学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)とは
学習障害は、読む、書く、計算するなど、学習に必要な特定の技能習得に困難さがみられる発達障害の一つです。全般的な知的発達に遅れはなく、知的障害、経済的・環境的な要因、神経疾患、視覚・聴覚障害などが原因ではなく、学習面のみの困難であることが診断のポイントとなります。
発症時期は、就学時に診断されることが多いですが、就学前の子どもでも、言語の遅れ、数えることの困難、書くに必要な微細運動の困難などの兆候が見られることがあります。
学校生活では、通常学級に通う児童生徒のうち、約6.5%が学習障害を抱えているとされています。知的な能力に問題はないにもかかわらず、勉強を頑張っても学習効果が上がらず、得意・不得意に大きなばらつきが見られることが特徴です。
発達障害には学習障害のほか、「注意欠如・多動性障害(ADHD)」、「自閉症(アスペルガー症候群、広汎性発達障害など)」などがあります。
学習障害、ADHD、自閉症スペクトラムは併発することも多く、それぞれ似たような症状で明確な診断をしづらいのが特徴です。
教育方面と医学方面では、学習障害のとらえ方が異なりますが、ここでは、具体的な特徴・行動、勉強法などをご紹介します。
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LD(学習障害)/限局性学習症(SLD)の教育的定義と医学的定義と症状
教育的定義
教育的定義におけるLDは、知的能力に問題がないにもかかわらず、特定の学習分野において困難を抱える状態を指します。これには、読むこと、書くこと、推論すること、または話すことにおける著しい困難が含まれます。日本の教育現場では、次のような特徴が見られる場合にLDが疑われます。
聞く
特性:聞き取ることが難しい
約束などを聞き間違えたり、聞き逃したりします。
話す
特性:話すことが苦手
● うまく言葉が出ない
推論する
●推論とは、「既知の情報から未知の事柄を推測・予測すること」です。
●学習においては、例えば既に知っている辺の長さから図形の高さを求めることが難しい場合があります。
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医学的定義
一方、医学的定義では、LDは神経発達障害の一種として位置付けられます。これは、脳の特定の機能が通常の発達過程とは異なる形で発達するために生じると考えられています。医学的には、次のような観点からLDが評価されます。
- 神経学的評価:脳の機能や構造に関する評価が行われ、神経科学的な視点から学習困難の原因を特定します。
- 心理学的評価:知能検査や認知機能の評価を通じて、特定の学習分野における困難の原因を分析します。
- 遺伝的要因:家族歴や遺伝的な要因も考慮され、LDの発現に影響を与える可能性があるとされています。
医学的アプローチでは、早期診断と早期介入が重要視され、適切な治療やリハビリテーションが提供されます。例えば、言語療法や作業療法などが用いられ、個々の症状に応じた支援が行われます。
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医学的観点のLDにおいては「読み」「書き」「計算」での評価が行われます。
特性:読むことが苦手(読字障害:ディスレクシア)
● 文章を読むのにとても時間がかかる(一文字ずつ読む)
● 文章問題が解けないことがあります。
例)「10+20=30」はできても、「リンゴが10個ありました。いちごはリンゴより10個多いです。リンゴといちごは合計何個ありますか」といった文章問題になると解けないことがあります。
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仕事上での困難
学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)は、大人になっても様々な場面で困難を引き起こす可能性があります。特に、仕事においては、以下のような課題に直面することが考えられます。
1. マニュアル理解の困難
- 複雑な文章や専門用語を理解できず、指示内容を正確に把握できない
- 図表や記号を読み解くことが難しく、全体像を把握できない
解決の糸口
- マニュアルは簡潔な文章でまとめられたものや、図解付きのものを使用する
- わからない部分は、上司や同僚に直接確認する
- 音声付きマニュアルを活用する
2. メモの欠如
- 重要な情報聞き漏らしたり、メモを取ることができない
- メモの内容が整理されておらず、後から見返しても理解できない
解決の糸口
- 録音機能付きのICレコーダーを活用する
- キーワードのみをメモし、後で詳細を書き出す
- マインドマップや箇条書きなど、自分に合ったメモ方法を見つける
3. 報告書作成の困難
- 文章構成や論理的な流れを組み立てられない
- 適切な表現や語彙を選択できず、誤字脱字が多い
- 読みやすく分かりやすい文章を書くことができない
解決の糸口
- 報告書のテンプレートを活用する
- 文章作成前に、内容を整理するためのアウトラインを作成する
- 推敲ツールや文法チェックソフトを活用する
4. 表やグラフの理解困難
- 数値やデータの関係性を理解できず、分析できない
- 図表の種類や記号の意味を理解できない
解決の糸口
- 表やグラフは、シンプルなデザインのものを使用する
- 数値だけでなく、色や記号を活用して視覚的に表現する
- 表やグラフの内容を、自分の言葉で説明してみる
参考情報
参考: 発達障害情報・支援センターhttps://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shougai/shougai_shisaku/hattatsushougai.html
LD(学習障害)/限局性学習症(SLD)のあるお子さまとの接し方
学習障害のあるお子さまへの対応では、まずそのような困難を抱えるお子さまがいることを理解することが最も重要です。
そして、特定の分野で困難を感じている部分を見つけ出し、お子さまに合った方法を模索しながら、ゆっくりとサポートする必要があります。ここでは、学習障害のお子さまの苦手分野への対応方法の一例を紹介します。
文字や文章を読むことが苦手
ひらがな1文字の読み方をしっかりと定着させることから始め、徐々に単語や語句のまとまり、そして文章を読めるようにしていくことが重要です。
そのためには、単語や語句の読み方を聞かせて意味を教えたり、例文を作成して語彙力を高めましょう。
代替手段として、周囲の大人が音読したり、コンピューターの読み上げ機能を活用することも有効です。
書くことが苦手
書くことが苦手なお子さまは読むことも苦手なことが多いため、まずは流暢に読めるようにすることが必要です。流暢に読めるようになると、ひらがなを書く力も向上しやすくなります。
書く練習は、まずなぞり書きから始め、習得度に応じて模写や聴写に進みます。紙の下にやすりを敷いて書いたり、目を閉じて書くことで、身体に字を書く感覚を覚えさせることができます。
漢字を書くのが難しい場合は、書き順や漢字の部首に着目させたり、語呂合わせのような句を作って唱えながら書く方法があります。お子さまに適した方法を選ぶことが重要です。代替手段として、コンピューターやタブレットを使って文章を作成するのも有効です。
計算することが苦手
たくさんの問題を解くのではなく、少ない問題をゆっくりと丁寧に解くことを心がけましょう。まずは、10の合成・分解を理解することが重要です。分からない問題については、答えを教えるだけでなく、解き方の道筋もしっかりとフォローするようにしましょう。
学力が伸びないのは本人の努力不足ではありません
LD(学習障害)/限局性学習症(SLD)を持つ方の学習には、単に繰り返し学習するだけでは学力が伸びないという特徴があります。理解と工夫が鍵となるポイントを以下にまとめます。
努力の過程を褒める
LD(学習障害)/限局性学習症(SLD)を持つ方は、努力しても思うように結果が出ないという経験を繰り返し、自信を失ってしまうことがあります。 理解しようと努力している過程を認め、具体的な言葉で褒めることが大切です。
二次障害の予防
学習障害への理解不足や偏見によって、二次障害と呼ばれる新たな困難を抱えてしまうことがあります。 周囲の理解と協力を得ることが、二次障害の予防につながります。
LD(学習障害)/限局性学習症(SLD)は、決して克服できない課題ではありません。 正しい理解と、個々に合った支援を行うことで、学習意欲を高め、学力を伸ばしていくことは可能です。