過剰適応とは、周りに合わせようと無理をし過ぎている状態
発達障害ではない方でも、日常生活で他者を優先する経験はあるかもしれません。周囲に合わせることは社会人として重要ですが、自分を無理に押し殺し続けることはストレスの原因となります。
特に、大人になると職場や家庭で、他者の都合を優先する状況が増えます。このような場面では、自分の感情を抑えなければならず、過剰な適応が懸念されます。
気をつけるべき点は、本人が無理をしている一方で、周囲は問題がないように見えることです。他人から見て問題がないように見えても、本人は感情を抑え込んでいたり、自己対処していたりする可能性があります。その結果、「問題が起きていないように見えるが、実際には無理を続けている可能性がある」という状態に注意が必要です。
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過剰適応の目安となるふたつの「適応」
過剰適応の場合、本来の考えや欲望を抑え、他人の要求に過度に応えようとする傾向が見られます。この過程で、うつやパニック障害などの精神疾患を引き起こす可能性もあります。
ただし、他人の期待に応えたいという承認欲求は誰もが抱くものであり、過剰適応と一般的な適応との区別は難しいとされています。この際、判断の目安となるのが「外的適応」と「内的適応」の概念です。
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外的適応と内的適応
ふたつの違いは以下の通りです。
1. 外的適応: 社会や環境の変化に柔軟に対応し、周囲との調和を図りながら生活していくための、能動的な適応の状態です。
2. 内的適応: 心の安定や幸福感といった、自分自身の内面的な充足感を得るために、積極的に自己調整を行う状態です。
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外的適応型タイプ
無理やり周りに合わせていると自分でも自覚しているのが特徴です。以下のような行動を指します
- 親の言いなりになって、嫌いな人と結婚した
- 仕方なく、嫌な会社で笑顔を装っている
- パワハラ上司に媚びている
本音はNGでも、表面的にはOKと見せかける適応を意味します。
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内的適応型タイプ
本音が言えない状況で、無理に本音を受け入れようとして、自分を無理やり納得させようとすることがあります。
・嫌いな人との結婚を親の意向で受け入れた →親の意向に従って嫌いな人と結婚し、感情を変えようとする
・嫌いな会社に笑顔で務める →その会社をどうにか好きになろうとし、ポジティブな態度を心がける
・パワハラする上司をおだてる →上司が素晴らしい人だと思い込もうとし、おだてる行動に出る
心の過剰適応と呼ばれる状態です。
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過剰適応かどうかを判断する目安は「外的適応と内的適応のバランス」にある
外的適応が過度に重要視され、内的適応が軽視されると、過剰適応の傾向が生じる可能性があります。このバランスの崩れは、うつやパニック障害などの精神疾患に繋がるリスクがあります。
日潟敦子氏が発表した『過剰適応の要因から考える過剰適応のタイプと抑うつとの関連』という論文によれば、外的適応行動よりも内的適応の過剰行動が精神疾患と関連しているとの分析があります。
外的適応行動が過度になると、「自分らしさがない」「自分に自信がない」といった自己不全感が生じ、他人に合わせることしか選択肢がない状況下で、過剰適応が発生する可能性があると述べています。
発達障害者特有の「自己肯定感の低さ」とも繋がっている気がしますね。心理的に不健全な状態と言えるでしょう。
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過剰適応の原因
過剰適応の原因には、親子関係や人間関係、社会への不安などが挙げられます。また、「和を尊ぶ」日本独特の価値観も過剰適応を促進する要因とされています。これは、周囲に合わせつつも自らの役割を果たさなければならない状況が多いためです。以下は、日本特有の要因として考えられるポイントは以下の通りです。
過剰適応を起こしやすい人の5つの特徴
2015年に行われた「過剰適応についての研究」では、大学生260名を対象にを行いました。その結果、過剰適応を構成する5つの要素があることが分かりました。
自己抑制 → 思っていることを内に秘める
自己不全感 → 自分に自信がない感覚
他者配慮 → 相手が困っていても何かお手伝いしたいと思う態度
期待に沿う努力 → 期待に応えるために成績向上を目指す
良く思われようとする → 周囲に好かれるよう努める
いかがでしょうか?上記の項目にあてはまる方は過剰適応しやすいので注意が必要です。発達障害の方も「空気を読めない」や「人と考えている事、感じている事が異なる」ため、過剰適用しがちなので注意が必要です。
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過剰適応が続くと出る職場での悪影響
社員が長期にわたり過剰適応していると、いつか急に休職を余儀なくされる可能性があります。しかし、過剰適応の傾向がある人は、周囲に心配をかけないようにと、「大丈夫」「元気」といった言葉で様子を隠すことが一般的です。そのため、周囲は簡単に気づけないことがあります。
過剰適応に陥っている社員を見極める方法のひとつは、上司が自ら「疲れた」と率直に伝えることです。部下に対して「つらいときは素直に伝えてもよい」という雰囲気を醸成することで、部下も自分の気持ちを打ち明けやすくなります。
また、過剰適応の社員がヘルプを求めた場合は、まず助けを要請する行動や言葉に感謝の態度を示すことが重要です。上司が「つらいときに自分の気持ちを話してくれてありがとう」と伝えることで、社員は承認と安心を同時に得られ、過剰適応が和らぐ可能性があります。
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過剰適応の対策と治し方
過剰適応に陥り、自分の気持ちを無理に抑え込んで相手や環境に過度に合わせると、睡眠障害、やる気の低下、精神疾患などのリスクが高まります。以下に、過剰適応に対する対策と克服方法を4つ紹介します。これらのアプローチは、1on1での取り組みにも適しています。
- 限界を設定する : 適切な限界を設定し、他人のために無理をすることを防ぎましょう。自分の体力や精神的な余裕を大切にし、無理なく働くためには限界を理解することが重要です。
- アサーションを身につける : アサーションは、自分の意見や感情を適切に表現するスキルです。過剰適応を防ぐためには、他人に対して遠慮せずに自分の立場を主張することが必要です。
- 主体性を保持する : 過剰適応は他人中心の行動が多い傾向があります。主体的に物事を進め、自分の目標や価値観を大切にすることで、バランスを保ちつつ生活できます。
- 自分の気持ちを感知する : 自分の感情やストレスを定期的に確認し、感知することが重要です。気づいたら適切な対処法を見つけ、感情を溜め込まないよう心がけましょう。
①限界を設定
「相手のためにここまでなら無理のない範囲でがんばれる」と自分の中で決めておくと、自己犠牲をせず、相手の役に立てることができます。
職場では、上司が部下の仕事量を把握し、適切な指示を出すことが重要です。
部下が過剰適応にならないよう、無理のない仕事量を割り当て、休息をとらせるようにしましょう。
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②アサーション
過剰適応を防ぐには、以下の3つの方法が効果的です。
自分の気持ちを伝えつつ相手の気持ちも配慮する「アサーション」の考え方を訓練するのも効果的です。アサーションは、相手と対等な自己表現を目指すものであり、訓練してアサーティブが実現することで自己犠牲的な承認を軽減できます。
また、職場ではアサーティブコミュニケーション研修を実施したり、面談での会話などでアサーティブコミュニケーションを実践したりする方法も有効です。
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③主体性を保持
過剰適応の状態を克服するには、本人が自分自身の感情に対峙することが重要です。自分の気持ちに素直になり、その感情が他者に理解される経験を積み重ねることで、主体性を維持できるようになります。
ここで言う主体性は、「自分の意志をはっきりと示す」「自分から率先して行動する」といった意味ではありません。むしろ、他者の意見に柔軟に対応しながらも、冷静に判断し、自分の感情に揺るぎがない状態を指します。
主体性を養うためには、決断や選択をする機会を積極的に増やすのが効果的です。小さな成功体験を重ねることで、自身の価値観が徐々に確立され、職場においては未知の業務に挑戦することも一つの手段となります。
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発達障害における過剰適応とは
うっかり忘れやケアレスミスが多い、リカさんの場合
リカさんはADHDの特性により、「仕事で指示された内容をうっかり忘れてしまう」、「書類を作るときに細かな部分でケアレスミスが多い」といった課題に直面していました。
前職ではこれが原因で上司からたびたび注意を受け、その結果として転職を余儀なくされました。新しい転職先では同様のミスを繰り返さないようにするため、以下の対策を講じました。
・仕事で指示されたことを忘れないよう、PCメモを活用しいつでもメモを取れるようにする
・タスク管理のアプリを使用して、締め切りを忘れないようにリマインドする。
・書類のケアレスミスをなくすため、自身でのダブルチェックを行う。
これらの対策により、うっかり忘れやケアレスミスは減少しましたが、本来細かいことに気を配るのが苦手なリカさんにとって、非常に疲れる方法でもありました。苦手な仕事が余計に時間を要し、業務が忙しい時期には遅くまで残業することもありました。
しかし、転職先の同僚たちはかつてのリカさんの様子を知らなかったため、今のリカさんがどれだけ無理をしてがんばっているかを理解出来ず、仕事が増えるにつれて、リカさんの疲労とストレスは蓄積され、ついには限界を越えてしまいました。仕事に通うことができなくなり、リカさんは「適応障害」と診断され、休職することとなりました。過剰な努力が適応障害につながりました。
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空気が読めず、友だちとの人付き合いで苦労したイチローさんの場合
ASDの特性のある方はこういった経験も多いのではないでしょうか?
子どものころから場の空気が読めず、「友だちとの会話がうまく成り立たない」という課題に直面しましていたイチローさん。 具体的な困りごとは以下の通りです。
- 友人の冗談を本気に受け止め、深く傷ついたり、怒りを爆発させてしまうことがある。
- 会話の流れが全くつかめず、まるで違う話をしているように感じてしまう。
- グループでの会話に巻き込まれ、何をどう答えて良いのかわからず、場を白けさせてしまうことがある。
- 場の空気を読めず、不適切なタイミングで冗談を言ってしまうため、周囲を不快にさせてしまう。
これが原因で、イチローさんは会話に入れてもらえなくなり、徐々に仲間はずれにされるようになりました。この状況を打開しようと、イチローさんは以下の対処法を考えました。
- 「話がよくわからなくても、とりあえず相づちを打って、とりあえず笑顔を作っておけば何とかなるだろう」と、つい思ってしまう。
- 「もしかしたら冗談かもしれないから」と、心ない言葉にも笑顔で対応してしまうことが多い。
- 「自分の意見なんてどうせ間違っている」と、最初から諦めてしまい、本音を言えない。
- 「何か言ったら、また変なことを言ってしまうかも」という不安から、会話に積極的に参加できない。
これらの対処法のおかげで、なんとか周囲に合わせることができ、仲間はずれになる心配はなくなりました。しかし、友達と過ごす時間が増えるにつれて、以前のように心から楽しむことができなくなり、ただただ疲れてしまう自分に気づきました。
気づかないうちに、イチローさんは場の空気を読もうとし、相手の表情や言葉の抑揚、身ぶり手ぶりなどに常に細心の注意を払っていました。
つまり、「場の空気を読む」というセンサーが働かない代わりに、別のセンサーを最大パワーでフル活用していたのです。これが原因で友だちとの会話に大きな疲れを感じ一人で居る選択をするようになりました。
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発達障害の場合の過剰適応対策方法
・ストレスのサインを見逃さない
・自分と周りとのバランスを取る
以下で説明していきます。
ストレスのサインを見逃さない
「自分でも気が付かないうちに、がんばり過ぎて過剰適応の状態に陥ってしまう」こともあります。ストレスが爆発してしまう前に気づけるよう、ストレスのサインを見逃さないことが重要です。
企業におけるストレス・マネジメントの1つに「従業員を“ケチな飲み屋”に通わせるな」という標語があります。仕事において以下のようなサインが現れている場合、その従業員はストレスがたまっている可能性が高い状態なのです。
発達障害のある方の場合、「自分が疲れていることに気づけない」特性を持っていることも少なくありません。ストレスのサインを見つけるために、チェックシートを作るのもおすすめです。
例えば睡眠時間や食事の回数、ストレスや体の疲れを感じる度合いなどを毎日数字で記録することで、自分の状態を客観的に見ることができます。
また厚生労働省の運営する以下のWebサイトでは、ストレスや疲労の度合いをセルフチェックできるコンテンツが用意されています。もちろんセルフチェックだけで安易に判断することはできませんが、自分の状態を客観的に知るための参考として活用できます。
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なおADHDの方の場合、特性により「日々忘れずに記録をつけること」や「チェックリストに回答すること」自体が苦手な方も少なくありません。そのような場合には、自動的にスマートウォッチやスマートフォンの記録を取ってくれるアプリを活用するのもおすすめです。
普段の生活の中で体や心が発するサインを見つけたら、一度立ち止まって、ストレスがたまり過ぎていないか考えてみることが大切です。
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自分と周りとのバランスを取る
周りに気を遣うことも大切ですが、自分の気持ちを尊重することも健康に生きるためには欠かせません。
社会の中で生きていく以上、自分の都合ばかりを優先するわけにはいきませんが、それは自分だけでなく、周りの人も同じであり、本来はお互い様であるはずです。相手を尊重するのと同じくらい自分のことも尊重して、ときには空気を読みすぎないことも必要です。
・誰かに誘われても、自分一人の時間を大切にする
・「誰かから頼まれたこと」ではなく「自分がやるべきこと」から先にやる
・頼まれても気が進まないことは断る
…といったこともできるよう、自分と周りとのバランスが取れるよう、コミュニケーションすることが大切です。
とはいえ、そもそもコミュニケーションが苦手でどう伝えてよいかわからない発達障害の方もいます。(例えば、気が進まないことを断ろうとして「私はやりません!」と強く言ってしまい、相手から反感を買ってしまう、など。)
そのような場合は、まず「コミュニケーションが苦手なこと」を相手に伝えたうえで、自分の伝え方が適切だったかどうかフィードバックをもらえるよう依頼することで、不安が解消できるかもしれません。
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発達障害の方が無理なく周囲と良い関係を築くために
上記で紹介した「アサーティブコミュニケーション」を応用した「アイメッセージ(I message)」を使ってみましょう。
アイメッセージとは、会話をするときに「あなた(You)」ではなく「わたし(I)」を主語に言い換えて話す、というものです。
- アイメッセージの例:相手の意見に反対である場合
- 「あなた」が主語:あなたの意見は、間違っています。
- 「わたし」が主語:わたしの意見は、あなたとは違います。
このように「わたし」=自分を主語にして話すことで、自分の気持ちが明確になったり、相手のせいにしない会話ができたりするようになります。
発達障害の特性による生きづらさへの対策は、「注意する」「心がける」といった意識の問題だけでなく、周囲の協力を得て、具体的な対策をすることで改善できることがたくさんあります。
本を読んだだけや一度や二度の練習だけでは身に付けられるものではないので反復して練習することが欠かせません。
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