統合失調症とは?〜幻覚・妄想だけでなく多彩な症状をあらわす病気〜
統合失調症は、心や思考がまとまりにくくなり、気分や行動、人間関係にも影響を及ぼす病気です。この疾患には、健康な状態には見られなかったものが現れる「陽性症状」と、健康なときにあったものが失われる「陰性症状」があります。
陽性症状の代表例には、幻覚や妄想があり、特に幻聴が一般的です。一方、陰性症状には、意欲の低下や感情表現の減少などが含まれます。
統合失調症は、10~20代の青年期から成人期にかけて発症しやすいですが、中年期にも発症することがあります。約100人に1人がかかるとされており、決して珍しい病気ではありません。思春期から40歳前後までの間に発症しやすい疾患で、薬物療法や精神科リハビリテーションなどの治療によって回復が可能です。
早期の治療開始が回復に有益であるため、症状に気づいたら早めに専門機関に相談しましょう。
こちらも参考に:精神障害者雇用にまつわる誤解 | 就業上の配慮と雇用時のポイント
こちらも参考に:愛着障害(アタッチメント障害)大人の特徴|原因や治し方について
統合失調症の症状
前兆期
幻覚や妄想などの典型的な症状が現れる前には、不眠、不安、神経過敏、身体症状などが出現することがあります。
参考:神経過敏とは?
こちらも参考に:ミルタザピン(リフレックス・レメロン)の効果と副作用
急性期
急性期における特徴的な症状には、「陽性症状」と「陰性症状」があります。
回復期
患者によって異なりますが、一般的に回復期に入ると、幻覚や妄想などの陽性症状が徐々に減少し、陰性症状が残存する傾向があります。
こちらも参考に:注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬の種類・効果効能・副作用の解説
こちらも参考に:双極性障害(躁うつ病)の方への接し方で大切な事と悩んだ際の対処法
安定期・慢性期
全体として、統合失調症の症状は大きく4つに分類されます。
一部の種類の症状だけがみられる場合もあれば、すべての種類の症状がみられる場合もあります。
陽性症状
陽性症状とは、正常な精神機能が歪むことを指し、具体的には次のような症状が含まれます。
妄想は、知覚や経験を誤って解釈した結果生じる、誤った信念です。たとえ明確に矛盾する証拠があったとしても、患者はその信念を手放そうとしません。
こちらも参考に:障害年金申請は「診断書」が9割!押さえるべき3つの注意点と流れ
こちらも参考に:オランザピン(ジプレキサ)の効果と副作用
妄想
たくさんの種類があります。例えば、「困らされている」、「後をつけられている」、「だまされている」、「見張られているなどの被害妄想が起こる」などです。
例えば、誰かに傷跡を残さずに内臓を抜き取られたと信じているなどです。奇妙でない妄想は、後をつけられている、配偶者やパートナーに裏切られるなど、現実にも起こりうる内容のものです。
参考:思考奪取とは?
参考:思考吹入とは?
こちらも参考に:精神障害者雇用にまつわる誤解 | 就業上の配慮と雇用時のポイント
幻覚
他の人には感じられない音や映像、味、体の感覚などを体験することです。特に多いのは音に関する幻覚(幻聴)で、自分の行動について意見を述べる声や、互いに会話をしている声、または批判的・侮辱的な言葉が頭の中で聞こえることがあります。
こちらも参考に:「精神保健指定医」とは?役割と資格取得、やりがいについて解説
こちらも参考に:離人感・現実感消失症について
陰性症状
解体症状
解体症状では、思考障害や奇異な行動がみられます。
思考障害とは、思考の過程が乱れ、論理的な思考が困難になる状態です。具体的な症状としては、話がまとまらず、途中で話題が逸れてしまったり、同じことを何度も繰り返したりすることが挙げられます。また、言葉の選び方や表現が不適切になる場合もあります。
奇異な行動は、社会的な規範から逸脱した行動や、周囲の人々を困惑させるような行動を指します。具体的には、不適切な性的行動、自傷行為、奇声を発する、意味不明なジェスチャーを繰り返すなどが挙げられます。
こちらも参考に:特例子会社とは?職種や給与、働くメリットやデメリットについて
認知障害
認知障害とは、集中力、記憶力、整理能力、計画能力、問題解決能力などに問題が生じた状態をいいます。集中力が欠如しているために、本が読めなかったり、映画やテレビ番組の話の筋が追えなかったり、指示通りに物事ができなかったりします。
注意散漫になると、一つのことに意識を集中することが難しくなり、周囲の雑音や他のことにすぐに気を取られてしまいます。結果、細心の注意を要する作業や、複雑な問題の解決、人との円滑なコミュニケーションが困難になることがあります。
統合失調症の認知障害は、日常生活においてさまざまな困難をもたらす可能性があります。例えば、仕事や学業の遂行に支障をきたすことがあり、また、日常生活の中での物事の理解や処理においても課題が生じることがあります。
自殺
統合失調症患者の約5~6%が自殺し、約20%が自殺を試み、さらに多くの患者が自殺を真剣に考えます。自殺は統合失調症患者における若年死の主因であり、統合失調症患者の平均余命が一般の人より10年短いことの主な理由の1つです。
自殺のリスクは、年齢、性別、精神状態、社会的な状況など、様々な要因が複雑に絡み合って高まります。特に、若い男性は自殺率が高く、うつ病や不安障害などの精神疾患、物質使用障害、失業、孤独感、人間関係のトラブルなどがリスクを高めることが知られています。また、精神科治療を受けている人や、過去に自殺未遂経験がある人も注意が必要です。
自殺のリスクは、統合失調症を後半人生に発症した人や、発症するまで日常生活に支障がなかった人で最も高くなります。なぜなら、発症後も悲嘆や苦悩を感じる能力が維持されているため、自身の病気がもたらす影響を認識し、自暴自棄になる可能性が高くなるからです。しかし、そのような人たちは、回復の見込みが最も大きいグループでもあります。
こちらも参考に:社会不適合者とは?特徴・生き方・向いている仕事について
暴力
統合失調症の特徴
脳の様々な働きをまとめることが難しくなる病気です
統合失調症は、脳の機能が調和されにくくなるため、幻覚や妄想などの症状が生じる疾患です。他の慢性疾患と同様に、経過が長期化する傾向がありますが、新しい薬や治療法の進歩により、多くの患者が長期的な回復を見込むことができるようになりました。
幻覚や妄想が特徴的な症状です
統合失調症の特徴的な症状として、「幻覚」と「妄想」がよく知られています。幻覚は、実際には存在しないものを感じる知覚の異常であり、特に自分への悪口や噂が聞こえる幻聴が頻繁に現れます。
一方、妄想は、現実とは異なる内容を信じ込む状態であり、周囲の訂正を受け入れずに、被害妄想や関係妄想などが見られます。これらの幻覚や妄想は、本人にとって現実と同様に感じられるため、病気の原因に気づくのが難しい場合があります。
こちらも参考に:強度行動障害とは?原因や症状、対応や支援について
こちらも参考に:感覚過敏とは?症状や原因、対処法、発達障害との関連性
発症の原因は今のところ分かっていません
統合失調症の発症原因は、まだ完全に解明されていませんが、最近の研究から、遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に絡み合っていることが明らかになってきました。
遺伝的な要因
- 家族歴: 統合失調症の患者がいる家族では、発症リスクが高まります。特に、一卵性双生児の場合、片方が発症すると、もう一方も発症する確率は約50%と高くなります。
- 遺伝子: 特定の遺伝子が統合失調症の発症に関わっている可能性が指摘されています。
環境的な要因
- 妊娠中や出産時の問題: 妊娠中の感染症や合併症、低体重児出生などが、発症リスクを高める可能性があります。
- 脳の感染症: 一部の脳の感染症が、発症の引き金となることがあります。
- 物質使用: 特に、10代の早い時期からの大麻使用は、発症リスクを高めることがわかっています。
- ストレス: 大きなストレスや人生の転換期が、発症を促す可能性があります。
生物学的要因
- 脳の異常: 脳の構造や機能に異常が見られることが多く、神経伝達物質のバランスの乱れなどが関与していると考えられています。
統合失調症の発症は、これらの要因が複合的に作用することで起こると考えられています。
統合失調症は、遺伝的な素因を持つ人に、ストレスや環境要因が加わることで発症する複雑な病気です。まだ解明されていない部分も多いですが、研究が進み、より詳しいことが明らかになることが期待されています。
こちらも参考に:法テラスの立替制度を利用できる人の条件 | 収入や資力基準
100人に1人弱がかかる病気です
日本における統合失調症の患者数は約80万人と推定されています。
さらに、世界各国の報告をまとめると、生涯にわたって統合失調症を発症する人は全体の人口の0.7%と見積もられています。
つまり、100人に1人弱が統合失調症に罹患する可能性があります。この数字からも分かるように、統合失調症は決して希少な疾患ではなく、私たちの身近な病気の一つと言えます。
気長に病気とつきあっていくことが大切です
急性期の激しい症状が治まると、治療によって一般的には回復期に入ります。
この段階では、徐々に長期の安定状態に向かうことが期待されます。中には症状が完全に消失する人もいますが、症状が消えたからといって、自己判断で薬を中止すると、再発のリスクが高まる可能性があります。
そのため、薬の管理については主治医との定期的な相談が重要です。
統合失調症も、糖尿病や高血圧などの生活習慣病と同様に、症状を抑えるために必要な薬を継続しつつ、患者自身が病気を管理していくことが肝要です。
こちらも参考に:年金証書の再発行・再交付。必要な書類と手続き
こちらも参考に:心理カウンセリングとは?内容や種類、効果、料金などを紹介
統合失調症のサイン・症状
確かに聞こえている、見えているのに、周りの人が否定する
統合失調症に特徴的な症状は幻覚と妄想です。幻覚は、実際には存在しないものが感覚として感じられる状態であり、そのリアルさから脳内で起こっているとは信じがたいものです。一方、妄想は間違った内容を信じ込む状態であり、周囲の人々が訂正しようとしても拒否される考えです。自分には明確に聞こえたり見えたりするが、周囲の人々が否定する場合、幻覚や妄想の可能性があります。
こちらも参考に:休職期間満了による退職は解雇?それとも自己都合退職?注意点も解説
こちらも参考に:ピアサポート・ピアサポーターとは?活動や目的、分野について
周囲の人にもわかる統合失調症のサイン
統合失調症の診断・検査
診断は、患者の現病歴、既往歴、家族歴、社会歴、精神状態、身体所見などを総合的に評価し、DSM-5などの診断基準に基づいて行われます。
統合失調症の診断基準には以下が含まれます。
家族、友人、教師などからの情報は、しばしば発症時期を特定するのに重要です。
臨床検査では、精神病症状を引き起こす可能性のある物質使用障害の有無や内科疾患、神経疾患、内分泌系の病気などを調べます。
脳腫瘍、側頭葉てんかん、甲状腺疾患、自己免疫疾患、ハンチントン病、肝疾患、薬の副作用、ビタミン欠乏症などの病気が基礎にないかどうかを調査する場合もあります。
また、脳腫瘍の可能性を否定するためにCT検査やMRI検査などの脳の画像検査が行われる場合もあります。
統合失調症の人の脳には、CTまたはMRI検査で検出できる異常が生じることがありますが、その異常は、統合失調症の診断に役立つほど特徴的なものではありません。
医師は、統合失調症と共通する特徴がある他の精神障害(短期精神病性障害、統合失調症様障害、統合失調感情障害、統合失調型パーソナリティ障害など)の可能性も視野に入れて診断を下します。
参考:側頭葉てんかんとは?
参考:自己免疫疾患とは?
参考:ハンチントン病とは?
統合失調症の治療
統合失調症の治療は、医師との治療関係を構築し、症状を軽減し、機能を回復することを目指します。そのためには、患者を中心にして家族、支援者、医療者など多職種が協力し、生物学的治療と心理社会的治療、精神科リハビリテーションなど多岐にわたる技法や制度を包括的に活用します。
治療の目標
治療の過程では、医師との信頼関係を築き、精神症状を和らげ、機能を回復させることが重要です。回復後は、再発を防ぐための維持処置も重要な要素となります。
一般的には、統合失調症の治療では以下を目標としています。
早期発見と早期治療が重要です。治療の開始が早いほど、予後は良好です。
治療関係の構築
初診や入院、または担当医が変わる場合には、患者と医師は共に治療に対処する姿勢を持ち、診断と治療を再評価し、治療計画を再度立て直すことが必要です。
家族に統合失調症の症状と治療について、家族に対して指導することが、家族の支えになると同時に、医療従事者が統合失調症患者と関係を維持するのに役立ちます。
治療の方法
生物学的治療
おもに使われる薬
抗精神病薬は、中心となる症状を抑えるのに使用されますが、必要に応じて補助的な薬も使われます。薬の継続は個人差がありますが、再発を予防するためにも専門医の指導を受ける必要があります。
場合によっては補助的に使われることがある薬
抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、気分安定薬は、統合失調症の中心症状の治療には効果が期待されていませんが、場合によっては補助的に使用されることがあります。
薬はいつまで続けるのか
薬を継続する期間は、個人によって異なりますので、一概に言えません。症状の安定を見ながら、量の調整や減量を行うことがありますが、その判断は専門医でなければ難しいものです。統合失調症は再発が多い疾患であり、一定期間安定していても、自己判断で薬の量を減らしたり中止したりすることは、再発を引き起こして重症化の危険を増加させる可能性があります。副作用に苦しんだり、薬の使用を減らしたい場合は、医師に相談することをお勧めします。
場合によっては電気けいれん療法も使われることがあります
参考:電気けいれん療法とは?
こちらも参考に:就労移行支援はひどい?運営のからくり。不信感がぬぐえない方へ
心理社会的な治療
統合失調症の予後(経過の見通し)
統合失調症の早期発見のために
統合失調症になる前に、いくつかの前兆が現れることがあります。これらのサインに気づき、早めに医療機関を受診することが、早期発見、早期治療につながります。
神経過敏
- ちょっとした音が気になる: 日常生活の音(時計の秒針、冷蔵庫の音など)が気になって集中できない、不快に感じる。
- テレビの音声や画像が不快に感じる: テレビの音量をいつもより小さくしたい、映像がギラギラして見ていられない。
- 外を歩いている時にいつもより人の視線が気になる: 人々が自分を見ているような気がして、不安になる。
これらの症状を感じたら、一人で悩まずに、精神科医に相談することをおすすめします。
こちらも参考に:ミルタザピン(リフレックス・レメロン)の効果と副作用