大人の「自閉スペクトラム症(ASD)」とは
ASD(自閉スペクトラム症)とは、コミュニケーションや対人関係の困難、強いこだわり、限られた興味の特徴がある発達障害です。ASDには自閉症・高機能自閉症・アスペルガー症候群などが含まれます。ASDは、子どもの頃から症状が現れることが多いですが、大人になってから診断を受けるケースも増えています。
特性が男性よりも分かりづらい女性の場合は、大人になってからの診断が男性と比べて多いと言えるでしょう。
ASDは、注意欠如・多動症(ADHD)と同じく、子どもの頃から症状が現れるものですが、大きな困難を感じておらず、それを発達障害だと認識していなかったが、社会人になって社会生活や人間関係における困難に気づいた場合、二次障害に苦しむこともあるでしょう。
近年、ASDの診断は子どもより大人になってから受けるケースが多くなっています。
ASDは、一人ひとりの特性や困りごとが異なります。自分に合った支援を受けることで、社会生活をより充実させることができます。
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大人のASD コミュニケーションの特徴
大人のASD 強いこだわりによる困難
対人関係・社会性における困難さ
ASDの特性として、「人との社会的な相互関係を築くこと」「コミュニケーションにおいて理解を示したり何かを伝えたりすること」に難しさを感じることがあります。
具体的な例として以下が挙げられます。
- 人と目を合わせることが難しい
- その場の雰囲気や文脈から他者の気持ちを推察することが難しい
- 思ったことや感じたことをそのまま伝えてしまい、相手との関係が悪くなる
- たとえ話や冗談、あいまいな話を理解することが難しい
これらの特性があるため、ASDの人々は他者との円滑なコミュニケーションや社会的な関係構築に苦労することがあります。
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ASDとADHDの関係性
ADHDとは「注意欠如・多動性障害」のことで、主な特性として集中力が続き辛く、大事な用事を忘れてしまったり、ほかのことに気がそれやすいなどの「不注意」や、落ち着きがなかったり思いついたら即行動したりする「多動性・衝動性」の特徴があります。
ASDとADHDは真逆の特性を持ちますが、同じような困難さがみられることがあります。例えば「話に集中できない」という困難な状況において、ASDの場合は「興味を持つことができないこと」が原因ですが、ADHDの場合は「集中できない(不注意)こと」が原因となって現れます。
そのため、ASDとADHDは困難さ・困りごとの聞き取りだけでは判断できないことがあり、ASDと診断されたのちにADHDと診断しなおされるというようなことも数多くあります。
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ASDは問診やスクリーニングなどから診断される
ASDのセルフチェック
ASDかも?と思ったら特性を理解することから始めよう
「自分はASDではないのか?」と思うことがあったら、まずは自分の特性を理解することが大切になります。
ASDの困難は「特性」と「環境」の相互作用によって起きている
特性とは、個人が持つ固有の、安定した心理的、生理的な特徴を指します。これは、遺伝や環境の影響を受けて形成され、個人の行動、思考、感情に一貫して現れる傾向です。
心理学では、特性は人格特性、能力、気質など、様々な側面から捉えられます。
- 人格特性: 誠実さ、外向性など、個人の行動様式を特徴づける比較的安定した心理的な傾向
- 能力: 知能、運動能力など、特定の課題遂行能力
- 気質: 生まれながらに備わっている、感情表現や活動レベルなどの基本的性格傾向
例えば、「運動能力が高い」という特性は、能力の側面から捉えられます。これは、遺伝的な要因や幼少期の運動経験など、様々な要因が複合的に作用して形成されるものです。
特性は環境との兼ね合いで変化する
特性は環境との兼ね合いで変化していきます。ここでいう「環境」とは、その人を取り巻く全ての環境(人や場所・モノ)のことをいいます。
聴覚過敏を持つ個人の場合、音環境が作業遂行に大きく影響します。遮音性の高い個室のような静穏な環境下では、聴覚刺激が最小限に抑えられるため、タスクへの集中力が高まり、作業効率が向上します。
しかしながら、オフィスのように雑音が多く、不規則な音が頻発する騒音環境下では、聴覚過敏が増悪し、感覚過負荷状態に陥りやすくなります。この状態では、注意の分散が起こり、タスク遂行が困難になるだけでなく、ストレスや疲労感といった心理的な負担も増加する可能性があります。
特性と環境の組み合わせによって、その人の日常生活・社会生活において生じる困難さは変わってきます
このように特性と環境の組み合わせによって、その人の日常生活・社会生活において生じる困難さは変わってきます。
聴覚過敏を持つ個人がオフィスのような騒音環境で作業を行う場合、周囲の雑音が聴覚刺激として過剰に感知され、注意の分散を引き起こし、タスク遂行に支障をきたすことがあります。このような状況下では、遮音性の高い個室など、静穏な環境へ移動することで、聴覚刺激を最小限に抑え、集中力の回復を図ることが有効です。
自分の特性を理解することが大切
個人の特性を深く理解し、それに基づいた最適な環境を構築することは、発達やQOL(Quality of Life)の向上に不可欠です。特性とは、遺伝や環境の影響を受け形成された、個性や能力、気質などの複合的な要素であり、強みと弱みの両側面を含みます。
特性を理解することで、自己受容を促し、自己肯定感を高めることができます。また、困難や課題に対して建設的な対処を行うための自己理解を深め、ストレスを軽減することができます。さらに、特性に合った環境を選択することで、能力を最大限に発揮し、満足感の高い生活を送ることが可能になります。
教育や福祉の分野においては、アセスメントを通じて個々の特性を把握し、個別化された支援を提供することが重要視されています。特性に合わせた学習環境や生活環境を整えることで、学習意欲の向上や社会参加の促進を図ることができます。
特性を理解するためには、自分自身をよく観察したり、周囲の人からの意見を聞いたりすることが大切です。また、特性に関する情報を収集したり、専門家に相談したりすることも有効です。
特性を理解し、自分に合う環境を見つけることで、より豊かな人生を送ることができるでしょう。
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参考:環境要因とは?
ASDの「得意な部分」を活かす
自閉スペクトラム症(ASD)は、社会性、コミュニケーション、興味や活動の範囲などに特性が見られる神経発達障害です。社会的な状況を正確に把握し、適切な行動をとることが困難な場合が多く、「空気を読む」ことが難しいと表現されることがあります。また、限定された興味を持つ傾向があり、非興味の対象に対して意欲が湧きにくいという特徴もみられます。
しかしながら、ASDを持つ個人は、特定の分野に深い興味を示し、卓越した能力を発揮する場合があります。詳細な情報に強く着目し、正確性と几帳面さを伴って作業を行うことができるため、専門的な分野で高い能力を発揮するケースも少なくありません。
個人はそれぞれ固有の強みと弱みを持っており、能力や気質に個人差が見られます。この個人差を踏まえ、強みを最大限に発揮できるような環境を構築し、弱みを補完するための戦略を立てることが自己実現やQOL(Quality of Life)の向上に繋がります。
自己理解を深め、強みと弱みを客観的に把握することは容易ではありません。自閉スペクトラム症(ASD)など、神経発達障害のある方の場合、感覚過敏や社会性の課題など、特有の特性を持つため、自己理解がより困難な場合があります。
このような場合、臨床心理士や発達支援専門家などの専門家に相談し、アセスメントを受けることが有効です。アセスメントを通じて、強みと弱みを客観的に把握し、個別支援計画を作成することで、個人に合った支援を受けることができます。
参考:法定雇用率とは?
参考:合理的配慮とは?
大人のASDの二次的な症状
ASDの人は、その特性から、周りに「配慮がない」「空気が読めない」と思われてしまうことがあります。その結果、職場などで孤立してしまうことが多く、それが原因で二次的な症状を伴うことがあります。
二次障害の例
- 引きこもり
- うつ病
- パニック障害
- 対人恐怖症
引きこもり
ASDの人は、コミュニケーションや対人関係に困難を抱えるため、人間関係で孤立してしまうことがあります。その結果、社会との接点がなくなり、引きこもりになってしまうことがあります。
うつ病
ASDの人は、孤立や拒絶などのストレスを抱えやすいため、うつ病を発症することがあります。うつ病になると、意欲の低下や無気力、悲観的な考えなど、さまざまな症状が現れます。
パニック障害
ASDの人は、不安や恐怖に敏感なため、パニック障害を発症することがあります。パニック障害になると、突然、強い不安や恐怖を感じ、動悸や息切れ、めまいなどの症状が現れます。
対人恐怖症
ASDの人は、人と接することが苦手なため、対人恐怖症を発症することがあります。対人恐怖症になると、人と話したり、目が合ったりすることが怖くなり、人混みや社交的な場を避けるようになることがあります。
ASDとADHDの併存
ASDとADHDを併せ持つというケースもよくあります。ADHDの「注意欠如・多動」という特徴は、ASDとはかなり違うものに見えますが、実際の診療の場面においては、ADHDとASDの症状が似ていることがあります。
ADHDとASDの似ている特徴
- 感情のコントロールが難しいこと
- 衝動性
- 集中力の欠如
- 常同行動
診断の難しさ
ADHDとASDの区分は難しいケースもありますが、適切に対応するためには、慎重に区分し、見極めることが大切です。
ASDの「得意な部分」を活かす
ASDは「空気を読むことが難しい」「興味の持てないことに取り組むことが難しい」などの苦手なことがありますが、一方で「興味のあることに対し深く取り組める」「仕事の正確性・几帳面さ」「細かいところに気がつく」などの得意なこともあります。
個人はそれぞれ固有の強みと弱みを持っており、能力や気質に個人差が見られます。この個人差を踏まえ、強みを最大限に発揮できるような環境を構築し、弱みを補完するための戦略を立てることが自己実現やQOL(Quality of Life)の向上に繋がります。
自己理解を深め、強みと弱みを客観的に把握することは容易ではありません。自閉スペクトラム症(ASD)など、神経発達障害のある方の場合、感覚過敏や社会性の課題など、特有の特性を持つため、自己理解がより困難な場合があります。
このような場合、臨床心理士や発達支援専門家などの専門家に相談し、アセスメントを受けることが有効です。アセスメントを通じて、強みと弱みを客観的に把握し、個別支援計画を作成することで、個人に合った支援を受けることができます。
自閉スペクトラム症(ASD)に対して、特効薬は現時点では存在しません。そのため、行動療法を中心とした介入が治療の中核を担います。認知行動療法や応用行動分析などの手法を用いて、個人の認知や行動パターンを修正し、社会生活への適応を促すことが目標となります。
特に、社会性の発達を促す介入が重要であり、コミュニケーションスキルや対人関係の構築を支援するソーシャルスキルの訓練が実施されます。就労を目指す人や、既に就労している人に対しては、職業訓練や職場適応訓練などの専門的なプログラムを提供する医療機関も存在します。
全国のハローワーク、障害者職業センター、発達障害者支援センターなどでは、発達障害の特性に応じた職業相談や就職支援を提供しています。自身の特性を十分に理解し、不得意な場面での対処スキルを身につけることで、自閉スペクトラム症(ASD)の「こだわり」や「特定分野への強い集中力」といった特性を仕事上の強みに転じることが可能です。特に、明確なルールやマニュアルが整備されている職種(経理・法務など)や、論理的思考で対応できる職種(プログラマーなど)は、ASDの特性に適合しやすい傾向があります。自身の得意分野と課題を見極め、適職を具体的に検討してみましょう。
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ASDの特性によって生じる困りごとは、ソーシャルスキルトレーニングなどで対処できる
ASDの特性による困りごとや生きづらさを軽減する方法として、以下のような方法があります。
ソーシャルスキルトレーニングなどによる対処
自閉スペクトラム症(ASD)など、社会的コミュニケーションに困難を抱える個人に対しては、認知行動療法の一種であるソーシャルスキルトレーニング(SST)や、個別心理療法が有効な介入として行われることがあります。
SSTは、ロールプレイなどを用いて、具体的な社会場面での適切な行動を学習する訓練法です。対人関係における非言語的コミュニケーションや会話スキルの習得を目的とし、実生活への一般化を促すことを目指します。
個別心理療法では、心理療法士が個人の特性や困難に寄り添いながら、心理的なサポートを提供します。認知の歪みや感情のコントロールに関する課題に取り組み、自己肯定感の向上を図ります。
SSTの技法を発展させた成人ASDに対するショートケア(デイケア)プログラムも実施されています。詳細については、成人期発達障害支援学会のホームページをご参照ください。
参考:認知行動療法とは?
薬による対処
自閉スペクトラム症(ASD)の治療は、個人の特性や症状に合わせて個別化される必要があります。攻撃性、自傷行為、多動性、こだわりなどの問題行動に対しては、薬物療法が併用されることがあります。神経伝達物質のバランスを調整することで、衝動性や不安を軽減し、日常生活への適応を促進する効果が期待されます。
また、ASDに伴う二次的な精神症状として、うつ状態や不安障害が生じる場合があります。これらの精神症状に対しては、抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法が行われることがあります。
ASDに認定されている薬は現状ありませんが、漢方の抑肝散などは処方されている当時者が多い印象です。不安に対してはデパスやメイラックスなどの抗不安薬が処方されます。
ASDの特性が日常生活において支障をきたしている場合、適切なサポートが必要です。
発達障害者支援センターなどにつながることによって、生涯発達段階に合わせた個別の支援が提供され、日常の課題に対処できるようになります。悩みや困難を抱えている場合は、ひとりで抱え込まず、相談窓口や専門の医療機関で専門家と話すことが大切です。適切な治療やサポートを受けることで、生活の質を向上させることができます。
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周りがサポートできることは?
支援機関を活用する
日常生活や社会生活において困難さを感じて「自分はASDかもしれない」と思ったときは、病院と共に、相談できる先や支援を受けられる機関を上手に利用する方法を検討しましょう。
まず、現在の日常生活で困っていること・得意や苦手なことなどを整理した上でお近くの病院や支援機関などに相談するといいでしょう。基本的には無料で相談することが可能です。
以下は、ASDの方をサポートする支援機関などの一部になります。
ASDについて支援機関で相談する
発達障害者支援センター(TOSCA)
発達障害がある子供から大人までの支援を総合的に行っている専門機関になります。各都道府県・指定都市に設置されています。日常生活・仕事などのさまざまな困りごとについて、相談することができる仕組みです。発達障害の診断がついていない方でも利用は可能です。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、障害のある方が就職や社会生活を送る上で必要な支援を行う機関です。
障害者就業・生活支援センターは、厚生労働省の委託を受けて、都道府県や政令指定都市、中核市、特別区が設置しています。全国に約1,000カ所あります。
地域若者サポートステーション(サポステ)
地域若者サポートステーションは、若者が生活や社会参加において様々な支援を受けられる施設やプログラムのことを指します。これらのステーションは、若者が自立し、健康的な生活を送るための環境づくりやサポートを提供することを目的としています。
病院やクリニックで診断を受ける
働くことのサポートを受ける
地域障害者職業センター
都道府県に設置されている機関で、障害のある方に対する職業リハビリテーション、就職支援、就労継続支援などを行っています。障害者が職場での適切なサポートを受けながら、自立した就労や社会参加を実現できるよう支援を行います。
参考:地域障害者職業センター
ハローワーク(公共職業安定所)
障害の有無に関係なく、求人紹介やセミナーなど就労全般をサポートする施設です。ハローワークの中には、障がい者専用の窓口があり、就職先を探す発達障害のある方に向けて相談業務を展開しています。
就労移行支援事業所
障害のある方(65歳未満)が一般企業で活躍できるよう、就職に必要なスキルの習得や就職活動のサポート、就職後の定着支援を行う施設です。
こちらも参考に:就労移行支援とは
参考:ジョブコーチとは?
「大人 ASD」のQ&A
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QASDは大人になってから気づくことはありますか?
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A
子供の頃には問題が軽微であり、また周囲の環境がそれを補っていた場合、成人後になり仕事や家庭などの環境が複雑になることで、対処が難しくなり、困難が表面化し、その結果ASDの特性が明らかになるケースもあります。
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QASDの人は話し方がきついですか?
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A
アスペルガー症候群(現在はASDに含まれる)の人々は、特有の特徴として、人とのコミュニケーションにおいて苦手な面が多く見られます。感情や気持ちを理解することが難しいため、口調が直接的になりやすく、他の人からは話し方が厳しいと受け取られることがあります。