場面緘黙とは?症状や治療方法・仕事選び

場面緘黙症 発達障害知的障害

場面緘黙症

緘黙は、コミュニケーション能力の障害の一種であり、特定の社会的状況において、意図的なコミュニケーションが困難になる状態を指します。

場面緘黙は、選択性緘黙とも呼ばれ、特定の状況下で話せないという特徴を持ちます。場面緘黙の原因は、遺伝的な要因や、幼少期の経験、性格的な要因など、複合的な要因が考えられています。

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場面ごとに「しゃべれる/しゃべれない」がはっきりしているのが特徴で、家庭内ではほぼ問題なくしゃべれているのに、学校に行くと全くしゃべれなくなるケースが多く散見されます。

「学校や職場などの、特定の場面・状況になると、話すことができなくなってしまう」という症状は「場面緘黙」という精神疾患かもしれません。

子どもの頃に発症する人が多く、大人になってから発症するケースは少ないですが、子どもの頃に発症したものが性格の問題だと見なされ、治療せずに大人になり、職場などで苦しい思いをしている方もいます。

この記事では、場面緘黙の症状や治療方法・支障が出ずらい仕事などについて解説していきます。

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場面緘黙とは?

数百人に1人の割合で発症、5歳以下での発症が多い

日本では、場面緘黙の発症は2~5歳の間に多く見られます。

発症率は、海外の研究で0.08%~2.2%、学校の調査では0.15%程度とされていますが、全体として1%未満、数百人に1人の割合と考えられています。

男子よりも女子の方がやや多く、日本の報告では男子1人に対し女子が約1.8人の割合で発症しています。

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周囲の人が症状に気づくのは、幼稚園などに行き始める5~6歳前後が多いですが、小学生や中学生になってから症状が現れる人もいます。

この幼少期に適切な支援や治療を受けられないまま大人になると、生きにくさを感じながら社会生活を送るケースもあります。

場面緘黙では特定の場所で話せない状態が何ヵ月も、場合によっては何年も続くことが特徴です。

リラックスできる場面でも話せないことが続くことが多いのです。

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場面緘黙の本当の困りごと

場面緘黙の種類

緘黙の種類は以下の2つです。

①生活全般にわたって全く話せない全緘黙

②家庭などの安心できる場所では普通に話せるにも関わらず、学校や職場など特定の場所や状況で話せなくなる選択性緘黙(場面緘黙)を指します。

特に多く見られるのは、選択性緘黙(場面緘黙)です。

 

これらの緘黙は一時的なものではなく、長期間症状が続くため、大人になってからも社会生活に大きな影響を与えます。場面緘黙の場合、全く話せないわけではないので、「わざと話さない」と誤解されがちですが、自分の意志で話さないわけではありません。話す場面を見られたり聞かれたりすることに対して、強い不安や恐怖を感じるのです。

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場面緘黙症は「性格」によるものと誤解されやすい

場面緘黙の人は、クラスメイトや職場の同僚に自分の話している様子を聞かれたり、注目を浴びたりすることに対して強い恐怖心を抱きがちです。特に選択性緘黙の子どもは、一般的におとなしく、口数が少ない傾向があり、自ら積極的に友達と関わろうとしないことが多く見られます。

先生や保護者はそれを「その子の性格」と見なし、気長に見守ろうとするケースが多いとされます。

稀に、大人になってから症状が現れる場合もあります。しかし、場面緘黙の認知度が低いため、自分が緘黙症であることに気づかないこともあります。

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「大人になったら自然に治る」は間違い。深刻な二次障害

場面緘黙は、社交不安障害に代表される不安障害を併発するケースが多く、不安な心理が前面に出ていて友だちになじめない、学校ではいつも緊張している、といった悩みを抱えがちです。

また、発達障害の二次障害として緘黙症状が出ることもあります。むしろ、しゃべれない以外の心理的な問題がない人の方が少ないことが分かっており、場面緘黙だけでなく、合併している症状も踏まえた治療・支援が必要です。

緘黙は、できるだけ早期に症状を見つけることが重要です。年齢に応じた適切な治療やサポートを受けることで、日常生活で感じる困難を軽減することが可能です。

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場面緘黙の症状

場面緘黙の症状は個人差があり、家庭内の状況と家庭外(学校など)の状況によって大きく三つに分けられます。

軽症型(第1群)

家庭内:

家族との会話はスムーズで、積極的にコミュニケーションを取ることができる。

自分の考えや気持ちを言葉で表現することに抵抗がない。

家庭外:

学校や友人との会話、大人とのやり取りなど、家庭以外の場面では、言葉でコミュニケーションを取ることが難しい。

筆談やジェスチャー、絵など、言葉以外の手段で周囲と意思疎通を図ることが多い。

不安や緊張を感じることが少なく、活発に行動できる。

中間型(第2群)
家庭内:ほぼ問題なく話すことができる。
家庭外:発話ができないうえ、周囲とのコミュニケーションも拒否する。不安症状がある。

重症型(第3群)

家庭内

  • 特定の人とのコミュニケーション困難: 父親との会話に限らず、特定の家族メンバーとのみ言葉によるコミュニケーションが困難な場合がある。
  • 非言語的なコミュニケーション: 言葉の代わりに、表情やジェスチャー、身振り手振りなどで意思疎通を図ろうとする様子が見られる場合がある。
  • 状況による変動: 状況によって、同じ相手に対しても言葉が出たり出なかったりするなど、コミュニケーションの状況が安定しない場合がある。

家庭外

  • 全般的なコミュニケーションの拒否: 言葉だけでなく、身振り手振りなど、あらゆる手段によるコミュニケーションを拒否する傾向が見られる。
  • 身体症状: 強い不安やパニックにより、身体が固まってしまい、思うように行動できない「緘動症状」が現れることがある。
  • 社会的な場面への回避: 学校や友人との交流など、社会的な場面を避ける傾向が強くなる場合がある。

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症状の重さに違いはありますが、場面緘黙に共通している点は以下の通りです。

  • 話せる場面と話せない場面の区別がはっきりしている
  • 話せない状態が月単位、年単位で長く続く
  • リラックスできる状態にあっても話すことができない

他の病気や人見知りなど性格に起因する緘黙の場合は、学校だけでなく家庭内や近所でも話しづらさが現れます。

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小学生・中学生・高校生の症状

場面緘黙は、特定の場面で話せなくなることに加えて、身体を思うように動かせなくなる「緘動(かんどう)」という症状も現れます。ここでは、場面緘黙の子ども(小学生・中学生・高校生)と大人に現れる症状について説明します。

子どもにとって、学校は自宅に比べて緊張や不安を感じやすい場所であり、場面緘黙の症状が現れやすいです。具体的には以下のような症状が見られます。

  • 先生に当てられても発言できない
  • 学校のトイレに一度も行けない
  • 教科書の音読ができない
  • 授業中に意見を求められても発言できない
  • 緊張しやすく、不安になりやすい
  • クラスメイトから話しかけられても答えられない
  • 話し方や動作が遅く、過保護で育ったと誤解される
  • 集団の中で目立たないようにしている
  • 体育の授業中に思うように体を動かせない
  • 挨拶ができず、無視していると思われる
  • わからないことがあっても質問できない
  • 発表会や卒業式で声を出せない
  • 出席を取る時に声を出したり挙手したりできない
  • 配布されたプリントが足りなくても言えない
  • 友達から「遊ぼう」と誘われても、「いいよ」と簡単な一言が出ない

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選択性緘黙(場面緘黙)は、気質や性格が原因ではなく、意図的に話さないことを選択しているわけではありません。話したいという意思があっても、心理的要因などにより言葉を発することができない状態が特徴的です。

 

幼少期に発症した緘黙症に対して適切な支援を受けられないまま大人になると、症状の改善が遅れるだけでなく、うつ病不安障害などの他の精神障害や、不登校や引きこもりなどの二次的な問題が生じやすくなります。

場面緘黙の人は「不安になりやすい」「緊張しやすい」という共通点がありますので、子どもの場合は特に学校生活に大きな影響が出ます。

 

このような状況は、適した支援や配慮があれば少しずつ改善されますが、周りの生徒や教師の緘黙症への理解が乏しいことが課題です。

参考:発達障害者支援センター

参考:社会福祉士

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大人の症状

大人の場面緘黙は、日常生活だけでなく、特に仕事上で症状が現れやすいと言えます。以下は大人に見られる場面緘黙の症状の例です。

 

  • 不安になりやすい
  • 緊張しやすい
  • 上司や同僚からの質問に答えられない
  • 緊張した状況下で書類を提出できない
  • 業務を指示された際に理解できなかったが、聞き返せない
  • 会議や打ち合わせの場で発言できない
  • 休憩中の同僚との雑談に入れない
  • 不明な点を聞かなければいけない時に話しかけられない
  • のどが圧迫されて声が出せない
  • 相手の指示にすぐ反応できない
  • 分からないことや困っていることを言えない
  • 挨拶や雑談ができない
  • 視線が気になってストレスを感じる
  • プレゼンのように話さなければいけない場面がつらい

 

大人の場合、つらい症状を隠しながら働くことで、会社に居づらい感覚になり、二次的な問題を引き起こすことがあります。また、仕事中に上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかず、トラブルになる可能性もあります。例えば、指示が分からない場合や何かを聞きたい時に声が出なかったり、慣れない場面で身体が思うように動かないことがあります。

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場面緘黙と混同しやすい病気

場面緘黙は、特定の場面で話せなくなるという特徴的な症状を持つ病気ですが、他の病気と混同されることがあります。ここでは、場面緘黙と、よく比較される「トラウマ性緘黙」「けいれん性発声障害」「失声症」「吃音症」「知的障害」「統合失調症」との違いについて解説します。

 

場面緘黙とその他の病気との比較

病気名 特徴 場面緘黙との違い
場面緘黙 特定の場面で話せない 具体的な場面や状況が限定されることが多い。心理的な要因が大きい。
トラウマ性緘黙 トラウマ体験後に話せなくなる 明確なトラウマ体験が原因。感情的なショックが大きい。
けいれん性発声障害 声を出そうとすると筋肉が痙攣し、声が途切れる 発声器官の機能的な問題。心理的な要因も関与する場合がある。
失声症 声が出ない、または声がかすれる 発声器官の病気や脳の障害が原因。心理的な要因も関与する場合がある。
吃音症 言葉が途切れたり、繰り返したりする 流暢な発話が困難。心理的な要因と生理的な要因が複雑に絡み合う。
知的障害 知的な発達が遅れる 言語発達も遅れることが多い。社会性の発達にも遅れが見られる。
統合失調症 幻覚、妄想、思考の混乱など、多様な症状を伴う 言語の障害は二次的なもの。思考の混乱や感情の鈍麻などが特徴。

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各病気の詳しい説明

  • トラウマ性緘黙: 特定の出来事(虐待、災害など)をきっかけに、精神的なショックを受け、話すことができなくなる状態です。場面緘黙との違いは、明確なトラウマ体験があるかどうかです。
  • けいれん性発声障害: 発声器官の筋肉が痙攣し、声が途切れたり、ぎこちなくなる状態です。心理的な緊張や不安が引き金になることもありますが、生理的な要因が大きいことが特徴です。
  • 失声症: 声帯や神経の病気、脳の障害などが原因で、声が全く出ない、またはかすれる状態です。心理的な要因も関与する場合がありますが、主に身体的な問題が原因です。
  • 吃音症: 言葉の途中で何度も同じ音を繰り返したり、言葉が途切れたりする状態です。心理的な緊張や焦りが悪化させることがあります。
  • 知的障害: 学習能力、適応能力、社会性の発達が遅れる状態です。言語発達も遅れることが多く、複雑な文や抽象的な概念を理解するのが難しい場合があります。
  • 統合失調症: 幻覚妄想、思考の混乱、感情の鈍麻などの多様な症状を伴う精神疾患です。言語の障害は二次的なもので、思考の混乱や感情の鈍麻などが特徴です。

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場面緘黙と発達障害

場面緘黙は、発達障害、特に自閉スペクトラム症(ASD)を伴うケースが多く、発達上の特性が原因となることがあります。

コミュニケーション障害や発達性協調運動障害(DCD)なども併発しやすいことから、これらの障害を考慮した複合的な治療が必要となります。発達障害者支援法の対象となるため、適切な支援を受けることが可能です。

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場面緘黙の原因

緘黙症の発症原因については、現時点では明確には解明されていません。主に「個体側の要因」と「環境側の要因」に分類して考察されています。

この障害は、複数の要因が相互に影響し合い、複合的に作用することで引き起こされると考えられています。

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①本人側の要因(生まれつきの気質)

場面緘黙の人は、生まれつき「不安になりやすい」「緊張を感じやすい」という気質を持っていることが多く、この気質は遺伝が関係しているとされています。

ある研究では、一卵性双生児が両方とも緘黙症を発症した場合は治りにくい傾向があり、患者の親族にも発症者がいることが多いと報告されています。

緘黙症の人には、脳の扁桃体が周囲の刺激に過剰反応するため、不安や緊張を感じやすいという特徴があります。

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さらに、社会不安や分離不安といった不安症が加わることもあります。また、自閉スペクトラム症(ASD)を併存しているケースも多く、選択性緘黙の背景にはASDが大きく影響している可能性が指摘されています。

発達障害によってコミュニケーション能力が低くなり話さない場合は、場面緘黙とは異なりますが、これらの診断は専門的な問診や検査が必要であり、「話さない」という状況だけで判断することはできません。

さらに、言語理解の問題も関係している場合があります。例えば、外国人と話す必要がある状況など、馴染みのない言語環境で不安を感じることから自分を守るために緘黙症が発症することもあります。

その他の要因として、言葉の発達の遅れやコミュニケーション能力の問題、吃音や構音障害などにあたる言語障害、知的障害なども影響するケースもあります。

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環境側の要因

場面緘黙の発症要因は多岐にわたり、未だ解明されていない部分が多いものの、いくつかの仮説が提唱されています。その一つとして、コミュニケーションに対する強い不安が挙げられます。特に、新しい環境や異なる文化圏への移住など、言語習得の困難さやコミュニケーションのストレスが強い状況下では、場面緘黙が発症しやすいことが指摘されています。

近年、移民を対象とした研究では、異文化への適応過程において、言語障壁によるコミュニケーションの困難が、場面緘黙の発症リスクを高める可能性が示唆されています。これは、新しい言語を習得する際の不安や、自分の意見をうまく伝えられないというフラストレーションが、コミュニケーションに対する強い回避行動を引き起こすためと考えられています。

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しかしながら、これらの要因はあくまでも場面緘黙の発症に関わる可能性のある要素であり、個々のケースにおいては、遺伝的な素因や、過去のトラウマ、パーソナリティといった多様な要因が複雑に絡み合っていると考えられます。

場面緘黙を発症する場合、学校や職場など特定の場所だけが関わっているわけではなく、環境や状況が継続的なのか、一時的なのか、複数回にわたるのかによっても症状が変わります。

選択性緘黙は、特定の社会的な状況下において、話せないという状態が特徴的なコミュニケーション障害です。従来、家庭環境や育児方法が選択性緘黙の原因として考えられてきましたが、最近の研究では、社会的な状況がより大きな影響を及ぼしていることが明らかになりつつあります。

具体的には、選択性緘黙のある人は、「話さなくても生活できる状況」や、「話さないことが期待される状況」において、言葉を発することが困難になる傾向があります。例えば、学校や集団での活動など、周囲の目が気になるような場面では、言葉が出にくくなるケースが多いです。これは、評価に対する不安拒絶されることへの恐怖といった心理的な要因が強く影響していると考えられています。

一方で、家庭環境や育児方法が全く関係ないというわけではありません。過度の保護や、コミュニケーションの機会が少ない環境は、子どもの社会性発達に影響を与える可能性があり、間接的に選択性緘黙の発症リスクを高める可能性も否定できません。

 

「この子、場面緘黙かもしれない」と感じる児童がいたら、ウェブサイト「かんもくネット」にあるSMQ-R(場面緘黙質問票)などのチェックリストを活用してみてください。

かんもくネットとは、場面緘黙についての情報交換や理解促進を目指して活動している非営利の任意団体です。

場面緘黙の診断基準

場面緘黙の診断には、アメリカ精神医学会のDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)や、世界保健機関(WHO)のICD-10が用いられます。DSM-5においては、場面緘黙は「不安症群」に分類されており、以下のように定義されています。

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DSM-5の診断基準

  • A. その他の状況では喋ることが出来ているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況(例:学校)において話すことが一貫してできない
  • B. その障害が学業上、職業上の成績や、対人コミュニケーションの妨げになっている
  • C. その障害の持続期間は少なくとも1ヶ月(学校の最初の1ヶ月に限定されない)
  • D. 話すことができないのは、話し言葉の知識不足や話すことに関する楽しさの不足によるものではない
  • E. その障害は、コミュニケーション症(例:小児期発症流暢症)では説明できず、自閉スペクトラム症統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない

ICD-10では、場面緘黙は以下のように定義されています。

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ICD-10の診断基準

  • 正常あるいはほぼ正常な言語理解能力および社会的コミュニケーションに十分な表出性言語能力を持っているにもかかわらず、特定の状況では話せない。これは、会話が著しく情緒的に決定され選択されることで特徴づけられる

これらの診断基準に基づいて、精神科医による問診が行われます。問診では、人見知りや恥ずかしがり屋などの気質的なものや、反抗やわざと話さないケースを除くことが重要です。

診断の最も重要なポイントは、「他の状況では話せるのに、特定の場面や状況では話せない」という症状があることです。「特定の状況で話せない」という点において、どちらの診断基準を考えるにも重要なポイントとなります。

 

 

場面緘黙の治療方法

緘黙が疑われる場合は、まず精神科や心療内科、メンタルクリニックを受診し、専門医の診察を受けましょう。人によっては、場面緘黙だけでなく発達障害を合併しているかどうかの判断が必要です。

また、場面緘黙の人にはうつ病などの精神障害を併発している可能性もあるため、自己診断は避けてください。

ここでは、場面緘黙の治療法として考えられる4つの方法をご紹介します。

 

①認知行動療法(CBT)

自身の考え方や行動のクセや特徴を把握して、どのようにすれば症状を和らげることができるのか?ストレスを軽減することができるのか?を考えていく治療方法になります。

海外の治療実績では場面緘黙の治療にも効果があるとの報告がされています。

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②薬物療法

場面緘黙の治療において、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)といった抗うつ薬が用いられることがあります。SSRIは、うつ状態や不安症状を伴う場面緘黙の患者に対して、これらの精神症状を緩和し、コミュニケーションへの意欲を高める効果が期待されています。

しかしながら、SSRIはあくまで二次的な治療であり、場面緘黙の根底にある不安や恐怖心を直接的に治療するものではありません。そのため、SSRIによってうつ状態や不安症状が改善されたとしても、必ずしも場面緘黙の症状が完全に消失するとは限りません。

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③言語聴覚士による支援

言語聴覚士は、言語や聴覚に関する問題に対して、身体機能の側面から支援を行う専門家です。特に、場面緘黙に伴う社交不安や吃音などの併存症状に対して、効果的な支援を提供することが可能です。個々のクライアントに適したトレーニングプランを用いることで、場面緘黙の症状の緩和を目指します。

 

④TMS治療

TMS治療は、磁気刺激治療とも言われている治療法であり、アメリカ食品医薬品局(FDA)に認可されています。

うつ病不安障害などの精神障害の症状に、効果が期待できる治療法とされています。場面緘黙を引き起こす可能性がある、うつ症状や不安症状の緩和にも期待ができるため、場面緘黙を発症する可能性を下げる効果があるでしょう。

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場面緘黙の治療には、周囲の理解と協力が不可欠であり、「スモールステップ」(段階的に治療や訓練を行う)という考え方が重要です。

治療はすぐに効果が出るわけではなく、数年単位で改善を目指すケースが多いため、親や学校の先生、職場の人々と連携し理解を得ましょう。

子どもの場合、家庭と学校が協力して安心できる環境を整えることから始め、無理せず段階的に治療を進めます。

適切な支援と配慮により緘黙症状は改善されるため、周囲の人々は安心して話せる環境を提供するよう努めましょう。

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場面緘黙の方が受けられる支援

場面緘黙は発達障害者支援法の対象となっている障害です。そのため、法に基づいた様々な支援制度を利用することが可能です。主に利用できる支援は、次のとおりです。

①精神障害者保健福祉手帳について

精神障害者保健福祉手帳は、場面緘黙症を含む発達障害や、その他の精神疾患を持つ方が利用できる福祉サービスになります。この手帳は精神的な障害があることを証明し、さまざまな支援を受けることができます。

手帳の等級は、以下の要素に基づいて決まります。

  • 精神疾患の有無
  • 精神疾患(機能障害)の状態
  • 能力障害(活動制限)の状態
  • 精神障害の程度の総合判定

等級は1級から3級まであり、それぞれの障害の程度は以下の通りです。

等級 内容
1級 精神障害があり、日常生活を自力で送ることが困難な状態(仕事にも支障をきたす症状)。例えば、医療機関への外出に付き添いが必要、食事の準備や片付けができない、金銭管理が難しいなど。
2級 精神障害があり、日常生活に著しい制限がある状態(単純な仕事は可能)。例えば、付き添いなしで外出はできるが、緊急時に一人で対処できない、清潔保持が難しい、日常生活で適切な発言ができないことがある。
3級 精神障害があり、日常生活または社会生活に制限がある状態(一般就労が可能)。例えば、日常的な家事はできるが、手順が変わると対応が難しい、周囲の人と行動を合わせられるが、常に引きこもっているわけではない。

 

手帳を取得して福祉サービスを受けるには、精神科を受診し、少なくとも6ヶ月以上経過していることが条件です。この期間中に発達障害を含む精神疾患の症状が持続していることを確認する必要があります。

手帳の交付に年齢制限はありませんが、多くの場合、自立した生活を目指すために18歳以上になってから申請されることが多いです。

手帳を持つことで受けられるサービスには、以下のようなものがあります。

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支援内容

  • 公共料金などの割引
    • NHK受信料の減免
    • 鉄道、バス、タクシーなどの運賃割引
    • 携帯電話料金の割引
    • 上下水道料金の割引
    • 心身障害者医療費助成
    • 公共施設の入場料などの割引
  • 税金の控除・減免
    • 所得税や住民税の控除
    • 相続税の控除
    • 自動車税や自動車取得税の軽減(手帳1級が対象)
  • その他

 

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②就労移行支援

就労移行支援は、障害や病気を持つ方が社会生活に適応し、スムーズに就労できるように支援するサービスです。このサービスを通じて、就労に必要な知識や技術を学び、就職活動のサポートを受けることができます。

場面緘黙を含む発達障害などの精神疾患を持つ18歳以上の成人は、障害者総合支援法に基づいて就労移行支援を受けることができます。

就労移行支援は、専門の事業所に通いながら、就職に向けたスキルや知識を学ぶプログラムです。ここでは、就職準備や相談などが提供されており、一般企業への就職が可能になることもあります。

このサービスの利用期間は原則として2年です。主な支援内容は以下の通りです:

  • 就職に関する相談・支援
  • 職業訓練:就職に必要な知識や能力を習得
  • 求職活動支援:適性に合った職場探しやアドバイス
  • 応募書類の添削・模擬面接:履歴書や応募書類の添削、模擬面接など
  • 職場実習の機会提供
  • 就職後の職場定着支援

その他、個々のニーズに応じた様々な支援も提供されています。障害者手帳がない場合でも、お住まいの自治体によっては利用可能なこともあるので、相談することをお勧めします。

サービスの利用料は以下の通りです:

  • 生活保護世帯: 無料
  • 市町村税非課税世帯(世帯収入300万円以下): 無料
  • 市町村税課税世帯(世帯収入600万円以下): 月額9,300円
  • 市町村税課税世帯(世帯収入600万円以上): 月額37,200円

なお、医療や介護が必要な場合には、負担額が減免される場合もあるので、詳しくは窓口で確認してください。

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③自立支援医療

自立支援医療は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に基づく制度で、場面緘黙を含む精神疾患の治療にかかる医療費の自己負担を軽減するものです。この制度を利用すると、医療費の自己負担割合が通常の3割から1割に軽減されます。

自立支援医療には以下の3種類があります:

  1. 精神通院医療(精神疾患の治療)
  2. 更生医療(身体障害の治療など)
  3. 育成医療(身体障害のある子どもの治療)

この制度は、都道府県や政令指定都市が実施主体となっており、すべての精神疾患を対象に、通院による継続的な治療が必要な方が申請・利用できます。

公的医療保険の自己負担は一般的に3割ですが、自立支援医療を利用すると、原則として1割に軽減されます。

例えば、精神通院医療における自己負担額と世帯所得の関係は以下の通りです:

所得区分 世帯所得状況 月額負担上限 「重度かつ継続」の場合の上限額
生活保護 生活保護受給世帯 0円 0円
低所得1 市町村民税非課税、本人の所得が80万円以下 2,500円 2,500円
低所得2 市町村民税非課税、本人の所得が80万円を超える 5,000円 5,000円
中間所得1 市町村税の納税額が3万3,000円未満 高額療養費制度」の限度額が上限 5,000円
中間所得2 市町村税の納税額が3万3,000円~23万5,000円未満 10,000円 一定所得以上
一定所得以上 市町村税の納税額が23万5,000円以上 対象外 20,000円

ただし、自立支援医療を利用する際には以下の注意点があります:

  • 都道府県が指定する「指定医療機関」でのみ利用可能
  • 受給者証と限度額管理票を毎回提示する必要がある
  • 受給者証が届くまでに時間がかかる
  • 1年ごとに更新が必要
  • 払い戻し手続きができる場合と、できない場合がある

通院が長期化し、定期的な治療が必要な精神疾患では、経済的な負担を軽減することが重要です。自立支援医療を活用することで、治療に専念しやすい環境を整えましょう。

場面緘黙のある方の仕事

場面緘黙症を抱えている人は、日常生活や社会生活を送るにあたり支障を来している場合があります。どのような対応をすることで、生活のしづらさを軽減できるか工夫することが大切です。

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生活や仕事における工夫

まずは、自分の緘黙症の特徴を理解することが重要です。どのような状況や環境で緘黙症の症状が現れるのかを整理しましょう。

例えば、「家庭では普通に話せるが、学校や職場では話せないことがある」という場合が多いかもしれません。このような場合、具体的にどのような場面で話しづらさを感じるのかをさらに掘り下げてみましょう。

学校や職場で話せないという状況には、「友だちや同僚と話すとき」や「授業中に先生から指名されたとき」「職場内の会議で発言するとき」などがあります。

これらの状況を一度紙に書き出し、自分がどのような場面で話しにくいのか、また誰と話すことが難しいのかを詳細に把握することが大切です。

このように整理することで、自分が克服できそうな状況が見えてくるでしょう。少しずつコミュニケーションを取る練習をし、無理のない範囲から始めて慣れていくことが大切です。

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どのように周囲へ伝えるか考える

学校や職場でコミュニケーションがうまく取れないことで、友だちとの関係が難しくなったり、職場でトラブルが発生したりすることがあるかもしれません。

そのため、学業や職務において、周囲の人々に緘黙症への理解を促すことが重要です。

緘黙症の症状を口頭で説明することが難しい場合には、症状を文章でまとめる方法や、医師から症状の説明書を作成してもらい、職場の上司に提供するなどの手段が考えられます。

言葉が出てこないことは本人にとって辛いことであり、周りの人もどう対応してよいか分からず困惑しているかもしれません。円滑なコミュニケーションを図るために、本人や周囲の人々、保護者、医師などが協力して話し合うことが大切です。

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合理的配慮

合理的配慮とは、障害を有する人が障害を持たない人と同等に日常生活や社会生活を営むことができるよう、教育現場や職場において実施される適切な調整や環境整備を指します。

例えば、身体に障害がある人が車いすを利用している場合には、スロープを設置することでバリアフリー化を図るといった環境調整が行われます。

場面緘黙症の場合、コミュニケーションが難しい状況で、ホワイトボードやノートを使った筆談など、話したい内容を伝えるための方法を整えることが合理的配慮の一例です。

合理的配慮を得るためには、周囲の人々に自分の症状を伝えることが重要です。以下のような配慮が考えられます:

  • テキストやチャット、メール、筆談でのやり取り
  • 指示をメモで受け取る
  • 質問は「はい・いいえ」で答えられる形式にする

合理的配慮の理念は、2016年に施行された「障害者差別解消法」にも反映されており、国や自治体には法的義務、民間企業や事業者には努力義務として求められています。企業や事業者は障害のある人々の障壁を取り除き、平等な機会を提供することが義務付けられています。

場面緘黙症のような障害を持つ人も、周りに自分の症状を伝えることで、適切な配慮を得ることができます。

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場面緘黙のある方職業選択

場面緘黙のある方についても、個々に得意分野や不得意分野、嗜好が異なるため、特定の職業が全ての方に適しているわけではありません。

しかし、生活や職務における工夫を伴うことで、比較的取り組みやすいと考えられる職種についていくつかご紹介いたします。

  • 工場・倉庫での作業(梱包・配送準備・ライン作業・ピッキングなど)
  • ウェブサイト制作(コーディング・デザイン・プログラミングなど)
  • 清掃員
  • ホテルのベッドメイキング
  • システムエンジニア
  • ポスティング
  • イラストレーター、漫画家、アニメーター、作家などのクリエイティブな仕事
  • 図書館司書 など

 

場面緘黙の症状である「特定の場面で話せなくなってしまう」ということを考えると、「極力、仕事中に誰かと話さなければいけない状況が少ない仕事」が、取り組みやすい仕事と言えるでしょう。

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まとめ

場面緘黙症は、特定の状況や環境で言葉が発せなくなる症状で、子どもの場合、自然に症状が治まることがありますが、大人の場合は治療に時間がかかることが多く、無理をせず少しずつ進めることが重要です。

場面緘黙症は適切な治療や支援を受けることで、落ち着いた生活を送ることが可能となります。

どのような配慮があればスムーズにコミュニケーションが取れるのかを考えて、本人の工夫や周囲の人々の協力をお願いしましょう。

専門のクリニックで場面緘黙と診断された場合、発達障害者支援法に基づく支援も受けられます。福祉サポートを活用しながら、一人で抱え込まずに治療を進めることが大切です。

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