「相貌失認」とは、他人の顔を認識できない状態を指します。「顔を覚えられない」 「名前を忘れてしまう」 もしかして、あなたも相貌失認の可能性があるかもしれません。
顔のパーツは見えているのに、それをひとつの顔として結びつけることが難しいため、症状が進行すると、身近な人や有名人も区別がつかなくなります。
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相貌失認に悩む人は、日常生活でさまざまな困難に直面しますが、相貌失認に関する理解が進むことで、自分や周囲の人をサポートする手助けとなります。
2013年に俳優のブラッド・ピットが相貌失認の疑いがあることを告白したことがありますが、依然としてこの障害についての一般的な認識は十分でないと言えます。この記事では、相貌失認の基本的な特徴から、発達障害との関連性までを紹介します。
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相貌失認(失顔症)とは
相貌失認(失顔症)は、他人の顔が覚えられない、分からないという症状を指し、読み方は「そうぼうしつにん」です。これは高次脳機能障害の一つで、先天的なものと後天的なものがあり、後天的なものの中では脳血管障害、外傷、脳炎などが原因で発生することもあります。
症状には個人差がありますが、重度な例では両親や親友、自分の子どもを見てもそれが誰なのか分からなくなることや、目の前にいる人の性別や年齢が全く分からなくなることがあります。
海外の複数の研究において、一般集団における相貌失認の有病率は、およそ2%と報告されています。国内においても、相貌失認の症例報告は増加傾向にあり、ご自身の身近な方にも相貌失認の方がいらっしゃる可能性は十分に考えられます。
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相貌失認と高次脳機能
高次脳機能は、私たちが日常生活や社会生活で行動するために必要な能力です。経験や知識、自分の立場や役割などを基に、必要な情報を判断し選択することで、集中しているときは周囲の刺激をあまり感じないようになります。
高次脳機能は階層性を持つため、注意機能や意欲といった基礎的な認知機能の障害は、より複雑な遂行機能であるスケジュール管理能力の低下を招く可能性があります。個々の障害の重症度や特性を精緻に評価し、それに応じた支援を提供することが重要です。
【注意障害】
脳の損傷や脳の病気によって引き起こされる状態で、注意力が低下し、集中できなくなる特徴があります。集中力が短く、周囲の刺激に敏感で気が散りやすい、注意を切り替えるのが難しい、注意が散漫などが症状として現れます。
参考:注意障害とは?
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発達障害で仕事を転々としていましたが、脱サラして地元でスナックを開業しました。
【意欲障害】
高次脳機能障害の一種で、自ら何かを始めたり、続けたりすることが難しくなる状態です。自分の興味や目標に関連することに興味を示さなくなり、自発的な行動が難しくなります。感情や行動の抑制がきかなくなることもあります。
参考:意欲障害とは?
相貌失認の症状
相貌失認は、顔の認知障害の一種で、顔の特徴を認識できますが、それらを組み合わせて1人の顔として認識することができません。
具体的な症状には、親しい人や有名人の顔が見分けられない、自分の顔を鏡で見ても気づかない、他の特徴で人を識別する、顔の表情や感情を読み取れない、男女や年齢が区別できない、同じカテゴリーのものを区別できないなどがあります。
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最新の研究では、相貌失認は単一の障害ではなく、複数のタイプに分かれ、それぞれが重度、中度、軽度の場合に分かれます。
相貌失認になると、物やかたちを記憶することができるのに、人の「顔だけ」認識できなくなります。通常の人は友人や家族の顔がちらっと見えれば、それが誰なのか気づくことができますが、相貌失認の人にとっては、自分を含めた全ての人の顔が同様に見え、顔をちらっと見ただけでは誰かを判断することができません。
軽度な相貌失認の場合、気づく頻度は一般的な人に比べてやや少ないものの、重度な相貌失認になると、自分の親や子どもの顔が分からなくなり、日常生活で大きな困難を感じることもあります。
相貌失認の人が相手の顔を覚えることができないことは、しばしばショックや不快感をもたらし、周囲からは失礼な人だと誤解されることがあります。しかし、相貌失認は意図的に顔を覚えていないわけではなく、むしろ人より覚える努力をしているにも関わらず人の顔を認識することができない障害です。
以下のようなことが相貌失認を持つ人にあるエピソードです。
・待ち合わせの場で相手を見つけることができない
・以前あいさつしたことのある人に対して、失礼な対応をしてしまう
・学校や職場でよく会う人であっても、ふだん会わない場所だと無視してしまう
・子どものお迎えにいっても、自分の子どもを見つけられない
・知人に肩を叩かれたときに、不審者に叩かれたかのような反応をしてしまう。
・自分の顔を鏡で見ても自分だと気づかない
重度の場合
脳損傷や脳疾患によって脳の顔認識に関わる部位が広範囲に損傷された場合に引き起こるとされる重度の相貌失認では、親しい人や自分自身の顔ですら見分けられないことがあります。
この症状の特徴的な例として、
- 誰の顔を見ても見知らぬ人と感じる。
- 顔の特徴を覚えられない。
- 自分自身の顔を認識できない。
などが挙げられます。社会生活が著しく困難な場合があり、例えば声だけで人を識別することができる場合でも、声が聞こえない状況ではコミュニケーションが難しいとされています。
さらに、顔の表情や感情を読み取れないため、相手の気持ちや意図を理解することが難しくなります。重度の相貌失認を持つ人は、その苦労から社会的孤立やうつ病などの心理的問題にも悩まされる可能性が多くなります。
中度の場合
中度の相貌失認は、発達期における脳の顔認識回路の未発達、または後天的な脳損傷による顔認識関連部位の機能障害が原因で生じると考えられています。この状態では、親近者や自己の顔認識は比較的保たれているものの、非親近者や社会的に著名な人物の顔識別、および顔の特徴記憶に困難が生じます。
中度の相貌失認の症状をまとめると、
- 顔の特徴に基づいて他人を識別することが難しい。
- 顔の表情や感情を読み取ることが困難。
- 顔以外の特徴で人を識別する。
このような症状により、新しい人と出会ったり、知り合いと再会したりするときに困ります。例えば、
- 顔認識障害が原因となり、初対面の人とのコミュニケーションが円滑に進まない。
- 学校や職場など、顔認識が求められる場面での適応が困難となる。
- 顔認識障害に伴い、孤独感や不安感などの心理的なストレスを経験する。
また、顔以外の特徴で人を識別しているため、特徴が変わってしまったり、隠れている場合に混乱してしまうこともあります。例えば、
- 髪型や服装が変わっただけで、誰なのかわからなくなってしまう。
- マスクをしていると、誰なのかわからない。
中度の相貌失認は、顔認識機能の障害により、本人にとって深刻な心理社会的影響をもたらす可能性があります。具体的には、自己概念の歪み、社会不安、孤立感といった問題が生じることがあります。相貌失認の当事者は、自身の障害を隠そうとすることで、かえって精神的なストレスを抱え込み、自己信頼感や自尊感情を低下させることがあります。また、対人関係においては、コミュニケーションの困難や社会的な孤立感といった問題に直面し、結果として生活の質が低下する可能性があります。
相貌失認に対する治療介入としては、認知行動療法(CBT)、顔認識トレーニング、社会スキル訓練などが挙げられます。認知行動療法では、歪んだ認知を修正し、自己効力感を高めることで、心理的な苦痛を軽減することを目指します。
顔認識トレーニングでは、顔の特徴抽出、記憶、感情認識の訓練を行い、顔認識能力の改善を図ります。さらに、社会スキル訓練では、対人関係におけるコミュニケーションスキルを向上させることで、社会生活への適応を支援します。
相貌失認の治療は、単に認知機能の改善だけでなく、心理的なサポートも不可欠です。家族や友人、周囲の人々への理解と支援を得ることは、当事者の心理的な安定に大きく貢献します。また、多職種によるチームアプローチを通じて、より包括的な支援を提供することが重要です。
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軽度の場合
軽度の相貌失認は、遺伝的要因や発達障害(自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHDなど)によって、脳の顔認識に関わる部位が正常に機能しなかった場合に起こると言われています。軽度の相貌失認の場合、親しい人や自分自身、有名人の顔は見分けられるけれど、他人や新しい人の顔は見分けられなかったり、顔以外の特徴で人を識別したりします。
「自閉スペクトラム症(ASD)」は、神経発達障害の一種であり、社会性、コミュニケーション、そして制限的で反復的な行動パターンを特徴とする神経発達障害です。ASDの症状は個人差が大きく、軽度から重度まで幅広いスペクトラムを示します。
注意欠如・多動性障害(ADHD)は、神経発達障害の一種であり、注意の持続、衝動性の抑制、過剰な活動性といった実行機能の障害を特徴とする疾患です。ADHDの症状は、落ち着きのなさ、集中力の欠如、衝動的な行動として現れ、学習、対人関係、日常生活に様々な困難をもたらす可能性があります。
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軽度の相貌失認の症状をまとめると、
- 顔の特徴を覚えることはできるが、認識に時間がかかる。
- 他人の顔を見ても、一瞬だけ見覚えがあるが、その後すぐに忘れてしまう。
- 顔の特徴に基づいて他人を識別することが苦手。
このような症状により、初対面の人やあまり親しくない人と話すときに困ります。例えば、
- 初対面の人と話していて、その人が誰なのかわからなくなってしまう。
- 仕事や学校で、顔で判断する必要がある場面で困る。
- 家族や友人との会話が途切れてしまう。
また、顔以外の特徴で人を識別するため、その特徴が変わったり隠れたりした場合、混乱してしまうこともあります。例えば、
- 髪型や服装が変わっただけで、誰なのかわからなくなってしまう。
- マスクをしていると、誰なのかわからない。
軽度の相貌失認を持つ人は、自分の障害に気づかずに周囲から変わっていると思われたり、自分の障害に気づいても周囲に理解されなかったりする可能性があります。
このように、相貌失認の症状は社会生活において「生きづらさ」を多くの場面で感じさせます。
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相貌失認と診断された人は日常生活でどんな困難がある?
「相貌失認」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは、親しい人の顔すら認識できなくなる神経学的な疾患です。会話や挨拶といった、日常生活における基本的な社会的なやり取りにおいて、大きな困難を伴うことが特徴です。
相貌失認は、その症状の程度によって、重度、中度、軽度に分類されます。重度の場合、家族や親しい友人であっても、顔を見分けることが困難となり、日常生活に大きな支障が生じます。中度の場合、ある程度顔は認識できるものの、特定の状況下や、初めて会う人との間では困難を感じるケースが多いです。軽度の場合には、比較的スムーズに顔認識ができるものの、混雑した場所や、似たような顔の人を見分ける際に困難を感じる場合があります。
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相貌失認者が直面する困難は、単に顔が見えないというだけでなく、以下のような多岐にわたります。
- 社会的な孤立: 顔が認識できないことで、対人関係を築くことが難しくなり、孤独感を抱えやすくなります。
- 自己肯定感の低下: 自分の状態を理解できず、自己肯定感が低下し、うつ状態になるケースも少なくありません。
- 不安感: 日常生活の中で、誰かと顔を合わせる場面で強い不安を感じることがあります。
- コミュニケーションの困難: 会話の中で、相手の表情や感情を読み取ることが難しく、コミュニケーションが円滑に進まないことがあります。
相貌失認は、単なる「顔が見えない」という問題にとどまらず、心理的な側面にも大きな影響を与える疾患であることを理解することが重要です。
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重度の相貌失認の人の困難
重度の相貌失認の患者は、顔パーツの詳細な特徴を抽出し、それらを統合して個人識別を行うことが困難です。そのため、親族や親友といった身近な人物の顔すら識別できず、名前と顔が結びつかないという状態になります。結果として、対人関係においてコミュニケーションが円滑に進まず、孤立感を伴うことがあります。
相貌失認の患者は、混雑した場所やイベントなど、多数の人々が集まる環境において、特に強い不安や恐怖を感じることがあります。これは、顔認識の困難さが、個人の識別を困難にし、社会的な場面における予測不能性を高めるためです。
例えば、学校や職場といった、日常的に顔を合わせる人々がいる場所であっても、誰と誰が同一人物なのかを正確に把握できず、会話に参加することに躊躇してしまうケースがよく見られます。このことは、社会的な孤立やコミュニケーションの回避といった、二次的な問題を引き起こす可能性があります。
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さらに、重度の相貌失認の人は、顔の表情や感情を読み取るのも苦手です。そのため、相手の気持ちや意図を理解するのが難しく、コミュニケーションがうまく取れないことがあります。
重度の相貌失認の人は、日常生活においてさまざまな困難を抱えています。以下に、具体的な困難例を挙げます。
- 家族や友人との会話が弾まない
- 人混みやイベントに参加するのが苦手
- 仕事や学校で顔で判断する必要がある仕事や役割を任せられなくなる
- 恋愛や結婚で、相手の顔を覚えるのが苦手になる
重度の相貌失認は、まだ十分に理解されていない障害です。しかし、近年では、相貌失認の研究が進み、治療法の開発も進められています。重度の相貌失認の診断を受けた人は、医師や専門家に相談し、適切な治療を受けることが大切です。
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中度の相貌失認の人の困難
中度の相貌失認の患者は、顔の個々の特徴(目、鼻、口などの形態や配置)を視覚的に認識することはできます。しかし、これらの特徴を統合して、一人の個人を識別するためのホリスティックな顔認識が困難です。そのため、一度会った人物であっても、時間経過とともに顔の記憶が曖昧になり、再会の際に誰なのか特定できないという状況に陥ることがあります。
また、顔の表情から感情を読み取るのが難しいため、相手の気持ちがわからないこともあります。例えば、職場で上司や同僚が怒っているのか、笑っているのか、表情だけではわからなくなってしまい、対応に困ってしまうことがあるのです。
さらに、中度の相貌失認の人は、顔以外の特徴で人を識別する傾向があります。そのため、髪型や服装が変わったり、マスクをしたりすると、誰なのかわからなくなってしまうことがあります。
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中度の相貌失認の人は、日常生活においてさまざまな困難を抱えています。以下に、具体的な困難例を挙げます。
- 初対面の人やあまり親しくない人と話すときに困る
- 仕事や学校で顔で判断する必要がある仕事や役割を任せられなくなる
- 家族や友人との会話が途切れてしまう
- 人混みやイベントに参加するのが苦手
- 恋愛や結婚で、相手の顔を覚えるのが苦手になる
中度の相貌失認は、まだ十分に理解されていない障害です。しかし、近年では、相貌失認の研究が進み、治療法の開発も進められています。中度の相貌失認の診断を受けた人は、医師や専門家に相談し、適切な治療を受けることが大切です。
軽度の相貌失認の人の困難
軽度の相貌失認の人は、顔の特徴は認識できますが、見慣れない人などは、一度会っただけでは顔を覚えることができません。そのため、学校や職場など、顔を覚えている人が多い場所では困難を感じにくいと言われています。しかし、人混みやイベントなどでは、誰が誰なのかわからず、不安や恐怖を感じてしまうこともあります。
また、顔の表情から感情を読み取ったり、場の雰囲気をうまく掴めなかったりすることもあります。例えば、友人と話しているときに、表情だけでは相手の感情を把握できないために、いつの間にか気まずい雰囲気を作ってしまうことがあるのです。
筆者もADHDで軽度の相貌失認があるのですが、初見の人が覚えられない事が多く、何度も会っている人に「初めまして」を連発してしまいます。非常に気まずい思いをしますし、顔と名前が結びつかなかったり困難が多いと感じています。
相貌失認の人は、顔の認知が苦手なため、社会の中でさまざまな困難に直面しています。相貌失認を正しく理解し、サポートすることで、社会の中で生きやすくなるように心がけましょう。
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相貌失認の原因
人の顔だけを認識することができなくなる相貌失認は、いったいなにが原因で起こるのでしょうか。先天性の相貌失認と後天性の相貌失認にわけて原因について書いていきます。
先天性の相貌失認
先天性相貌失認は、脳の顔認識回路に特異的な機能障害が存在することで引き起こされると考えられています。具体的には、顔情報を統合し、個人の識別へと繋げる神経回路が、発達段階から適切に機能していないことが原因です。視覚情報処理や知的機能、そして脳の器質的な損傷はみられないにもかかわらず、顔刺激に対して特異的な認識障害を示す点が特徴です。
先天性相貌失認の発症メカニズムは、未だ解明されていない部分が多く残されています。しかし、近年盛んに行われている研究により、遺伝的な要因が大きく関与している可能性が示唆されています。
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具体的には、特定の遺伝子の変異が、顔認識に関わる脳回路の発達に影響を与えることで、相貌失認が発症するという仮説が有力視されています。
このような背景から、遺伝性の相貌失認を鑑別するための遺伝子多型解析や、家族歴などを詳細に調査する家系調査といった手法が注目されています。また、臨床現場では、相貌失認の症状や家族歴などを詳細に把握するための質問紙が開発され、診断の一助として活用されています。
参考:近藤実知「後天性および先天性相貌失認 症例検討をふまえて」
後天性の相貌失認
後天性の相貌失認とは、事故や、脳梗塞・脳腫瘍などの病気により損傷してしまうことで起こります。
具体的には、脳の側頭葉や後頭葉にある「顔領域」と呼ばれる部位が損傷を受けると、相貌失認になると考えられています。顔領域には、顔の特徴を認識する「紡錘状回」、顔の表情や視線を解釈する「上側頭溝」、顔に対する感情的反応を喚起する「扁桃体」などの部位があり、これらの部位が互いに連携して、顔から得られる多様な情報を処理しています。
交通事故などで相貌失認になってしまった人の場合、病院で目が覚めても、かけつけてくれた家族や友人が誰なのか分からないといった状態になってしまうことがあります。また、人混みやイベントに参加するのが苦手で、人付き合いが億劫になることもあります。
後天性の相貌失認は、脳の損傷が回復しなければ、治癒することはできません。顔の特徴を覚える力を向上させるための訓練や、顔の表情や感情を読み取るための訓練などを行うことで、症状の改善が期待できます。
また、周囲の人に相貌失認のことを理解してもらい、サポートを得ることも大切です。
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相貌失認に関係する脳の部位
相貌失認は、脳の側頭葉と後頭葉に位置する顔認識に関わる領域の機能障害が強く疑われる神経疾患です。これらの領域は、紡錘状回をはじめとする顔特異的な神経活動を示す部位を含み、顔の知覚と識別に重要な役割を果たしています。以下、これらの脳領域の機能と相貌失認との関連性について詳細に検討していきましょう。
顔領域には、以下のような役割を持つ部位があります。
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・上側頭溝:扁桃体や島皮質は、顔表情認知において重要な役割を果たしており、他者の感情を推測する際に非言語的な手がかりである表情や視線を解釈する機能を担っています。これらの部位が損傷を受けると、感情認識障害が生じ、相手の喜び、悲しみといった感情を正確に読み取ることが困難になります。
・扁桃体:扁桃体は、顔表情を情動と結びつける重要な役割を担っており、他者の感情を自己の感情に共感させ、情動反応を誘発するミラーニューロンシステムの一部として機能しています。この部位が損傷を受けると、顔表情に対する情動反応が減弱し、共感能力の低下が見られます。
これらの部位は、互いに連携して、顔から得られる多様な情報を処理しています。しかし、これらの部位が先天的に発達しなかったり、後天的に損傷されたりすると、顔から得られる情報が正しく処理できなくなります。その結果、相貌失認という症状が現れるのです。
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相貌失認は単一の障害だけではないことも
最近の脳科学では、相貌失認は単一の障害ではなく、複数のタイプに分けられることがわかってきています。各タイプ、それぞれに特徴的な症状や原因があります。
統合性相貌失認
統合性相貌失認と呼ばれるこの状態では、顔の各パーツ(目、鼻、口など)は個別に認識できるものの、それらを統合して一人の人物として認識することが困難です。そのため、家族や友人といった親しい人の顔すら識別できず、名前と顔が結びつかないという状態になります。さらに、顔表情から感情を読み取ることもできず、社会的相互作用に大きな支障をきたすことがあります。
統合性相貌失認の原因は、脳の側頭葉や後頭葉にある顔領域の機能障害です。特に、紡錘状回や上側頭溝の機能障害が原因と考えられています。
参考:認知的技能訓練とは?
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感情性相貌失認
顔の識別はできますが、表情や感情を読み取れないタイプです。そのため、家族や友人の顔は見分けることができますが、その人の感情を理解することができず、会話がうまく進まないことがあります。
感情性相貌失認の原因は、脳の側頭葉や後頭葉にある顔領域の機能障害です。特に、上側頭溝や扁桃体の機能障害が原因と考えられています。
発達性相貌失認
先天性の相貌失認を患っており、顔の細部を統合して個人として認識する能力が著しく低下しています。このため、家族や親友といった身近な人物の顔すら識別できず、名前と顔が結びつきません。さらに、顔表情から感情を読み取ることも困難なため、円滑な対人関係を築くことが難しい状況です。
発達性相貌失認の原因は、遺伝的要因や発達障害(自閉症スペクトラム障害や注意欠陥・多動性障害など)が原因と考えられています。
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相貌失認の対処法
相貌失認はトレーニングで治るのか
相貌失認に対する一般的な治療法としては、神経リハビリテーションや認知行動療法が挙げられる。具体的には、顔の特徴、声、体格、服装といった非視覚的な情報を用いて個人識別を行うトレーニングを通じて、顔認知能力の改善を目指す。これらの介入は、脳の可塑性を促し、新たな神経回路を形成することで、機能回復を促すことが期待される。
近年の研究では、特定の認知訓練が、顔認識に関わる脳領域の機能不全を補うべく、新たな神経回路を形成し、機能再編成を促す可能性が示唆されている。
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認知療法
顔認知の困難を克服するために、顔の特徴を意識して記憶する方法や、顔以外の情報から相手を認識する方法などを学ぶ療法です。
具体的には、以下のようなものが行われます。
- 顔のパーツや表情の識別能力を向上させるための画像認識アルゴリズムを活用した機械学習プログラム
- 親しい人物や著名人の顔を認知し、名前や関係性を想起する記憶強化トレーニング
- 顔以外の情報(声や服装など)を活用した人物同定戦略を学ぶための認知行動カウンセリング
- 顔の全体的な形態を認識する全体処理システムの強化を目的とした、階層的視覚刺激や倒立顔認識を活用したトレーニング
リハビリテーション
顔の特徴を認識するための視覚処理能力を向上させるトレーニングを行います。
具体的には、以下のようなものが行われます。
- 顔の特徴を認識するゲームやクイズ
- 顔の特徴を描く練習
- 顔の特徴を記憶する練習
相貌失認の対処法は、まだ十分に確立されていません。しかし、近年の研究では、さまざまなトレーニングによって症状の改善が期待できることがわかってきました。
参考:視覚処理能力とは?
参考:倒立顔とは?
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認識の補助を見つける
社会的な相貌失認への理解向上
相貌失認についての情報を広めることで、社会の理解と受容を促進することは、今後の重要な課題です。相貌失認の人が直面する困難や特異な経験について、周囲の人々が理解を示し、思いやりを持って接することが常識となる社会に向けた行動が必要です。
社会全体が相貌失認についての理解を深めることで、本人が自己肯定感を高め、充実した生活を送ることができるようになるでしょう。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 相貌失認についての正しい知識を広めること
- 相貌失認の人の体験や意見を社会に伝えること
- 相貌失認の人への理解とサポートを呼びかけること
相貌失認の人は、決して特別な存在ではありません。誰もが直面しうる障害の一つです。社会全体が相貌失認についての理解を深め、誰もが生きやすい社会を実現するために、私たち一人ひとりができることから行動していきましょう。
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相貌失認は自己診断できる?
「相貌失認の可能性」までは自分で判断することができますが、基本的に自己診断することはできません。相貌失認は、先天的、後天的な脳の顔認知を司る領域の損傷や機能障害によって引き起こされる障害なので、専門家の診断が必要です。
どのような検査があるの?
相貌失認の診断には、以下の検査が行われます。
-
脳の画像検査(MRIやCTスキャン): 脳の特定の領域に異常がないかを確認するために行われます。
-
知能検査: 患者の認知機能や脳の処理能力を評価するための検査が含まれます。
-
顔認知検査: 患者が顔を認識する能力や特定の顔の特徴を把握するための検査が行われます。
これらの専門的な検査の結果から、相貌失認の可能性を判断します。これにより、患者の症状や障害の程度を正確に把握し、適切なサポートや治療プランを立てることが可能です。
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相貌失認と発達障害の関係
相貌失認は、自閉スペクトラム症をはじめとする神経発達障害において、顔認知の困難としてしばしば報告される。自閉スペクトラム症に加え、ウィリアムズ症候群やターナー症候群など、特定の遺伝子や染色体異常を伴う疾患においても、相貌失認と類似した顔認知障害が認められることがある。これらの事実は、相貌失認が単一の疾患ではなく、様々な神経発達障害や遺伝子異常と関連している可能性を示唆している。
発達障害のある人がすべて顔認識に困難を抱えているわけではなく、相貌失認の人が必ずしも発達障害を持っているわけでもありません。
自閉スペクトラム症と相貌失認の共通点として、局所-大局処理の偏りが挙げられる。両者とも、顔の細部、すなわち目や鼻、口といった個々の特徴は認識できるものの、それらを統合して全体像として捉える統合処理が困難を感じています。
このため、顔の構成要素は認識できても、それが誰の顔かを特定することが難しい。しかし、顔のスキーマ、つまり顔の概念は保持しているため、目、鼻、口といった特徴から、現在視覚入力されているものが顔であると判断することは可能です。
しかし、その顔が誰の顔なのか認識する時に、目や鼻などの細かい部分に注目しすぎてしまい、全体の組み合わせから判断することができないのです。
このように、相貌失認と自閉症スペクトラムには共通した特徴も見られます。
現在、相貌失認と発達障害がなぜ関連しているのかについては、諸説ありますがいまだに解明されていません。最新の研究によれば、相貌失認と発達障害は一部で関連性があるとされています。
神経発達障害の中には、相貌失認の特徴を示す個体が存在することが報告されている。特に、自閉スペクトラム症や注意欠陥・多動性障害といった疾患において、顔認知の困難がしばしば観察されます。
しかしながら、相貌失認はこれらの神経発達障害の二次的な症状として現れる場合もあれば、独立した神経認知障害として現れる場合もあり、両者は別の疾患です。神経発達障害は、脳の発達の異常により、言語、社会性、注意、運動などの多様な神経機能に障害が現れる異質な障害の総称です。
発達障害は生まれつきのものであり、一生変わらないとされています。相貌失認と発達障害が時折関連するケースがある一方で、それぞれが独立した状態であることを理解することが重要です。
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相貌失認=発達障害ではない
相貌失認と神経発達障害は、しばしば混同され、同一視されることがあるが、両者は異なる神経基盤に基づく別個の疾患です。相貌失認は、顔認知に特異的な障害であり、脳の特定の領域、特に側頭葉の機能障害と関連付けられることが多いですが、神経発達障害は、脳の発達過程における異常により、多様な神経機能に広範な影響を及ぼす異質な障害の総称であり、相貌失認はその一部の症状として現れる場合もあるが、必ずしもすべての神経発達障害に共通するものではありません。
発達障害を抱える人々の中には、相貌失認の特徴を示す場合があるかもしれません。しかし、全ての発達障害を持つ人々が必ずしも相貌失認を抱えているわけではありません。同様に、相貌失認の人々も、必ずしも発達障害を持っているわけではありません。
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相貌失認と発達障害の関連性
相貌失認と発達障害の関連に関しては現在、研究が進められています。相貌失認と発達障害の関係は、一概には言えませんが、以下のような点で知られています。
発達障害のある人の中には顔認識に困難を抱える人がいる
相貌失認は発達障害の一種ではありませんが、発達障害のある人の中には顔認識に困難を抱える人がいます。特に自閉症スペクトラムの人は、顔から得られる情報に興味が薄いため、顔を見る時間や回数が少なくなり、顔認識能力が低下する可能性があります。
この傾向は、自閉症スペクトラムの人が非顔刺激により強い興味を示すことが多いため、顔に対する適切な訓練が不足しやすいと考えられます。しかし、相貌失認と発達障害は異なる状態であることに留意が必要です。相貌失認は主に顔を認識する神経の障害によるものであり、発達障害は広範な脳の発達に関する問題から生じるものです。
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遺伝的要因が関係している可能性がある
相貌失認は、遺伝的要因が関与している可能性があります。この症状を持つ人の家族にも同様の症状が見られることや、特定の遺伝子変異と相貌失認の関連性が示唆されていることから、全てのケースには当てはまらないものの、相貌失認は先天的に起こる可能性が高いと考えられています。
症状の個人差が大きい
相貌失認は発達障害と同じく、個人差が大きく症状の重さや表れ方は様々です。さらに、相貌失認は他の視覚的な障害や知的障害と併存することもあります。そのため、相貌失認を持つ人ひとりひとりに合わせた支援や対応が必要です。
相貌失認と発達障害の関係については、まだ研究が進んでいない部分も多く、今後の発見が期待されます。