【令和6年報酬改定】個別支援計画作成の留意点と記載例
個別支援計画書(ISP)とは?
個別支援計画書(ISP)は、福祉サービスにおける契約書のようなもので、法令によって作成が義務付けられています。
適切に作成されていない場合、罰則が課せられることもありえます。
個別支援計画書(ISP)は、療育センターや発達障害支援事業、放課後等デイサービスにおいて、利用者の発達を支援するために明確な目標を持って作成されます。
入所時に作成し、その後6カ月ごとに見直し・再作成しながら支援計画を立てていくため、継続的な見直しが不可欠です。
この計画書を理解することで、より良い支援計画を作成することができます。
具体的には、どのような支援を提供するかを明確にし、利用者の発達や生活の質の向上を目指します。
こちらも参考に:スルピリド(ドグマチール,ミラドール,アビリット)の効果と副作用
参考:アイデンティティとは?
個別支援計画書(ISP)はサービスの契約書
個別支援計画書(ISP)は、事業所がどのようなサービスを提供するかを記載した、いわば契約書のようなものです。利用者の特定や必要な支援内容を明示し、事業所とスタッフはそれに基づいてサービスを提供します。これにより、計画的かつ効率的な支援が可能となります。
さらに、利用者やその保護者にとっても、個別支援計画書(ISP)があることで、安心してサービスを受けることができます。
こちらも参考に:アリピプラゾール(エビリファイ)の効果と副作用
こちらも参考に:心理カウンセリングとは?内容や種類、効果、料金などを紹介
法令で作成が義務付けられている
法的にも、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業の設備及び運営に関する基準」において、個別支援計画書(ISP)の作成が義務付けられています。また、計画書は児童発達支援管理責任者の有資格者が作成しなければならないことにも注意が必要です。
こちらも参考に:障害手当金とは?申請方法と注意点
参考:障害者就業・生活支援センターとは?
こちらも参考に:双極性障害(躁うつ病)の方への接し方で大切な事と悩んだ際の対処法
個別支援計画全般に係る留意点
参考:心身症とは?
参考:情緒障害とは?
こちらも参考に:ギフテッドと発達障害の違い。ギフテッドとは?
各記載項目の留意点
参考資料
・こども家庭庁支援局障害児支援課 令和6年5月17日事務連絡 【別紙1】個別支援計画の記載のポイント
・こども家庭庁支援局障害児支援課 令和6年5月17日事務連絡 【別紙2】個別支援計画書の記載のポイント 参考様式版
・こども家庭庁支援局障害児支援課 令和6年5月17日事務連絡 【別紙3】個別支援計画書(参考記載例)
(1) 利用児及び家族の生活に対する意向
〇 こども本人や家族の意向を聞き取り、その情報やこどもの発達段階、特性などを考慮して整理し、記載する。
【記載例】
- 本人:「楽しく遊びたい」
- 保護者:「場面に合った行動を自分で気付いて行えるようになってほしい」
参考:認知矯正療法
参考:認知行動療法(CBT)
(2) 総合的な支援の方針
(3) 長期目標・短期目標
(4) 支援目標及び具体的な支援内容等
(4)-2 支援目標
〇 支援期間が終わる時点で達成していることが期待される「こども本人や家族の状況」を具体的な目標として記載します。
〇 こども本人や家族の希望だけでなく、アセスメントの結果も考慮して、必要と思われる支援も含めた目標を設定します。
〇 目標は基本的に、こども本人や家族を主語にして記載します。ただし、「移行支援」や「地域支援・地域連携」の場合、支援方針や連携体制によっては、事業所や関係機関、関係者が主語となることもあるため、柔軟に対応します。
こちらも参考に:障害者雇用促進法とは?企業の義務や概要、2023年4月の法改正や雇用のポイント紹介
参考:心理療法
こちらも参考に:非自殺的な自傷行為について
こちらも参考に:スルピリド(ドグマチール,ミラドール,アビリット)の効果と副作用
(4)-5 担当者・提供機関
〇 主に支援を行う担当者の名前や職種を記載します。
〇 「移行支援」や「地域支援・地域連携」で関係機関との連携が支援内容に含まれる場合は、具体的な連携先の機関名なども記載します。
個別支援計画書(ISP)を作成する際に押さえるポイント
個別支援計画書(ISP)を作るときは、次のポイントを押さえましょう。
- 利用者や保護者が望む生活を実現するための支援計画を立てる
- 利用者に努力を求めるのではなく、どんな支援をすれば目標が達成できるかを具体的に書く
- 児童発達支援管理責任者が一人で決めるのではなく、利用者や保護者、職員と一緒に会議をして作成する
- 作成した計画書に基づいて支援を行う
- 最低でも6カ月ごとに見直しをする
個別支援計画書(ISP)は、療育の進め方を示す重要な書類です。目標は、利用者や保護者が望むことや、利用者の生活の質(QOL)を向上させるためのものにしましょう。
また、利用者にとって不可能なことを書いたり、努力を求めるだけでは意味がありません。不可能を可能にする方法や、どんな支援が利用者の発達を助けるかに焦点を当てた内容にしましょう。
作成した計画書は、必ず利用者本人や保護者、他の職員と一緒に会議で確認し、最終決定を行います。利用者や保護者だけでなく、児童指導員、心理士、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士などの専門家の意見も取り入れて、効果的な個別支援計画書(ISP)を作成することが重要です。
こちらも参考に:不登校のタイプと対処法
参考:精神科デイケア
個別支援計画書(ISP)に必要な項目
個別支援計画書(ISP)には、次の項目を書きます。
- 利用者の今の状態
- 利用者のニーズ
- 主要な目標とその達成時期
- その他の目標とその達成時期
- 個別支援(ISP)の内容
- 支援を行うときの注意点
個別支援計画書(ISP)作成の流れ
正しいプロセスで個別支援計画(ISP)を作成するにはどのようにすればいいのか考えてみましょう。作成書類も含めた作成の流れを「児童発達支援の場合」を例にしてご紹介します。
個別支援計画の手順
- アセスメント
- 個別支援計画の原案作成
- サービス担当者会議
- 計画の修正、保護者様の同意と署名
- サービス提供(モニタリング)
- 更新
上記のサイクルを繰り返す
1.アセスメント
個別支援計画書(ISP)を作成するために、まず保護者様と面談し、アセスメント(聞き取り)を行います。原則として、児童発達支援管理責任者(児発管)が面談を担当し、見学や体験時に行うこともあります。
面談では、利用者(子ども)の障害特性を把握し、現状の課題や本人、家族のニーズを整理します。特に児童発達支援の場合は、本人が上手に意思表示ができず、家族のニーズが優先されることがあるため、支援者は専門家として本人の意向もくみ取りながらアセスメントを行うことが重要です。
児発管は、アセスメントで次の内容について聞き取りを行います。
アセスメントを行った日時や内容について記録を取り、情報を保管しておくことも重要です。これらの記録は、個別支援計画書(ISP)の作成や今後の支援方法を考える時に必要になる場合があります。
作成書類
- アセスメントシート
- 面談記録
こちらも参考に:発達障害者の雇用まとめ ~特性、定着率、雇用状況、採用・安定就労のポイント~
参考:障害者職業生活相談員
2.個別支援計画の原案作成
アセスメントを元に、児童発達支援管理責任者(児発管)が個別支援計画書(ISP)の原案を作成します。この段階では、OJT中の児発管でも作成が可能です。
原案には、利用者およびその家族の生活に対する意向や、包括的な支援方針、生活全般の質の向上を目指した課題、提供するサービスの目標およびその達成予定時期、サービス提供時に考慮すべき留意事項などを詳細に盛り込む必要があります。利用者の意向に十分配慮し、適切な支援方法を具体的に記載することが重要です。
さらに、フェイスシートやサービス等利用計画案もこの段階で準備しておくことで、支援の進行が円滑になります。
作成書類
- 個別支援計画書(ISP)の原案
3.カンファレンス
個別支援計画書(ISP)の原案ができたら、他のスタッフを交えてカンファレンス(担当者会議)を行います。カンファレンスには、利用者と関わるすべてのスタッフが参加することが望ましいです。
児童指導員、保育士、心理士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など、各専門分野のスタッフから意見を募り、個別支援計画書(ISP)について詳細を話し合います。原案の内容で利用者の希望に沿った支援が可能か、他に効果的な支援方法がないかなど、様々な意見を交わしながら、個別支援計画書(ISP)の内容をブラッシュアップしていきましょう。
アセスメントと現状との乖離がないかを精査し、協議の結果を基に、短期目標および長期目標を含む計画の詳細を策定します。支援内容は、『〇〇を頑張る』といった曖昧な表現ではなく、『いつ』『どこで』『誰が』『どのように』といった具体的かつ明確な形で設定することが求められます。
また、カンファレンスの内容についても、アセスメントと同様に記録を徹底することが重要です。開催日時や議題、協議内容を詳細に記載した議事録を適切に保管する必要があります。
作成書類
- 担当者会議の議事録
こちらも参考に:精神疾患で障害年金をもらえない人の条件と特徴。就労中でも貰えるか?
参考:特定理由離職者
4. 計画の修正、保護者様の同意と署名
担当者会議を元に修正した個別支援計画書(ISP)を最終的に作成し、保護者様に説明して交付します。内容について十分に説明し、利用者と保護者が同意した場合に署名をもらいます。押し印が慣例となっていますが、自治体によっては署名のみで良い場合もあります。心配な場合は、念のため印鑑ももらっておくと安心です。
作成した個別支援計画書(ISP)は、正式な支援指針として担当スタッフにも公開し、支援を行う上でのガイドラインとして利用します。計画書の署名付きのコピーと受給者証のコピーも保管しておきます。
作成書類
- 個別支援計画(署名あり)
- 受給者証のコピー
5. サービス提供(モニタリング)
個別支援計画に基づき、サービスを提供します。支援を行う際は、スモールステップを意識し、達成できた目標について振り返りを行いましょう。また、経過をモニタリングとして記録しておきます。
個別支援計画書(ISP)は作成して終わりではなく、定期的に見直しを行います。特に、計画作成後は6ヵ月に1度以上のペースでモニタリングを行い、目標が達成できているか、計画通りに適切な支援が行えているかを確認します。モニタリングの日時や内容も記録し、適切に保管することが大切です。
特に年齢の低い子どもの場合、成長や発達のスピードが速いため、短期間でのモニタリングが必要です。支援内容を変更する場合には、再度個別支援計画書(ISP)を作り直します。
作成書類
- 支援記録
- モニタリング記録
こちらも参考に:パーソナリティ障害(人格障害)の特徴、種類、診断、治療について
こちらも参考に:オランザピン(ジプレキサ)の効果と副作用
6.更新
「PDCA」サイクルに従い、6か月以内に個別支援計画(ISP)を更新します。このとき、目標を達成したかどうかだけでなく、支援が効果的だったかどうかを客観的に評価することが重要です。更新の際には、保護者の同意と署名が必要です。
これは、個別支援計画(ISP)を作成するまでの流れです。管理者や児発管としての業務と並行して行うため、効率良く進めることが大事ですが、以下の点も考慮しましょう。
- 児童と保護者が何に困っているか
- 事業所が提供する療育との整合性
- 保護者が理解できる内容になっているか
こちらも参考に:依存症になりやすい人の特徴と原因について
個別支援計画書の書き方や記入例
個別支援計画書(ISP)の書き方と記入例について、実例に近い形で説明します。個別支援計画書(ISP)には決まった形式がなく、障害福祉サービスごとに異なります。自治体によっては、参考様式を公開しているところもあるので、迷ったときはまず所属の自治体に様式があるか確認すると良いでしょう。
おおよそ以下のような項目を記載する必要があると考えられますので、参考になさってください。
➀利用者氏名:利用者の名前を記載します。
➁作成日:年月日入りで作成日を記載します。他の書類の日付と前後しないように注意しましょう。
③次回モニタリング日:必須ではありませんが、記載しておくと管理がしやすくなります。
➃ニーズ:本人や家族のニーズを記載します。アセスメントの内容と矛盾がないように注意しましょう。
➄目標:長期目標と短期目標を設定します。短期目標は3か月から半年、長期目標は1年程度を目安に考えます。
⑥支援項目:発達に関する支援(発達支援)、家族への支援(家族支援)、地域とのつながりや生活についての支援(地域支援)を記載します。割合は発達3:家族1:地域が好ましいとされています。
⑦具体的な到達目標:支援期間終了後に利用者や家族がどうなっているかを記載します。主語は利用者や家族にしましょう。
⑧支援内容:目標達成のためにどんな支援や工夫をするかを具体的に記載します。家族支援や地域支援の場合も具体的に記載し、主語は事業所にします。
⑨支援期間:目標達成までの支援期間を記載します。長期目標や短期目標の期間と整合性を保ちましょう。
⑩担当者:誰が支援の中心となるかを記載し、役割を明確にします。
⑪優先順位:ニーズや現在の状態に合わせて支援の優先順位を記載します。
⑫説明者:個別支援計画(ISP)を説明する人を記載します。
⑬署名欄:説明者、児童発達支援管理責任者、保護者の署名と交付日を記載します。保護者の印鑑については、自治体ごとに取り決めが異なる場合があります。
※紹介した様式は一般的なものです。
自治体で様式が用意されている場合もあるので、必ず障害福祉課等で確認するようにしましょう。
記入のポイント
個別支援計画(ISP)には決まった形式はありませんが、ガイドラインに基づいて以下の項目は必ず記載しましょう。特に支援内容は、誰が見てもどんな支援を行っているか分かるように具体的に書き、担当スタッフも明確にします。
記載項目
- 本人、家族のニーズ:本人や家族が何を必要としているかを書きます。
- 長期目標、短期目標:達成したい目標を長期と短期に分けて設定します。
- 支援内容:発達支援、家族支援、地域支援の具体的な内容を書きます。
- いつ、誰が、どこで、どのように、どのくらい支援するか:支援の詳細を具体的に記載します。
- 説明者、児童発達支援管理責任者、保護者欄:これらの人の名前や署名欄を設けます。
こちらも参考に:障害手当金とは?申請方法と注意点
参考:自己破産
個別支援計画書(ISP)の作成に必要な書類とは?
個別支援計画書(ISP)の様式や作成する書類には法令上は明確な決まりはありませんが、条例や自治体のガイドラインで定められている場合がありますので、必ず確認しましょう。下記は一例となります。
参照:事例1「地域の関係機関との連携により、母の障害受容を支援しながら療育につなげた事例」
実地指導でひっかかりやすい個別支援計画書(ISP)の注意点とは?
個別支援計画書(ISP)は、障害福祉サービスの契約書のような重要な書類です。実地指導の際には特に厳しくチェックされます。不備があると報酬の減算や行政指導の対象となり、場合によっては指定取り消しの可能性もあります。以下は、実地指導で問題とされた項目です。
- 作成者が児発管ではなく、指導員や管理者の名前になっている
- 更新日が6か月以内ではない(日付はよく確認してください)
- 保護者に署名をもらっていない(署名だけでなく、日付も必要です)
- 原案、会議録、モニタリングが抜けている(更新時のモニタリングも注意)
- 氏名や日付を間違っている
- 記載すべき加算を記載していない(必要な加算は別途確認が必要です)
- 個別支援計画未作成減算をせずに不正に請求していた
- 個別支援計画(ISP)が画一的である
各都道府県が公表している指導内容を参考に、これらの点に注意して計画書を作成しましょう。
こちらも参考に:ハローワークの障害者求人探す方法。相談窓口の活用
参考:総合法律支援法
【未作成減算の対象になることも】個別支援計画書(ISP)の不備で基本報酬が減算されることがある
個別支援計画書(ISP)に不備がある場合について、特に注意したいのが個別支援計画未作成減算です。
未作成とみなされると【減算が適用される月から2月目までは所定単位数の30%を減算、3月目からは所定単位数の50%を減算(厚生労働省告示第五百二十三号)】と大幅減算が適用になります。
個別支援計画は、サービス開始前に速やかに作成することが原則です。
こちらも参考に:精神障害者雇用にまつわる誤解 | 就業上の配慮と雇用時のポイント
こちらも参考に:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の詳細と申請方法
個別支援計画書に関するよくある質問
-
Q個別支援計画書(ISP)は誰が作成するのですか?
-
A
個別支援計画(ISP)は、児童発達支援管理責任者が作成します。 障害児支援利用計画における総合的な援助方針等を踏まえて、事業所が提供するサービスの適切な支援内容等について検討をし、児童又は保護者の同意のもと作成にあたります。
こちらも参考に:障害福祉サービス受給者証について【障害福祉サービス】種類、申請から利用までの流れ
こちらも参考に:炭酸リチウム(リーマス)の特徴・作用・副作用
-
Q個別支援計画(ISP) いつまでに作成?
-
A
個別支援計画書(ISP)は6か月以内の再作成が必須となります。
参考:障がい者雇用とは?
参考:障害者雇用促進法とは?
まとめ
2024年度の報酬改定により、個別支援計画(ISP)は、より質の高い支援を提供するために重要な役割を担っています。
こども家庭庁のガイドラインに基づき、5領域(「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」 「人間関係・社会性」)の視点を取り入れた個別支援計画を作成することが求められています。
個別支援計画書(ISP)は、障害福祉サービスを提供する上で最も重要な書類であり、実地指導でも特に厳しくチェックされるポイントです。 利用者一人ひとりに寄り添った質の高い支援を提供するために、各自治体の規定に基づいて正確に作成することが重要です。
こちらも参考に:障害のあるお子さんがいる家庭のための特別児童扶養手当と障害児福祉手当
こちらも参考に:ニューロダイバーシティとは「標準」を変えていく実践的活動