意識的に行うストレス対処という違いがあります。

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離人症の鑑別疾患と併存症

<離人症と間違われる、別の考えられる病気>

① 一過性の離人感

普段はストレスなどで一時的に離人感を感じることがありますが、ほとんどの場合、その状態はストレスが解消されると終わります。

 

② トランス状態

自分から離れた感じを意図的に呼び起こす場合や、特定の「物質」の影響を受けて離人的な感覚になることがあります。

参考:トランス状態とは?

 

③ 統合失調症

通常は「初期症状」と呼ばれ、一時的に「世界没落体験」や「失感情症」といった離人症に似た症状が現れることがあります。

参考:失感情症とは?

参考:世界没落体験とは?

 

<離人症と同時に見られる病気>

① うつ病

うつの中で無気力感や「体がとても重いような感覚」など、離人症と非常に似た症状が出ることがあり、同時に現れることがあります。

こちらも参考に:うつ病で現れる初期症状・行動・対策や仕事復帰を目指すときのポイント

 

② 不安障害

特にパニック発作の際に、離人感が同時に起こりやすいことが指摘されています。

参考:不安障害とは?

 

③ 発達障害・パーソナリティ障害

これらの障害は感情や強い衝動に圧倒されやすい傾向があり、離人症と同時に存在することがよくあります。

 

参考:鑑別疾患とは?

参考:併存症とは?

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離人症の治療

離人感・現実感消失症の治療では、「ストレスに圧倒されなくする」ことを目指します。

ストレスに圧倒されて「解離」の一つとして離人症が出ますので、ストレスに圧倒されなくすることが

大まかな治療の柱としては、一つは「ストレスマネジメント」もう一つはいわゆる技術「スキルトレーニング」、3つ目が「薬物療法」です。

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ストレスマネジメント

治療の一環として、様々な角度からストレスとその影響を軽減していきます。

生活リズム・休養・ストレス発散

生活の基盤を整え、健康的なリズムを作り出すことで、ストレスやその悪影響を減らしていきます。

認知行動療法

考え方のクセを改善し、自分を追い詰めないようにする「認知再構成」や、対人関係での我慢癖を減らす「アサーション」などが適用されます。これにより、健康な思考パターンを育み、ストレスへの対処能力が向上します。

参考:認知行動療法(CBT)とは?

参考:ストレスマネジメントとは?

参考:アサーションとは?

リラックス・マインドフルネス

ストレスに対して無理に抵抗するのではなく、「受け入れる」ことを通じて、緊張やストレスからくる悪循環を減少させます。リラックスやマインドフルネスの技法を取り入れ、心を落ち着かせることが重要です。

参考:マインドフルネスとは?

スキルトレーニング

特に発達障害やパーソナリティ障害がある方で有効とされており、 強い感情や衝動に圧倒されないための様々な「一歩引いたりする」などの技術を、知識として入れた上で、徐々に身につけていきます。 それによりストレスに圧倒されることを防ぐ事を目標にしています。

参考:ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?

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薬物療法

特に「うつ病」や「不安障害」が背景にある時に有効とされています。

抗うつ薬を基本として、時に不安を取る抗不安薬などを併用し、背景の疾患の改善から、合併している「離人症」の改善を図ります。

うつ病が改善した後も離人症が続く場合があり、その際は他の対策も併用することが必要となります。

こちらも参考に:反復性うつ病性障害/反復性短期抑うつ障害の診断基準症状・治療について

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