雇用保険の一般被保険者には、例外を除き、失業給付(基本手当)の受給資格があります。これらの被保険者は、離職理由に応じて、一般受給資格者、特定受給資格者、特定理由離職者のいずれかに分類されます。
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特定受給資格者及び特定理由離職者とは
「特定理由離職者」とは、雇い止めによる退職あるいはやむを得ない正当な理由による自己都合退職した人を指します。
本人の就業意思がありながらも、やむを得ない事情で勤務が難しい状況にある人がこれに該当します。たとえば、期間に定めのある労働契約が更新されなかった人や、体調不良、介護、出産育児などで勤務が困難な人が含まれます。
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失業保険の特定理由離職者に該当する範囲の拡大部分
「正当な理由のある自己都合」には、病気やケガなどのやむを得ない事情が含まれますが、令和5年4月から新たな理由が追加されました。
追加された項目は、
「配偶者から身体的な暴力やそれに準ずる心身に有害な言動を受け、加害配偶者との同居を避けるために住所や居所を移転したことで離職した場合」
です。この配偶者には事実婚も含まれ、被害者の保護をより強化するための措置が取られたことがわかります。
ただし、特定理由離職者として認められるにはいくつかの手続きが必要で、簡単には認められません。離職票の作成時には、証拠となる添付書類が求められるため、注意が必要です。
厚生労働省:配偶者から暴力を受け、加害配偶者との同居を避け るため転居したことにより離職された方の取扱いに ついてお知らせします
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特定理由離職者と特定受給資格者との違い
退職理由
特定理由離職者の離職理由は、雇用先ではなく本人の環境変化や体調などの「自己都合」が主な離職の理由となります。一方で、特定受給資格者の離職理由は、本人に問題がなく、「倒産」「解雇」などの「会社都合」が離職の主な理由となります。
特定理由離職者の離職理由の例
特定理由離職者の区分①:雇止めで離職した
雇止めで離職した人が特定理由離職者と認定されるためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
2. 労働契約の更新又は延長があることが明示されていたこと
3. 労働者が契約更新を希望したにもかかわらず、合意が成立しなかったこと
1つでも条件を満たさない場合、雇止めが理由で退職しても特定理由離職者と認定されません。
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特定理由離職者の区分②:正当な理由で自己都合退職した
特定理由離職者になるためには、以下のいずれかの理由で離職し、かつ、ハローワークの認定を受ける必要があります。
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特定受給資格者の離職理由の例
などが挙げられます。
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離職票での退職理由区分
特定理由離職者と特定受給資格者での違いは、「離職票-2」の離職区分でも分かります。それぞれの離職区分は次のとおりです。
【特定理由離職者】
- 2C:期間満了により次の契約更新がなく離職した場合(雇用期間が3年未満で更新の明示がない場合)
- 3C:正当な理由のある自己都合退職(後述の3A、3B、3Dに該当しないもの)
- 3D:特定の正当な理由のある自己都合退職(被保険者期間が6か月以上12か月未満の該当者のみ)
【特定受給資格者】
- 1A:解雇(1Bと従業員の責任による重大な理由による解雇を除く)
- 1B:天災そのほかやむを得ない理由により事業継続が不可能な場合の解雇
- 2A:特定雇い止めによる離職(雇用期間3年以上雇い止め通知あり)
- 2B:特定雇い止めによる離職(雇用期間3年未満更新明示あり)
- 3A:雇用先からの働きかけによる正当な理由のある自己都合退職
- 3B:雇用先移転にともなう正当理由のある自己都合退職
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失業保険の所定給付日数
特定理由離職者の給付日数は、一般的な離職者と同様に90日から150日です。特定受給資格者や一部の特定理由離職者は、最長給付日数が330日まで延長されます。
いずれの場合も、適用に必要な被保険者期間や待期期間は7日で、給付制限期間はありません。
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特定理由離職者のメリット
特定理由離職者のメリットは、一般離職者に比べて失業手当の受給条件が緩和されることや、健康保険料や住民税が軽減されるケースもあります。
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① 一般離職者より受給要件が緩和される
特定理由離職者は、一般離職者よりも失業手当の受給要件が緩和されています。
特定理由離職者は、離職日以前の1年間で6か月以上の被保険者期間があれば受給可能です。一方、一般離職者は離職日以前の2年間で12か月以上の被保険者期間が必要です。
また、特定理由離職者は、一般離職者よりも失業保険の長期受給が可能です。
通常の特定理由離職者は、最長150日まで受給できます。ただし、離職日が2009年3月31日から2022年3月31日に該当し、かつ離職理由が雇い止めの場合、特定受給資格者と同じく最大330日まで受給できます。
② 給付制限期間が免除
特定理由離職者には、給付制限期間がありません。そのため、7日間の待期期間を経て、すぐに失業手当の受給が開始されます。一方、一般的な自己都合退職や懲戒解雇の場合、7日間の待期期間を経て、さらに2か月から3か月の給付制限期間が設けられます。つまり、特定理由離職者の場合、一般的な自己都合退職や懲戒解雇の場合と比べて、早期に失業手当を受給できることになります。
③ 健康保険料や住民税が軽減される場合もある
雇い止めによる特定理由離職者として認定された場合、国民健康保険料や住民税の軽減を受けられることがあります。軽減を受けるには、離職者自身が市区町村に申請する必要があります。なお、軽減率や金額は市区町村によって異なるため、詳しくは役所で確認しましょう。
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特定理由離職者のデメリット
特定理由離職者として認定されるかどうかは、ハローワークの判断によります。そのため、離職者自身で認定を決めることはできません。また、雇用先と離職者間で主張が食い違う場合の事実確認や、不正受給防止などの観点から、労働契約書や賃金台帳など、さまざまな証明書類の提出が求められます。一般離職者の失業保険受給に比べて申請に手間がかかるため、デメリットといえるでしょう。
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特定理由離職者が失業保険を受給するための条件
特定理由離職者が失業保険を受給するためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 失業中であること
- 離職日以前の2年間に、雇用保険加入期間が6か月以上あること
- ハローワークで求職を申し込んでいること
特定理由離職者は、一般離職者よりも受給要件が緩和されています。雇用保険の加入期間が6か月以上あれば受給可能ですが、一般離職者の場合は、離職日以前の2年間に12か月以上の加入が必要です。
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特定理由離職者の失業保険受給に診断書が必要なケース
特定理由離職者または特定受給資格者に該当するかは、離職者本人や勤めていた企業が単独で判断するものではありません。離職を証明する書類などをハローワークに提出し、その後、ハローワークが慎重に判断を行います。
たとえば、病気やケガにより離職した場合、やむを得ない正当な理由での退職を客観的に証明し、特定理由離職者に認定されるための証明書として、医師の診断書がその証明となります。この医師の診断書はハローワークに提出する必要があります。具体的な証明書類の必要性はケースにより異なりますので、注意が必要です。
特定理由離職者と特定受給資格者の範囲や、ハローワークに提出するべき資料については、厚生労働省が公表する「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」を参考にしてください。
考えられるケース
- 心身の状態により就業が困難な場合:離職者自身の障害や疾病、または視力・聴力・触覚の低下に関する証明が必要
- 家庭の事情が急変した場合:父母や親族の障害や疾病の程度や、必要な看護レベルを証明する書類が必要
給付開始時期
特定理由離職者の場合、ハローワークでの手続きや失業認定がスムーズに進むと、離職から約1か月程度で失業手当を受け取ることができます。
すべての離職者に適用される7日間の待期期間後に受給手続きを行い、失業認定後およそ5営業日で給付という流れです。ただし、失業認定を受けるためには求職活動実績が必要であり、失業認定には1か月ほどを要するため、離職から実際の給付まで約1か月かかり、実際に現金が振り込まれるのは、受給資格決定日から約1ヶ月後です。
失業認定は、再就職に向けた活動が前提となっており、求職活動に対する意欲や努力が見られない場合は「失業」と認定されず、特定理由離職者であっても2~3か月の給付制限が発生します。これには「ハローワークからの職業紹介を受けない」「職業訓練や職業指導を正当な理由なく拒否する」などの行為が該当します。
さらに、特定理由離職者に限らず、7日間の待機期間中にアルバイトをしたり、再就職先が決まった場合は、失業保険を受給することはできません。
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基本手当日額の計算方法
基本手当日額は、賃金日額に給付率を乗じて算出されます。
賃金日額は、離職前6か月の給与総額を180で割ったものです。給付率は、賃金日額と離職時の年齢によって異なります。
賃金日額と基本手当日額は、雇用保険受給資格者証に記載されています。ハローワークで失業保険の受給手続き後に参加する受給者説明会で交付されます。
賃金日額は、基本手当日額の欄に記載されています。また、認定日や受給期間の満了日、給付日数なども記載されています。失業認定日に必要となる重要書類なので、受給期間が終了するまでは保管しましょう。
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受給するまでの流れと必要書類
特定理由離職者が失業保険を受け取るまでの流れは、以下のとおりです。
なお、実際に現金が振り込まれるのは、書類を提出した7日後から約1ヶ月後となります。
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退職者が用意する書類
- 離職票-1(会社が発行)
- 離職票-2(会社が発行)
- マイナンバーカード
- マイナンバーカードを持っていない人は、次の①及び②をそれぞれ1種類をお持ちください
①通知カード、個人番号の記載のある住民票
②運転免許証、運転経歴証明書、官公署が発効した身分証明書・資格証明書(写真付き) - ②がない場合は公的医療保険の被保険者証、児童扶養手当証明書等(コピー不可)
- マイナンバーカードを持っていない人は、次の①及び②をそれぞれ1種類をお持ちください
- 本人の印鑑(認印・スタンプ印以外)
- 写真(最近の写真、正面上半身、縦3㎝×横2.5㎝。1枚は離職票-2に貼付欄に貼付)
- 本人名義の預金通帳(一部の金融機関を除く)
- 金融機関指定届に金融機関の確認印が押されている場合は提出不要
- 船員であった方は船員保険失業保険証及び船員手帳
会社が用意する書類
会社側は退職者が特定理由離職者だと証明できる書類を、ハローワークの要望に応じて用意する必要があります。
解雇で離職した場合
- 労働契約書
- 雇入通知書
- 就業規則
正当な理由で自己都合退職した場合
また、離職票も離職者に会社から発行になります。
離職票を発行するためには、以下の書類を所属するハローワークに提出する必要があります。
離職票発行に必要な書類
・出勤簿、就業規則、賃金台帳などの添付書類
これらの書類が整備されることで、離職票が適切に発行されます。
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理由 | 書類 |
心身障害 | 医師の診断書 |
妊娠・出産 | 受給期間延長通知書 |
父母の扶養 | 所得税法第194条に基づく扶養控除等申告書 健康保険証 医師の診断書等 |
通勤不可能 | 離職者の通勤経路に係る時刻表等 |
人員整理 | ハローワークに問い合わせ |
発達障害で仕事を転々としていましたが、脱サラして地元でスナックを開業しました。
不正受給した場合の罰則
もし失業保険を不正に受給した場合、以下の処分が課せられる可能性があります。
- 失業保険の給付停止
- 給付を全額返還
- 支給額の倍額を納付
- 詐欺罪として告発
また、企業が離職票などの内容を偽って記載した場合、企業も連帯して処分を受けることがあります。
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特定理由離職者は助成金受給に影響がある?
雇用関連助成金の受給資格がなくなるのは、「一定期間内に事業主の都合による離職者が出た会社」(雇用保険被保険者資格喪失届の喪失原因が「3」に該当する場合)です。
特定理由離職者は会社都合による離職者ではなく、不支給要件に当てはまらないため、助成金を申請することができます。
一方、特定受給資格者は会社都合で離職した人なので、一定期間内に特定受給資格者を出した会社は、雇用関連助成金を申請できません。
どうしても特定受給資格者を出さざるを得ない状況になった場合、不支給要件に該当する時期が過ぎるのを待ち、改めて申請してください。
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