大人の神経発達症(発達障害)とは ?ADHD・ASD症状や治療法について

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発達障害とは

日常生活や職場で自分自身に気づくことが多い大人の発達障害について、最近では「大人の神経発達症」としても知られるようになっています。「単純なミスを繰り返す」、「職場によく遅刻する」、「人間関係がうまくいかない」といった悩みや生きづらさは、発達障害が原因かもしれません。

多くの人が、発達障害は子どものうちに見つけられるものだと思いがちですが、実際には大人になってから気づくケースも意外と多いのです。

仕事でのミスが続いたり、人間関係に不安を感じたりしている方もいるかもしれません。自分が神経発達症(発達障害)かもしれないと感じた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

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発達障害は脳の特性が原因で起こる

発達障害とは、生まれつきの脳の性質や働き方、発達の仕方に偏りがあることで生じる言語や行動、情緒などの特性を指します。

主に自閉スペクトラム症(ASD)注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害/限局性学習症(LD/SLD)の3つのタイプがあり、特性の現れ方や程度には個人差があります。

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発達障害のある人は、特定の分野に非常に優れた能力を発揮する一方で、他の分野では極端に苦手なことがあり、このような得意なことと苦手なことの差、いわば凸凹が大きくなることが特徴です。

発達障害は「病気」とは異なり、幼児期から症状が現れることが多く、成長するにつれて自分の不得手な部分に気づき、生きづらさを感じることもあります。

しかし、発達障害の特性を本人や家族、周囲の人が理解し、その人に合った方法で日常生活や学校、職場での過ごし方を工夫すれば、持っている本来の力をしっかりと生かすことが可能です。

最近では、発達障害を「神経発達症」と呼ぶこともあり、これには知的障害、コミュニケーション症群、チック症群発達性協調運動症(DCD)、常同運動症/常同運動障害なども含まれます。

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大人になってから生きづらさで気づく神経発達症(発達障害)

発達障害(神経発達症)は、多くの場合、子どものころからその特性が現れますが、環境の変化やストレスによって大人になってから気づくこともあります。

例えば、就職先での仕事が自分の特性に合わず、失敗を繰り返したり、周囲と同じようにコミュニケーションが取れなかったりすることで、「もしかして、自分は他の人とは少し違うかも?」と気づくことがあります。

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また、大人になると社会的に守らなければならないルールが増え、ミスを繰り返すと「やる気がない」や「能力不足」と周囲から誤解されたり、コミュニケーションがうまく取れないと「空気が読めない人」と敬遠されたりすることもあります。

 

参考:発達障害の二次障害

参考:二次障害

 

発達障害は、知的障害を伴う場合もあれば伴わない場合もあり、後者の場合は子どものころに顕在化しないことが多いとされています。

大人になるとより高度で複雑なコミュニケーションが要求される場面が増えて、その結果として発達障害と診断される人が増加し続けています。

 

大人の発達障害で特に多いとされるのは、自閉スペクトラム症(ASD)注意欠如・多動症(ADHD)の2つです。

 

これらの特性が日常生活で困難を引き起こす場合、専門の相談窓口や医療機関に相談することが重要です。専門家や行政からの支援を受けることで、苦手なことをカバーしながら得意なことを活かす方法を見つけることができます。

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発達障害の主な種類と特性

大人の場合、長期間にわたり周囲の環境に適応できず、失敗を重ねて過ごすことが多いため、自己評価が低下し、二次的にうつ病不安障害などの精神疾患を発症するリスクが高いと考えられます。そのため、早めに対処することが望ましいです。

また、神経発達症(発達障害)の特徴の表れ方には男女差があります。

 

注意欠如・多動症(ADHD)

注意欠如・多動症(ADHD)は、成人の3~4%が持っていると言われており、診断を受ける大人が増えています。この障害には「多動性・衝動性」による特徴と「不注意」による特徴があります。

 

多動性・衝動性による特徴

ADHDの場合、男性は多動・衝動の症状が優勢で、幼少期からその特徴が現れるため、早期に診断されることが一般的です。

多動性・衝動性の特徴には、「目的のない動きをする」「感情が不安定になりやすい」「過度なおしゃべりや不用意な発言」などがあります。

大人になると目に見える多動症状は落ち着いてくることが多いですが、手足や内面の落ち着きのなさが残ることがあります。

 

不注意による特徴

大人になって初めてADHDと診断される人は、男女ともに不注意の症状が目立つ傾向があります。仕事において不注意が影響を及ぼすことで、神経発達症(発達障害)に気づくことが多いのです。

不注意の特徴としては、「注意を持続するのが難しい」「ケアレスミスが多い」「片付けが苦手・忘れ物が多い」などがあります。

大人になると許容されない範囲が広がり、本人が負う責任も大きくなります。不注意による症状は、特に社会に出てから仕事に支障を来すことが多く、問題につながることが増えます。

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ADHDの治療

ADHDの特性を理解し、上手にコントロールすることで、よりスムーズで快適な社会生活を送ることができます。例えば、「1つのことに集中できない」という特性は、アイデアが豊富で好奇心が旺盛であることの表れとも言えます。また、地道な作業が苦手でも、フットワークの軽さや瞬発力が求められる場面では、その特性を活かすことができます。

治療方法としては、薬によって症状を緩和したり、行動の改善を図り、対処法を身につけることなどが行われています。

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周りがサポートできることは?

ADHD(注意欠如・多動性障害)を持つ人は、不注意多動性・衝動性といった特性を抱え、日常生活や仕事で様々な困難に直面することがあります。しかし、周囲の理解と適切なサポートがあれば、その特性を活かして社会に大きく貢献することも可能です。

◆職場でのサポート

1. 明確な指示で迷いを減らす

  • 口頭での指示だけでなく、文書にして伝えることで、内容を確実に把握しやすくなります。
  • 箇条書きや図表などを活用し、視覚的に分かりやすくすることで、情報が頭に入りやすくなります。

2. 一度に多くのタスクを要求しない

  • 複数のタスクを同時に指示するのではなく、1つのタスクずつ指示し、完了したら次のタスクに移るようにしましょう。
  • それぞれのタスクの具体的な手順を説明し、不明点は丁寧に確認します。

3. 締め切りや約束を事前に共有する

  • 締め切りや約束は前もって伝え、スケジュール帳などに書き込んでもらうことで、時間管理をサポートします。
  • リマインダー機能などを活用し、期限が近づいたら声をかけて確認するのも効果的です。

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◆家庭でのサポート

1. スケジュールや持ち物を一緒に確認する

  • 毎日のスケジュールや持ち物リストを作成し、親子で一緒に確認することで、漏れや忘れを防ぎます。
  • 視覚的なツールとして、カレンダーやチェックリストなどを活用するのも有効です。

2. 過度に集中しないよう見守る

  • 興味のあることに集中しすぎて、周りが見えなくなることがあるため、適度に休憩を取るよう促したり、別のタスクに切り替えるタイミングを提案したりします。
  • 集中できる環境を整えることも大切です。静かな場所を用意したり、気が散るものを排除したりするなど、集中力を維持しやすい環境を作ります。

3. 些細なことでも褒めて自信を育む

  • どんな小さなことでも、目標を達成したり、タスクを完了したりした際にはしっかりと褒めてあげましょう。
  • 自信を持つことが、更なる成長へと繋がります。

参考:TEACCH

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自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症(ASD)は、コミュニケーションや対人関係に困難を抱え、強いこだわりや限られた興味を持つ特徴がある発達障害です。「スペクトラム」とは「連続している」という意味で、ASDには自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群などが含まれます。

ASDは、注意欠如・多動症(ADHD)と同様に、子どもの頃から症状が現れますが、大人になってから診断を受けるケースが増えています。子どもの頃に症状があっても、大きな不適応を起こさず、知的能力が平均以上の場合、社会人になってから社会生活や人間関係における困難に気づくことがあります。

近年、ASDの診断を大人になってから受けるケースが増加しています。

コミュニケーション・対人関係の困難

ASDの人のコミュニケーションの特徴として、「相手の立場に立って考えることが苦手」という点があります。相手との距離感をつかむのが難しく、不用意な発言をして困難を招くことがあります。

さらに、ASDには「言葉を文字通りに解釈する」「想像力が乏しい」という特徴もあります。

言葉のニュアンスや表情から状況を察することが難しく、社交辞令や冗談が通じないことがあります。

また、「適当に」「もう少し」「多めに」など、日常や仕事でよく使われる曖昧な表現を理解し、適切に対応することが難しい場合もあります。

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強いこだわりによる困難

ASDのもう一つの特徴である「強いこだわり・限られた興味」もトラブルの原因になることがあります。

ASDの人は興味の対象が非常に限定されており、好きなことには仕事を忘れて没頭することがあります。

例えば、仕事を忘れてゲームに夢中になることもあります。また、強いこだわりがあるため、いつもと違う状況に対応できず、「融通が利かない」と思われてしまうこともよくあります。

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ASDの二次的な症状

自閉スペクトラム症(ASD)への理解と支援は非常に重要です。特に、適切な支援を行うことで、ストレスを軽減し、二次的な問題を防ぐことができます。生活環境や習慣を整えることも大切で、これにより当事者が安心して過ごせるようになります。

また、ASDの特性により、周囲から「配慮がない」や「空気が読めない」と誤解されることがあり、これが職場での孤立を招くことがあります。孤立は、引きこもりやうつ病などの二次的な問題を引き起こす要因となることがあります。

さらに、ASDの方は不安や恐怖に敏感であり、強いストレスを受けやすいため、パニック障害や対人恐怖症などの症状が伴うこともあります。

このような状況を防ぐためには、周囲の理解と配慮が不可欠です。適切な支援を受けることで、ASDの方がより良い生活を送れるようになることが期待されます。気になる症状が見られた場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

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ASDの治療

ASD(自閉スペクトラム症)の治療には、現時点で有効とされる薬は存在しません。そのため、治療の中心は本人の思考や行動パターンを変え、行動を改善することにあります。

 

心理療法

心理療法は、感情について話し合うことで症状の改善を図る治療法です。この療法には、過去の意識を振り返る「個人療法」、他者に自分のことを語る「グループ療法」、家族間で問題解決の方法を学ぶ「家族療法」が含まれます。これらのアプローチは、症状や目標に応じて選ばれ、感情を整理し、自己肯定感を高めたり、症状の軽減を促進したりすることが可能です。

下記では、ASD(自閉症スペクトラム)で用いられる代表的な3つの治療法について解説します。

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参考:償還期間とは?
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環境調整

環境調整は、生きづらさを軽減するために、特性に応じた生活環境を整える治療法です。

具体的には、騒音の少ない環境を作ったり、落ち着くアイテムを身近に置いたり、職場での働き方を見直したりすることが挙げられます。この調整により、特性から生じるストレスを軽減し、集中力の低下や不安感を改善することが期待できます。

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薬物療法

薬物療法は、かんしゃくや不眠抑うつなどの症状に応じて薬を投与する治療法です。この治療は主に症状の緩和を目的としており、一般的には環境調整心理療法と併用されることが多いです。

ASDの特性を理解し、不得手な場面での対処法を身につけることで、「こだわり」や「興味のあることに打ち込む」面がプラスに働くこともあります。

ルールやマニュアルがしっかりしている職種(経理・法務など)や、論理的に数字を扱う職種(プログラマーなど)は、ASDの特性にフィットする可能性が高いです。自分の得手・不得手を見極め、就きたい職業を具体的に検討することが大切です。

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周りがサポートできることは?

職場での配慮

1. 明確かつ具体的な指示で迷いをなくす

  • 指示は簡潔具体的な言葉を使い、曖昧な表現は避けましょう。
  • 専門用語や難しい言葉はできるだけ使わないようにし、必要であれば説明を加えます。
  • 図表やイラストなどを活用し、視覚的に分かりやすく伝えることも効果的です。

2. 指示は一度に伝え、急に変更しない

  • 複数の指示を一度に伝えるのではなく、1つずつ丁寧に伝え、理解していることを確認してから次の指示に移りましょう。
  • 指示内容をメモしてもらうように促したり、録音させたりするのも良い方法です。
  • 指示内容を急に変更することは避け、変更が必要になった場合は事前に説明し、理解を得てから実行しましょう。

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3. 音や光、周囲の環境に配慮する

  • 騒音や強い光、人の動きなど、周囲の環境が集中を妨げる要因となる場合があります。
  • 可能であれば、静かな場所を確保したり、仕切りを設置したりして、集中しやすい環境を作ることが大切です。
  • 耳栓やヘッドホンなどを活用して、音刺激を軽減するのも効果的です。
  • 周囲の人にも、配慮が必要であることを伝えておくと、協力が得やすくなります。

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家庭での配慮

1. 家庭でのルールやマナーを明確に伝える

  • 時間厳守、食事のマナー、整理整頓など、家庭での基本的なルールやマナー明確に伝え、理解していることを確認しましょう。
  • ルールやマナーを守る意義についても説明し、納得感を持てるようにすることが大切です。
  • 視覚的なツールとして、カレンダーチェックリストなどを活用するのも有効です。

2. 失礼な言葉や行動を適切に指摘する

  • 失礼な言葉や行動があった場合は、その場でではなく、落ち着いた状況個別に指摘しましょう。
  • なぜその言葉や行動が問題だったのかを具体的に説明し、代替案を提示することも重要です。
  • 感情的に怒鳴ったり責めたりするのではなく、あくまでも本人の成長を促すというスタンスで接しましょう。

参考:認知矯正療法

参考:認知行動療法(CBT)

一人で悩みを抱えず、まずは医療機関に相談を

神経発達症(発達障害)の特性は、性格と混同されやすく、本人の努力不足やわがままと誤解されることがよくあります。

努力で対処できる部分と特性による部分を見極めるためにも、周囲の人々に自身の神経発達症(発達障害)の特性を正しく理解してもらうことが重要です。

神経発達症(発達障害)と診断されたからといって、その人の人間的な価値が低くなるわけではありません。診断はあくまで困りごとを解決し、少しでも生きやすくするための手段です。また、神経発達症(発達障害)を疑っている場合でも、うつ不安障害など他の要因で困りごとが発生していることもあるため、心配なときは受診を考えてみてはいかがでしょうか。

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