発達障害は遺伝する?原因は?兄弟間・親子間の確率など

発達障害知的障害

200412月に公布された発達障害者支援法によると、発達障害には「自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害」などが含まれます。これらの障害は脳機能の障害に由来し、その症状は通常幼少期に現れますが、発達障害の遺伝性については疑問が残ります。

発達障害は年々診断数が増えていますが、その原因は未だ解明されていません。遺伝との関連性についても、多くの誤解が存在します。最新の研究によれば、発達障害と遺伝の関連性について新たな事実が明らかにされています。

子供や兄弟に発達障害がある場合、遺伝の影響を心配する人もいます。現在、発達障害の原因については様々な情報があり、信頼できる情報を見極めるのは難しいです。発達障害の原因には遺伝だけでなく、他の要因も関与しており、まだ解明されていない部分があります。

この記事では、最新研究の内容とともに、発達障害と遺伝の関係性について分かりやすく紹介していきます。

参考:自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性とは?

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発達障害とは

発達障害は、文部科学省によって以下のように定義されています。 “自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの”とされています。

参考:文部科学省

参考:ADHD(注意欠如・多動症)とは?

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発達障害は大きく4つに分類されます。

  • 自閉スペクトラム障害(ASD)
  • 注意欠如・多動性障害(ADHD)
  • 限局性学習障害(SLD)
  • その他の障害

これらの障害は単独で現れる場合もありますが、複数の障害が併発することや知的障害を伴うこともあります。

発達障害とは脳の機能の偏りによって「興味関心の偏り」「不注意や多動・衝動性」などの特性が生じ、そのことが影響して生活する中で様々な困りごとが起こる障害であり、発達障害のある子供の場合だと、

  • 言葉を話し始めるのが遅い
  • 特定のおもちゃに偏って遊ぶ
  • 忘れ物や紛失が多い
  • 列に並んだり静かに待つことが難しい
  • 漢字の読み書きなど特定の学習が著しく苦手

などの症状が見られることがあります。

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大人になると、

  • 仕事でミスが増える
  • 複数の仕事を同時に処理することが難しい
  • 対人関係を築くのが難しい
  • あいまいな指示を理解するのが難しい
  • 会議などでじっとしていることが難しい

など、仕事で困る場面も増えるとされています。

 
これらの障害によって引き起こされる特性は、さまざまな困難を生み出す可能性があります。したがって、発達障害者が生活を送りやすくするためには、多岐にわたる支援が必要です。

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発達障害に遺伝子は関係ある?

現在の研究では、遺伝も発達障害の一つの要因になっていると言われています。発達障害と遺伝子は密接に関係しており、関連性のある遺伝子は無数に存在するため、原因として特定するには至っていません。

環境要因とも複雑に絡みあっていて完全に特定されている訳ではないのです。

親が発達障害だからといって、必ず子供に遺伝するというわけではなく、遺伝はあくまでも一つの要因として考えられているということです。実際には遺伝以外にも他の様々な要因が関係しあって発達障害が生じているとされています。

参考:環境要因とは?

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ある研究では、大規模な遺伝子解析による発達障害の原因遺伝子の分析も行われていますが、まだ明確な答えは出ていません。

また、発達障害に関連する遺伝子は「持っている」「持っていない」という振り分けではなく、「特性が強い」「特性が弱い」という考え方もあります。

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発達障害は遺伝する可能性がある?

親が発達障害を持ち、既に発達障害の子供がいる場合、新しい子供にも発達障害が遺伝するのか気になる人もいるでしょう。一方で、親が健常でありながら子供に発達障害が見られるケースや、複数の兄弟のうち1人だけが発達障害を発症するケースもあります。

発達障害には遺伝子が関係していると考えられるものの、遺伝子以外の要因による影響もあるため「絶対に遺伝する」とも「絶対に遺伝しない」とも言えません。このように、発達障害は多因子遺伝疾患と推測されます。

参考:多因子遺伝子疾患とは?

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発達障害が遺伝する確率とは

発達障害の遺伝に関して述べましたが、実際には「生まれてみないと分からない」というのが現状です。ただし、世界中で発達障害の原因を解明するためのさまざまな研究が進行中です。

次に、これらの研究から収集された統計を用いて、発達障害が遺伝する確率について考察してみましょう。

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親から子供に発達障害が遺伝する確率

発達障害を持つ親から発達障害児が誕生する確率は、現時点では明確ではありません。多くの研究が行われていますが、親から子供への発達障害の遺伝に関する具体的な数値を算出することは困難なようです。

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兄弟から発達障害が遺伝する確率

兄弟間の自閉スペクトラム障害の遺伝性に関する研究から、興味深い結果が報告されています。例えば、一卵性双生児で自閉スペクトラム障害の兄弟がいる場合、もう1人も発達障害を発症する確率は77%とされています。一方、二卵性双生児の場合、この確率は31%となります。

さらに、自閉スペクトラム障害の兄弟がいる場合、もう1人も発達障害を発症する確率は20%と報告されています。これらのデータはアメリカの研究者によってまとめられました。

一卵性双生児の場合、両者がともに発達障害を発症する確率が70%台と高く見えますが、一卵性双生児であっても必ずしも両者が発達障害を持つとは限りません。

遺伝子が同一である一卵性双生児でも、両者が発達障害を持つというのは100%ではありません。これらの事例から、遺伝子だけが発達障害を引き起こす原因ではないことが示唆されます。

参考:一卵性双生児とは?

 

発達障害の遺伝に関する父親と母親の影響とは

発達障害の発症には、遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合っていると考えられています。この複雑な相互作用の中で、親の持つ要因も重要な役割を果たしている可能性があります。

父親からの影響

アメリカの研究者ウェンディ・チャン氏によれば、父親が高齢である場合、受胎時に自閉スペクトラム障害の発症リスクが高まるとの警告があります。さらに、スウェーデンの研究チームによると、50歳以上で父親になった人は、20代前半で父親になった人と比較して、孫が自閉スペクトラム障害を発症するリスクが1.7~1.8倍に上がる可能性があるという報告があります。

参考:ウェンディ・チャン「自閉症のわかっていること、いないこと

参考:日本生物学的精神医学会誌 33 巻 2 号(2022)父加齢による次世代発達障害リスク: 精子エピ変異への着目

母親からの影響

妊娠中に母親がバルプロ酸を服用すると、生まれてくる子供が自閉スペクトラム障害を発症するリスクが5倍に上昇するという研究報告があります。バルプロ酸は抗てんかん薬として用いられ、てんかんの治療に加えて偏頭痛や躁状態の改善にも利用される薬剤です。

日本でも、大阪大学の研究チームが自閉症の発症とバルプロ酸の関連性について調査を行っています。その結果、妊娠中のマウスに抗てんかん薬を投与することで、自閉症のモデルマウスが生まれることが確認されました。

参考:抗てんかん薬とは?

参考:バルプロ酸とは?

参考:躁病エピソードとは?

発達障害の原因は子育てではない

インターネットなどで「発達障害の原因は子育てだ」という言説が見られることもあり、これに不安を感じる方もいるでしょう。しかし、発達障害は生まれつきの脳の機能の偏りによって引き起こされるものであり、子育てが原因とされることはありません。

現在では、子育てや親の愛情不足、あるいは本人の努力不足が発達障害の原因であるという見方は、はっきりと否定されています。

それでも、発達障害のある子どもは他の子どもと異なる特性を持つため、子育てには工夫や支援が必要です。発達障害の特性やその子の性格、困りごとなどを理解した上で接することが大切で、保護者自身の気持ちや子供の発達に良い影響を与えると言われています。

専門的な支援やプログラムも存在しますので、子育てにお困りの方は自治体の子育て窓口などに相談してみると良いでしょう。

参考:ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?

こちらも参考に:大人の「自閉スペクトラム症(ASD)」とは?特徴やセルフチェックなど

 

発達障害の診断方法

家族に発達障害の診断や傾向のある方がいて、自身の生活や仕事をしていて「発達障害の傾向に当てはまるのでは?」と感じている方は、困難を減らすためにも診断を受けてみることも検討してみてください。

発達障害の診断は専門医のいる病院で行うことができます。

子供と大人で受診先が異なっており、子供の場合は小児科や児童精神科、児童神経科などがあります。大人の場合は精神科や心療内科などで受けることが可能です。また、どちらの場合も、総合病院などの発達障害外来でも診断を受けることができます。

発達障害の診断は、問診や心理検査と呼ばれる各種検査などを通して専門の医師が判断をします。これらの検査は1日だけでなく数日にわたって行われ、診断結果が出るまでには数週間かかることもあります。

診断は基本的に予約制となっており、すぐに受診できるかはわからないため、発達障害の診断には時間がかかることを念頭に置いておくといいでしょう。

病院選びに迷う場合は、自治体の障害福祉課や子育て窓口、発達障害者支援センターなどの窓口に相談すると紹介してくれる場合があります。

また、インターネット上でも検索すると発達障害の診断ができる病院の一覧が出てくる場合もありますので、活用するといいでしょう。

ただ、発達障害に関わらず病院を受診するのは勇気がいる行為といえます。保護者や本人の気持ちも考慮して、何のために診断を受けるのか納得したうえで受診することも大切です。

参考:障害福祉課とは?

参考:発達障害者支援センターとは?

 

発達障害はさまざまな要因が複雑に絡み合って発症している

最新の研究によれば、発達障害の発生に関与する要因が以下の通り挙げられます。

  1. 遺伝子
  2. 受胎時の親の年齢
  3. 妊娠中の公害、汚染、薬剤による影響
  4. 妊娠中の食事
  5. 出産時の合併症

これらの要因が複雑に絡み合って発達障害を引き起こすと考えられており、現在でもこれらの事象を科学的に解明するための研究が進められています。

参考:精神医療審査会とは?

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発達障害と遺伝の関係性はまだ分からないことだらけ

発達障害と遺伝の関係性について、最新の研究結果を踏まえて説明してきました。発達障害はまだまだ解明されていない側面が多く、その発症のメカニズムや要因、治療法については未だ不明な点が多いと言えます。

ただし、医学と脳科学の進歩は確実に進んでいます。かつては「扱いにくい子」「育てにくい子」とされていた子供たちに対し、「発達障害」という診断が与えられ、それに基づいた「療育」という支援が提供されるようになりました。

将来的には、さらなる発達障害に関する情報が明らかにされていくでしょう。発達障害に関する全貌が解明されるその日まで、発達障害を持つ子供たちが心地よく過ごせるよう、支援の輪を広げていくことが重要です。

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お子さまの困りごとの解決のために

これから出産を検討している方や、現在妊娠中の方、発達障害のお子さまがいらっしゃるご家族は、「発達障害は遺伝するのではないか?」と心配になることもあるでしょう。しかし、現時点では遺伝との関連性が見られるものの、その原因は未だ明らかではありません。発達障害の発現にはさまざまな要因が複雑に絡み合い、「家族の遺伝が原因で発達障害が発現した」と断定することはできません。

発達障害のお子さまとそのご家族にとって大切なのは、本人や家族の困りごとをどう減らし、特性をどう生かしていくかを考えることです。一人ひとりのお子さまの特性は多岐にわたります。そのため、より良い環境を築くためには、家族が一人で悩みを抱えるのではなく、地域の相談機関や専門家と積極的に連携していくことが重要です。

参考:神保 恵理子, 桃井 真里子「発達障害における遺伝性要因 (先天的素因) について」

参考:浜松市子育て情報サイト「発達障害は遺伝するのか、教えて」

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