精神科や心療内科で扱われる症状の中には、名前からは症状の実態がイメージしにくいものもあり、「離人感・離人症」はそのひとつです。
離人感で経験される感覚自体は一般的にはそこまで異常なものではないため、症状の実際の例を聞けば「自分もそんなふうに感じたことがあるかもしれない…」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、離人感や現実感消失について説明します。
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離人感や現実感消失とは
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離人症の例
茜さんは仕事のストレスなどが続く中、自分が自分でない感覚に襲われることがありました。
最初は一回きりの体験で「病院に行くほどの事では無い。」と考えていたのですが、次第にストレスを感じていない状態でも同じような感覚に陥ることが多くなってきました。
以前は感じなかった「自分自身の実感が薄い」という感覚が徐々に強まり、仕事や人間関係にも影響が出始めたため、強い不安を感じ始め、心療内科を受診し、「離人症」と診断されました。
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離人感や現実感消失はそこまで深刻な症状ではない
一過性の離人感あるいは現実感消失は、一般集団の約半数が生涯のうちに少なくとも1回は経験します。
しかし、離人感・現実感消失症の診断基準を満たす人は約2%のみとなっており、これらの症状は、他の多くの精神障害の症状や痙攣性疾患などの身体疾患の症状としても生じることがあります。
他の障害とは独立して発生しており、遷延性または反復性であり、かつ生活機能に支障が出ている場合は、離人感・現実感消失症と呼ばれます。
この疾患は、思春期以降の若年層に多くみられ、男女差はほとんどありません。特に、16歳前後で発症するケースが多いですが、小児期から症状が現れる場合もあります。一方で、25歳以降の発症は少なく、40歳以降は非常にまれです。
男女比はほぼ1対1で、思春期や青年期に発症するケースが大半を占めています。ただし、小児期に発症する場合もあり、まれに成人になってから発症することもあります。
言うなれば、離人感や現実感消失は「今をイキイキと生きている」という実感に乏しい状態です。
これらの症状は「解離」という障害群の中に含まれ、起きて生活している間は「ずっと」何か考えたり感じたり行動したりしています。
しかし、離人感や現実感消失が生じているときには、この「ずっと」が途切れてしまいます。この途切れることが解離と呼ばれ、途切れるのが一時的なものであれば問題はほぼないが、解離が生活に支障を来す場合や本人が苦痛を感じる場合は治療対象となるでしょう。
離人感や現実感消失では統合失調症のような「自分が誰かに操られている」という妄想的な考えはなく、現実検討能力も保持しています。
参考:痙攣性疾患とは?
参考:遷延性とは?
症状と徴候
離人感・現実感消失症の症状は通常、間欠的に現れ、その強さは増減を繰り返します。
症状の発現期間は数時間から数日の場合もあれば、数週間や数カ月、時には数年にわたることもあります。ただし、症状が数年または数十年にわたって一定の強さで常に現れる患者もいます。
離人感の症状としては、以下が挙げられます。
・生活を外部から傍観しているような感覚
・自分がロボットであるような感覚や自動制御されているような(行動や発言内容を自分でコントロールできない)感覚
・感情の動きが少なくなり、感情的および身体的に麻痺したように感じることがある
・自身の感情を認識・説明することができない患者もいる(失感情症)
・自分の記憶から切り離されたように感じ,記憶を明瞭に思い出すことができない。
現実感消失の症状としては以下があります。
- 外界との乖離感: 外界が不自然で、自分とは切り離された存在に感じられる。
- 非現実感: 夢を見ているかのような、現実感が乏しい感覚。周囲が不透明で、自分と隔絶されているように感じる。
- 脱色感: 世界が色彩を失い、モノトーンで人工的に感じられる。
- 感覚の歪み: 視覚的な歪み(物がかすんで見えたり、逆にクリアに見えたり)、聴覚的な歪み(音が大きく聞こえたり、小さく聞こえたり)、時間感覚の歪み(時間がゆっくりと感じられたり、早く感じられたりする)など、様々な感覚が歪む。
これらの症状はほぼ常に苦痛をもたらし、重度の場合は非常に耐えがたくなります。不安と抑うつもよく見られ、患者は自らの非現実的体験が現実の体験ではなく、ただ自分がそう感じているだけであることを認識しています。
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診断
離人感・現実感消失症の診断は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)の以下の基準に基づいて臨床的に行われます。
- 持続性または反復性の解離症状: 離人感、現実感消失、またはその両方の症状が、一定期間継続したり、何度も繰り返したりする。
- 現実検討能力の温存: 自分の経験していることが現実ではないと自覚しており、妄想や幻覚といった他の精神病理的な症状は伴わない。
- 機能の障害: 症状によって、日常生活や仕事、対人関係などに著しい支障をきたし、日常生活の質が大きく低下している。
- 他の疾患との鑑別: 他の身体疾患や精神疾患(てんかん、薬物乱用、パニック障害、うつ病など)で説明できない、特異的な症状である。
MRIおよび脳波検査を施行して器質的原因を除外する必要があります。(特に症状や進行が典型的ではない場合:40歳を過ぎてからの発症など)。尿の中毒性物質の検査も適応となる場合があります。
心理学的検査、特別な構造化面接、および質問票は、診断に役立つツールとなります。
参考:器質的原因とは?参考:構造化面接とは?参考:心理学的検査とは?
予後
離人感・現実感消失症の患者は、医療や福祉の介入なしで改善することが多くあります。
特に症状が治療可能な場合や一過性のストレスから生じている場合や症状が長期間続いていない場合には、完全に回復することが珍しくないでしょう。
持続的または反復的な離人感または現実感消失症状があっても、患者が常に忙しい思考や他のことに注意を向けることで、自分の主観的な感覚から気をそらすことができる場合があり、その結果、重症化しなかったのです。
重症化してしまった一部の患者は離人感および現実感消失が慢性的で難治性となることがあります。慢性的な疎外感や関連する不安や抑うつにより、日常生活に支障をきたしてしまいます。
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病因
病因となることを見て行きましょう。離人感・現実感消失症の患者は、しばしば以下のような重度のストレスを経験しています。
・ドメスティックバイオレンスを目撃した経験があります。
・親が重度の身体または精神障害患者である場合があります。
・家族や親しい友人が不意に亡くなる経験があるかもしれません
この症状が引き起こされる誘因として、対人的なストレス、経済的な問題、職業的なプレッシャー、抑うつや不安、または違法薬物の使用(特にマリファナ、ケタミン、幻覚剤)などが挙げられます。
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離人感や現実感消失が生じるメカニズム
離人感や現実感消失は、基本的には「解離」の一つであり、強いストレスに「圧倒された時」のストレス反応の一環です。
この状態では、自分が自分でないような感覚になり、健忘(解離性健忘)や解離性遁走など、様々な形をとります。
離人症も強いストレスに圧倒された反応の一つであり、この中で起こる特徴的な状態の一つと言えます。
事件や事故のような大きなストレスが起きた場合、冷静に対処することは理想的ですが、直面することがつらい現実もあります。
離人感や現実感消失は、実感を薄れさせることで、自分を守るための一種の自己防衛とも言えます。
特に大きなストレスがない場合でも、若い人に見られることがあり、年齢が上がるにつれて見られなくなることから、ストレスへの耐性や対処能力が関係している可能性があります。
参考:解離性健忘とは?
参考:解離性遁走とは?
似て非なる概念-メタ認知-
感情を遠ざけるという点で似た概念として、「メタ認知」という言葉があります。
メタ認知は、高次の認知機能の一つで、自己の認知過程を客観的に把握し、制御する能力を指します。
哲学者ソクラテスは「無知の知」と言いました。これは、「自分には知識がないということを知っていること」を指します。
「知識がない自分」を「知っている自分」、この意識こそがメタ認知です。自分自身を客観的に見つめることで、感情に振り回されることなく、冷静な判断を下せるようになります。
ストレスによるつらい感情を弱めるという結果は同じですが、離人感では無意識に行われる自己防衛であり、メタ認知は意識的に行うストレス対処という違いがあります。
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離人症の鑑別疾患と併存症
離人症の治療
離人感・現実感消失症の治療では、「ストレスに圧倒されなくする」ことを目指します。
ストレスに圧倒されて「解離」の一つとして離人症が出ますので、ストレスに圧倒されなくすることが
大まかな治療の柱としては、一つは「ストレスマネジメント」もう一つはいわゆる技術「スキルトレーニング」、3つ目が「薬物療法」です。
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ストレスマネジメント
スキルトレーニング
特に発達障害やパーソナリティ障害がある方で有効とされており、 強い感情や衝動に圧倒されないための様々な「一歩引いたりする」などの技術を、知識として入れた上で、徐々に身につけていきます。 それによりストレスに圧倒されることを防ぐ事を目標にしています。
参考:ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?
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薬物療法
特に「うつ病」や「不安障害」が背景にある時に有効とされています。
離人症に直接効く薬はありませんが、 うつ病や不安などの背景にある精神的な状態を改善するための抗うつ薬や抗不安薬が用いられます。これらの薬によって、離人症の症状が間接的に改善されることがあります。
うつ病などが改善しても、離人症の症状が完全に消失しない場合は、認知行動療法などの心理療法を併用することで、より効果的に症状を改善できることがあります。
こちらも参考に:反復性うつ病性障害/反復性短期抑うつ障害の診断基準症状・治療について
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