軽度知的障害は、日常生活での会話や動作が可能であるため、周囲からは気づかれにくいという特徴があります。
しかし実際には、「勉強についていくのが難しい」「友達と仲良くするのが難しい」「空気を読めないと言われる」といった悩みを抱え、さまざまな場面で困難を感じている方が少なくありません。子どもの頃には気づかれないことが多いですが、成長して仕事に就いてから「業務をすぐに覚えられない」「指示を理解するのが難しい」と感じることで、軽度知的障害の存在が明らかになることもあります。
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軽度知的障害を持つ方の割合は多いとされており、周囲に適応しようと努力するあまり、障害に気づかれないまま大人になるケースも少なくありません。
特徴や困難な点を理解し、それに応じた対策を取ることで、日常生活や仕事での困難を減らしていくことが可能です。本記事では、軽度知的障害の特徴や直面しやすい困りごと、原因、相談先や支援制度について詳しく紹介します。また、働き方の工夫なども取り上げ、より良い生活をサポートするための情報を提供します。
- 軽度知的障害とは?
- 軽度知的障害は知的障害とは何が違うの?
- 「知的障害」の判断基準
- 知的障害に併発しやすい疾患
- 【年齢別】軽度知的障害の苦手なこと
- 大人の軽度知的障害の困りごと
- 軽度知的障害を発症するのはなぜ?主な原因
- 知的障害は遺伝するの?
- 軽度知的障害と発達障害の関係性
- 大人になってから軽度知的障害と診断されることはある?
- 知的障害の雇用状況
- 軽度知的障害の診断場所と相談の流れ
- 軽度知的障害の働き方の種類
- 知的障害のある人向けの支援制度や機関
- 知的障害者更生相談所
- 障害者総合支援法に基づく支援
- 成年後見制度
- 障害者虐待防止センター・人権相談所
- 障害年金
- 障害基礎年金
- 障害厚生年金
- 生活保護
- 特別障害者手当
- 障害がある方向けのエージェントサービス
軽度知的障害とは?
軽度知的障害は、18歳未満の発達期に知的発達が実年齢より低い状態を指し、IQが50〜70の範囲にあることが特徴です。日常生活や仕事の中で困難を感じる場面が多く、「複雑な会話や文章を理解すること」「抽象的な内容を理解すること」「その場の空気を読むこと」「段取りをつけること」「記憶すること」などが苦手とされています。
こうした困難のため、本人は大きなストレスを感じ、心身に負担を抱えることも少なくありません。
軽度知的障害は周囲に気づかれにくく、特に子どもの頃には支援を受けることなく過ごしてしまうケースも多く見られます。学校生活では、授業の内容を理解できないことに悩み、「もっと努力しなければ」と無理をしてしまうこともあります。その結果、成人してからも自分の特性に気づかないまま、仕事での困難に直面して初めて自覚する場合もあります。
また、軽度知的障害のある方には、ASD(自閉スペクトラム症)、アスペルガー症候群、LD(学習障害)、ADHD(注意欠如・多動性障害)など、他の発達障害が併存するケースもあります。
これらが組み合わさることで、より大きな困難を感じることもあるため、適切な支援や工夫が求められます。無理を続けると精神的な不調などの二次障害につながる可能性があるため、自分の特性を理解し、適切なサポートを受けることが大切です。
発達障害で仕事を転々としていましたが、脱サラして地元でスナックを開業しました。
軽度知的障害は知的障害とは何が違うの?
知的障害の程度別の分類
知的障害は、おおむね18歳までの発達期に知的機能の遅れが生じ、日常生活や学校、仕事などで支援が必要となる状態を指します。知的障害はその程度により「軽度」「中度」「重度」「最重度」に分類され、分類基準には知能指数(IQ)と、日常生活を送る上での適応能力が用いられます。
適応能力とは、自立機能や運動機能、意思交換、生活文化、職業適性などを評価するもので、評価結果によって最終的な判定が決まります。
1970年、当時の文部省は知的障害(当時は「精神薄弱」と呼ばれていました)の基準としてIQ75以下を定め、これが長らく日本における知的障害の程度区分の基準とされていました。
しかし、2005年度の知的障害児(者)の基礎調査結果では、IQと日常生活能力の両方を考慮して障害の程度を判定する基準が示されました。これに基づき、地方自治体でも知的障害の程度を分類しています。
具体的な区分では、IQが51~70の場合は軽度知的障害、IQが36~50が中度、IQが21~35が重度、IQ20以下が最重度とされます。ただし、IQだけではなく、適応能力の評価も加味されるため、例えばIQが20以上でも適応能力が低い場合には「重度」と判定されることもあります。このように、知的障害の程度はIQと日常生活能力のバランスをもとに総合的に判断されます。
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知的障害の程度別の特徴
軽度
軽度の知的障害を有する個人は、適切な支援の下、小学校卒業レベル以上の学力習得が期待できる。また、生活上の意思決定や地域社会における自立生活に関しても、最低限の支援があれば達成可能なケースがほとんどである。ただし、金銭管理や食事、買い物といった日常生活動作においては、指示や指導を必要とする場面も存在する。
中度
中度の知的障害を有する個人は、日常的なコミュニケーションは円滑に行えるものの、複雑な内容や抽象的な概念の理解には困難を伴う。そのため、社交場面における非言語的なコミュニケーションの理解や、状況に応じた判断・意思決定においては、外部からの支援が必要となる。
日常生活においては、具体的な指示や支援があれば、自己管理や身の回りの世話を行うことが可能である。就労面においては、単純作業や決まった手順で行う作業であれば、自立した作業遂行が期待できる。また、グループホームなどの適切な支援の下、地域社会において自立した生活を送ることも可能である。
重度
重度の知的障害を有する個人は、コミュニケーション能力が著しく制限されており、日常的な生活動作においては、継続的な支援を必要とする。特に、安全確保のため、常時監督・指導が必要な場合が多く、そのため、介護付きの住居での生活が一般的である。
最重度
最重度の知的障害を有する個人は、日常生活全般において、高度な介護支援を必要とする。具体的には、食事、排泄、移動など、全ての生活動作において他者の介助が不可欠であり、24時間体制の支援体制が求められる。コミュニケーション能力は著しく制限され、非言語的な表現や身体的な反応に頼ることが多い。また、感覚過敏や鈍麻など、感覚機能の異常を伴う場合も少なくない。
軽度知的障害者のエピソード
美奈子さんはいつも明るい笑顔を振りまく女性。小さな町のパン屋さんで働いている彼女は、地元の人々に愛されていました。ただ、話をするとき、どうしても「何の話をしていたのか」を忘れてしまい、全然違う話題に飛んでしまうことがしばしばです。
ある日、福祉センターでのコミュニケーション教室に出席した美奈子さんは、支援者の沙織さんから「みんなでお題について話してみましょう」という提案を受けました。お題は「好きな食べ物」。周りの人が次々と自分の好きな料理について話している中、美奈子さんの番が回ってきました。
「私ね、カレーが好きなんだけどね!」と勢いよく話し始めた美奈子さん。しかし次の瞬間、「あ、そういえば昨日の夜、隣の家の犬がすごく吠えててさ、びっくりしちゃった!」と急に話題が変わってしまいます。周りはクスッと笑いますが、美奈子さん自身は「あれ?何の話してたっけ?」と首をかしげるばかりです。
上記のエピソードのように軽度知的障害の方は話している内容を途中で忘れてしまうことがよくあります。また、主語述語の使い方が間違っていたり、対話者との関係性を無視した言葉の使い方をしているなどといったことがよく見受けられます。
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「知的障害」の判断基準
知的障害は、知能指数(IQ)を測る知能検査によって判断されます。IQは、読み・書き・計算、考える能力や物事に対する理解力を評価するための指標です。知能検査としては、田中・ビネー式ⅣやWISC(児童向けウェクスラー式知能検査)Ⅳ・Vが日本の児童相談所や知的障害者更生相談所、医療機関などで一般的に用いられています。
また、知的障害の評価には適応能力も考慮されます。適応能力の評価では、集団の中でルールを守る能力や、自分の役割を果たせるかといった適応スキルを測るための尺度が使われます。このような評価を通じて、知的障害があるかどうかを判断するのです。
知的障害の定義については、身体障害や精神障害、発達障害のように具体的な法的定義が存在せず、知的障害者福祉法などにも明文化されていませんが、知能検査と適応能力の評価による診断が基準とされています。
知能指数(IQ)
知能指数(IQ)は、「知的機能の障害」を評価するための指標で、標準化された検査によって測定されます。成人の平均IQは90~109とされていますが、軽度知的障害の方のIQは51~69の範囲です。
また、IQの数値によって「最重度知的障害(IQ20まで)」「重度知的障害(IQ21~35)」「中度知的障害(IQ36~50)」「軽度知的障害(IQ51~69)」と区分されます。IQが70付近の場合は「境界知能」として、知的障害には分類されません。
しかし、知的障害の程度を判断するにはIQだけでは不十分で、「適応機能」も併せて評価する必要があります。適応機能とは、自立した生活や意思交換、運動機能、職業適性など、日常生活での能力を指します。このため、たとえIQが中度知的障害の範囲にあっても、適応機能が高ければ「軽度知的障害」とされることがあります。逆に、IQが軽度知的障害の範囲内でも、日常生活への適応能力が低い場合には「中度知的障害」と判断されることもあります。
厚生労働省による定義では、「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)に現れ、日常生活に支障をきたし、特別な援助が必要な状態」を知的障害としています。発達期以降に障害が出現した場合は、知的障害には該当しません。これにより、IQと日常生活能力の両方を総合的に考慮して、知的障害の有無や程度が判断されます。
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日常生活能力水準
適応機能(適応能力、日常生活能力)は、日常生活を営むためのスキルを指し、知的障害を判断する上で重要な要素です。具体的には、セルフケア(衣食住の管理)、自由な時間の使い方、読み書き、お金の管理、人間関係の構築などの能力が含まれます。
適応機能の評価では、「コミュニケーション」「日常生活」「社会性」「運動」の4つの項目をチェックし、それぞれ「a(低い)」から「d(高い)」までの4段階で評価します。この評価結果とIQを総合的に考慮し、知的障害の程度が判断されます。
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知的障害は、知能指数(IQ)と適応機能の両方を基にその程度が定義されます。また、一般的に「身体障害」「精神障害」「知的障害」の3区分が知られていますが、近年では「発達障害」の認知度も高まっています。
令和元年の「障害者白書」によると、身体障害者や精神障害者はそれぞれ約400万人に対し、知的障害者は約100万人とされていますが、その数は増加傾向にあります。
この増加は、発達障害の認知度向上と共に、療育手帳の取得者が増えていることが一因と考えられます。
かつて「精神遅滞」とも呼ばれていた知的障害は、国際的な流れによりこの表現は次第に使われなくなってきています。社会の変化に伴い、知的障害への理解や支援が広がりつつあります。
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知的障害に併発しやすい疾患
発達障害
自閉症スペクトラムは、社会的相互作用の障害や限定的な興味といった特徴を共有する自閉症、アスペルガー症候群、小児期崩壊性障害などを包括する概念であり、このスペクトラムに位置づけられる子どもの約30%は知的障害を併発しているという報告があります。
ダウン症
染色体異常が原因の遺伝子疾患では、個人差はみられますが、多くは軽度から中程度の知的障害を併発します。
染色体異常による遺伝子疾患は、知的障害の程度に個人差はありますが、軽度から中程度の知的障害を伴うケースが一般的です。
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重複障害
先天性の知的障害は、てんかんや脳性麻痺などの神経系の障害、あるいは心疾患などの内部疾患を伴う場合もあります。
先天性の知的障害を持つ人の中には、脳の器質的な障害であるてんかんや脳性麻痺、あるいは心疾患などの身体的な疾患を併発しているケースが見られます。
認知症
知的障害者は、40代後半から50代という比較的早い時期に認知症を併発しやすいというデータがあります。
研究によると、知的障害者は一般人口に比べて、40代後半から50代という早い段階で認知症を発症するリスクが高いことがわかっています。
成人病
知的障害者は、食生活の自己管理が難しいことから、偏食傾向が強く、その結果、肥満や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を発症しやすいという特徴があります。
自発的な食事制限が困難な知的障害者は、偏食による栄養バランスの偏りから、肥満や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病のリスクが高いことが指摘されています。
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【年齢別】軽度知的障害の苦手なこと
軽度知的障害のある方の特徴や困りごとは、一般的に次のようなものです。ただし、これらの特徴や困難は人によって異なり、全ての方に当てはまるわけではありません。ここでは、軽度知的障害のある方の特徴を「未成年のころ」と「大人になってから」に分けて紹介します。
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乳幼児期(0~5歳)・学齢期(6~15歳)の特徴
軽度知的障害のある方は、学齢期から特徴や困難が表れることが多く、小学校に入学すると、読み、書き、計算などの学習面での苦手が見られ、授業の内容を理解するのが難しくなることがあります。
また、複雑な表現の理解や学校での集団生活のルールを把握することが難しく、人間関係をうまく築けないといった状況もあります。友達との距離感をうまく取れないことから、対人関係で悩むことが多くなる場合もあります。
日常生活においても、おつりの計算が苦手で買い物がしづらかったり、複雑な乗り換えの理解が難しく、移動に困難を感じることがあります。
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こうした特徴は、中学・高校と進むにつれ、勉強内容や人間関係がより複雑化するため、困難さが増すこともあります。その結果、ストレスが蓄積し、非行や不登校、うつ病といった二次障害に繋がるケースも少なくありません。
また、青年期以前の乳幼児期や学齢期には、同年代の子どもと比べて言葉が少ない、複雑な文章を理解しづらい、パニックに陥りやすい、多動や自傷行為(わざと頭をぶつけるなど)などの特徴が見られることもあります。これらの特徴の現れ方は個人差があるため、すべての方に当てはまるわけではありませんが、早期の支援が重要です。
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コミュニケーションが苦手
軽度知的障害のある方は、コミュニケーションにおいて、健常者の方と比べて、いくつかの困難を抱えていることが多く見られます。例えば、複雑な言葉や抽象的な概念を理解するのが難しかったり、自分の気持ちを言葉でうまく伝えられなかったり、状況に合わせて言葉遣いを使い分けるのが難しいといったことが挙げられます。このような特性は、職場など、様々な場面での人間関係を築く上で、課題となる可能性があります。
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計算が苦手
軽度知的障害のある方は、数値に関する処理において、健常者と比較して困難を経験されるケースが多く見られます。
具体的には、単純な算術計算は遂行できる場合が多いものの、計算速度が求められる状況や、複数の数値を同時に処理する必要がある状況においては、困難を感じる方が少なくありません。
また、時間的な制約の中で、複数の作業を計画的に遂行するための逆算や見積もりといった、高次の算数的な思考を要する作業においても、困難を経験される方がいます。
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文章を読むのが苦手
軽度知的障害のある方は、言語理解において、健常者と比較して困難を経験されるケースが多く見られます。
具体的には、漢字の読み書き、抽象的な概念の理解、複雑な文構造の解析などにおいて、困難を伴うことが挙げられます。例えば、ふりがながない漢字の読解に時間がかかったり、比喩表現や慣用句の意味を正確に把握できなかったり、二重否定を含む文の意図を理解することが難しかったりします。
これらの困難は、職場において、メールや会議資料など、文章を用いたコミュニケーションを円滑に行う上で障害となる可能性があります。
複雑な指示の理解が苦手
軽度知的障害のある方は、職場における業務指示の理解において、困難を経験されるケースが多く見られます。
具体的には、抽象的な表現や複雑な文構造を含む指示文の理解、複数の情報源からの指示の統合、およびタスクの優先順位付けにおいて、困難を伴うことが挙げられます。
例えば、マニュアルに記載された専門用語や比喩表現の理解、複数の関係者から同時に指示を受けた際の優先順位の決定、といった場面において、混乱を経験されることがあります。これらの困難は、業務遂行の効率化を阻害し、職場における適応を困難にする要因となる可能性があります。
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軽度知的障害を発症するのはなぜ?主な原因
軽度知的障害の原因はさまざまであり、主に18歳未満の段階で知的機能の遅れが生じることで発生します。そのため、成人後にケガや病気によって知的機能に影響が生じた場合は、知的障害とはみなされないことが多いです。医療機関での検査を通じて原因を特定することが大切ですが、原因が特定できないケースも多々あります。そのため、原因を追求しすぎるのではなく、困りごとを減らすための方法を医師と一緒に考え、必要に応じて薬物療法や言語療法を行うことで、症状を和らげることが可能です。
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病理的要因
知的障害の原因には、染色体異常(例: ダウン症)や自閉症などの先天的な病気、胎児期の感染症(風疹症や梅毒など)、周産期の事故が含まれます。また、乳幼児期における外傷性脳損傷や、てんかんなどの発作性疾患、出生後の高熱なども原因となる可能性があります。特に染色体異常が原因の場合には、中度や重度の知的障害に至るケースも少なくありません。
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生理的要因
軽度知的障害の原因には、脳の麻痺や発達不全、代謝異常、さらには遺伝が関与する場合もありますが、その発症メカニズムは非常に複雑です。親に知的障害があっても、必ず子どもが同じ障害を持つとは限らず、逆に親に障害がなくても突然の遺伝子変異によって子どもに知的障害が現れることもあります。また、特定の要因がなく、通常の妊娠・出産を経ても、知能指数が低く生まれる場合があり、これらの多くは軽度から中程度の知的障害に分類されます。このような生理的要因が、大多数の知的障害の原因とされています。
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環境要因
脳の発達期に著しい栄養失調状態に陥ることや、幼児期からの身体的、性的、心理的虐待、ネグレクトといった不適切な養育環境も、知的機能に悪影響を及ぼす原因の一つです。また、育った環境によっては、保護者の育て方や人との交流が極端に少なく、刺激を受ける機会が乏しいことも、知的機能の発達に影響を与える場合があります。
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周産期要因
「周産期要因」とは、妊娠後期から出生後早期までの期間において、母体、胎児、または新生児に影響を及ぼす様々な生物学的、社会的な要因を指します。
より具体的には、以下の要因が挙げられます。
- 感染症: 分娩直前における母体の感染症(例:B型肝炎、風疹、性感染症など)は、胎児や新生児に先天性感染症を引き起こす可能性があります。
- 薬物・アルコール曝露: 妊娠中の薬物やアルコールの摂取は、胎児の成長発育に悪影響を及ぼし、発達障害や奇形などの原因となることがあります。
- 分娩合併症: 分娩時の胎児心拍数の低下、へその緒の巻きつき、早産、帝王切開など、分娩過程における様々な合併症は、新生児の窒息や脳損傷のリスクを高めます。
- 新生児疾患: 新生児黄疸、新生児呼吸窮迫症候群、先天性代謝異常など、出生直後に発症する様々な疾患は、新生児の健康状態に深刻な影響を与える可能性があります。
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知的障害は遺伝するの?
知的障害の発症にはさまざまな要因があり、遺伝が関与する場合もありますが、その確率は遺伝子の突然変異によるものよりも低いとされています。たとえば、親が知的障害を持っていても、子どもが同じ障害を持たないこともあれば、逆に親が障害を持っていなくても、子どもに知的障害が生じるケースもあります。
また、親の高齢出産が遺伝子の突然変異のリスクを高めるという研究結果も出ており、この点については今後の研究が求められます。知的障害の遺伝の可能性は否定できないものの、どの家族でも発症するリスクはあります。
軽度知的障害と発達障害の関係性
軽度知的障害と発達障害には密接な関係があり、両者が併存する場合も少なくありません。発達障害者支援法や「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)」では、発達障害の中に知的障害(知的能力障害/知的発達症)が含まれるとされています。つまり、知的障害は発達障害の一種として位置づけられています。
発達障害には、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動性障害)、LD・SLD(限局性学習症)などがあり、これらは脳の機能に起因して幼少期から症状が現れるのが特徴です。知的障害は18歳未満の発達期に現れ、発達障害とは異なる原因で生活上の困難を引き起こすことがありますが、併存することも多く、その場合には生活の困難さがどちらに由来するのかを把握し、それに応じた支援や対応を行うことが重要です。
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例えば、「相手の表情や場の空気を読み取るのが難しい」「突発的な出来事に対応できない」「特定の学習分野で困難がある」などの症状が見られる場合、それが知的障害によるものか、発達障害によるものかを理解することで、適切な支援策が見つかる可能性があります。違和感や不安を感じている場合には、支援機関に相談し、原因を特定して対処法を考えることが大切です。
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大人になってから軽度知的障害と診断されることはある?
軽度知的障害は、基本的に18歳未満の時期に知的機能の遅れが生じるものとされています。しかし、軽度であるために周囲からは異常に見えず、本人も気づかずに成長し、大人になってから仕事や生活の中で困難を感じるようになり、検査を受けて初めて軽度知的障害が判明するケースもあります。この場合、軽度知的障害自体は子どもの頃から存在していたものの、大人になるまで気づかれなかったということです。
軽度知的障害の方は、IQが51~70の範囲にあり、コミュニケーションや日常生活のスキルで多少の困難を抱えていても、周囲の支援で対応できることが多いため、医師の診断に至らないこともあります。その結果、学校や社会生活の中で少し苦労しつつも、支えを受けながら大人になることが少なくありません。
大人になってから軽度知的障害の特徴が明らかになったと感じる場合、知的障害者更生相談所での相談が推奨されます。この際には、軽度知的障害が子どもの頃からあったことを証明する書類、例えば学校の通知表やテスト結果などを用意しておくとスムーズです。
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二次障害が診断のきっかけになることも
軽度知的障害を持つ人が、これまで特に大きな問題なく生活を送ってきたにも関わらず、ある日突然、うつ病などの精神疾患の治療中に、その知的障害が明らかになるケースは少なくありません。
これは、軽度知的障害ゆえに、対人関係や社会生活、学習や仕事において困難を抱え、それが精神的な負担となり、結果として精神疾患を発症し、医療機関を受診することで、初めて知的障害の存在が確認されるというケースが非常に多いからです。
この診断をきっかけに、これまで障害者としての支援を受けずに生活してきた当事者は、療育手帳を取得し、知的障害者向けの制度やサービスを利用するといった選択肢を検討することになり、そのメリットとデメリットを比較しながら、今後の生活について決断を迫られることになるのです。
知的障害の雇用状況
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軽度知的障害の診断場所と相談の流れ
軽度知的障害の診断を受けたい場合、まずはお住まいの市区町村にある支援センターや相談センターに相談することをおすすめします。これらのセンターは無料で利用でき、診断を希望する場合には専門医を紹介してもらうことができます。
訪問には予約が必要な場合があるため、事前に問い合わせてから行くようにしましょう。自宅近くに相談センターがない場合でも、電話での相談を受けられることがあるので、まずは問い合わせてみると良いでしょう。
知的障害を含む発達障害の診断を受けられる医療機関としては、子どもの場合は小児科、大人の場合は精神科が一般的です。また、神経科や心療内科で診断を受けることも可能です。保健センターなどでは、知能検査や適応能力を診断する検査を受けられる場合もあります。近年では、発達障害者支援法などの整備により、支援や診断を行う専門機関の数が増加していますが、まだ他の病気に比べると専門機関は少ないのが現状です。
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①最寄りの支援センター等に相談する
児童相談所(18歳未満)
保健所・保健センター、発達障害者支援センター(18歳以上)
障害者職業センター(15歳以上)
などが相談先として考えられますが、利用できる年齢が施設によって異なるため、どこに相談すれば良いか迷った場合は、市役所などの総合窓口に問い合わせると、適切な窓口に繋いでくれます。
また、一部の市区町村では、医療機関を受診せずに、これらの支援センターで知的障害の検査・判定を受けることも可能です。ただし、全ての施設が医療機関と連携しているわけではないため、医師による診断や専門的な治療が必要な場合は、自らクリニックを受診する必要があります。
受診する医療機関が見つからない場合は、支援センターのスタッフに相談してみましょう。なお、大規模な病院の場合、原則として紹介状が必要となるため、直接訪れても受診できない点にご注意ください。
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② 勧められた医療機関に連絡を取る
支援機関からの医療機関受診の勧めや、ご自身での受診希望の場合
医療機関を受診される際は、事前にクリニックへ予約を取ってから受診されることをおすすめします。
受診科について
- 成人(16歳以上)の場合: 精神科、神経科、心療内科などが適切な診療科となります。
- 小児(0~15歳)の場合: 小児科(特に、子どもの頃から通院しているクリニック)、児童精神科、小児神経科などが適切な診療科となります。
準備するもの
- 健康保険証: 必ず持参してください。
- 乳幼児医療証: 対象となるお子様の場合は、忘れずに持参してください。
- 診療・検査費用: 一部の検査は、状況により保険適用外となる場合があります。事前にクリニックへ問い合わせて、必要な費用を確認しておくと安心です。
補足
- 検査について: 多くの検査は保険診療の対象となりますが、特殊な検査や精密検査など、一部の検査は自費となる場合があります。
- 紹介状: 大規模な病院や特定の診療科を受診する場合、かかりつけ医からの紹介状が必要な場合があります。
- 診断書: 診断書が必要な場合は、事前にクリニックに申し出てください。
その他
- 受診の目的: 受診の目的を明確にしておくことで、スムーズな診療につながります。
- 症状: 現在の症状や気になることなどを、事前に整理しておくと良いでしょう。
- 治療について: 治療に関する疑問点や不安な点があれば、医師に遠慮なく質問しましょう。
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③診断を受ける
初診時の流れと検査について
初診時には、医師がまず、患者様の症状や、日常生活における具体的な困りごとについて詳しくお聞きします。特に、発達期(子どもの頃)の発育歴は、診断において重要な情報となるため、可能な限り、母子手帳や学校の通知表などの資料をご持参ください。また、保護者の方には、お子様の幼少期からの発育や成長に関する詳細な情報を伺う場合もあります。
これらの情報に加え、必要に応じて、知能検査や適応機能検査が実施されます。これらの検査は、患者様の知的機能や日常生活における適応能力を評価し、知的障害の有無や程度を判定するための重要なツールです。
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一般的な知能検査
- WISC(ウィクスラー式知能検査): 5歳から16歳11ヶ月までの児童・青少年を対象とした知能検査です。言語理解、知覚推理、作動記憶、処理速度といった様々な認知機能を評価し、強みと弱みを特定することができます。
- WAIS(ウェクスラー成人知能検査): 16歳以上の成人に対して実施される知能検査で、WISCの成人版に相当します。
- 田中ビネー知能検査V: 日本の文化や社会に適応した知能検査として広く利用されており、2歳から13歳までの児童のIQと精神年齢、14歳以上の青年の偏差IQを算出することができます。
検査の目的
これらの知能検査は、知的障害の有無を診断するだけでなく、以下のような目的で実施されます。
- 診断: 知的障害の有無や程度を客観的に評価し、診断を確定する。
- 治療計画の立案: 薬物療法や社会性スキル訓練(SST)などの治療計画を立案する上で、検査結果は重要な参考資料となります。
- 自己理解の促進: 自分の強みと弱みを客観的に把握することで、自己理解を深め、日常生活における困難を克服するためのヒントを得ることができます。
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軽度知的障害の働き方の種類
軽度知的障害を含む知的障害のある方は、毎年約2万人が新たに就職しています。彼らの就労形態にはいくつかの選択肢があり、以下のような形態が一般的です。
- 一般就労: 障害のない方と同じ条件で働く形態で、オープン(障害を開示する)やクローズ(障害を開示しない)の就労スタイルがあります。ただし、配慮を得ることが難しい場合もあります。
- 一般企業での障害者雇用: 一般企業に雇用されるものの、必要な配慮を受けるためには、自ら申請する必要があります。
- 特例子会社での障害者雇用: 障害者の雇用促進を目的として設立された会社で、一般企業に比べてより手厚いサポート環境が整っています。軽度知的障害の方は、就労にあたって専門の支援員を必要とすることが多く、特例子会社で働くケースが多いとされています。
- 福祉的就労(就労継続支援A型・B型): 一般就労を目指して準備期間として利用したり、一般就労が難しい方が支援を受けながら働く形態です。
これらの就労形態を通じて、軽度知的障害のある方々はそれぞれの特性に応じた働き方を選び、サポートを受けながら社会参加を実現しています。
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一般就労
一般就労とオープン就労・クローズ就労
一般就労とは、企業や官公庁など、一般的な雇用主と雇用契約を締結し、労働に従事することを指します。一般的にイメージされる就職活動を経て、企業の一員として働く形態です。
一般就労には、大きく分けて「オープン就労」と「クローズ就労」の2つの形態が存在します。
- オープン就労: 障害者雇用枠ではなく、一般の求人に応募し、自身の障害について雇用主に開示して働くことを指します。雇用主に対して障害の特性を理解してもらい、合理的配慮を求めることで、働きやすい環境を構築することができます。
- クローズ就労: 障害の有無に関わらず、一般の求人に応募し、自身の障害について雇用主に開示せずに働くことを指します。障害者雇用枠に比べて、より広範な職種や企業を選択できる可能性がありますが、合理的配慮を受けることが難しいという側面もあります。
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両者の比較
区分 | オープン就労 | クローズ就労 |
---|---|---|
障害の開示 | 開示する | 開示しない |
雇用枠 | 一般求人 | 一般求人 |
合理的配慮 | 受けることができる | 受けることが難しい |
職種・企業の選択肢 | 比較的限定的 | 広範 |
どちらを選ぶべきか
どちらの形態を選ぶかは、個人の障害の種類や程度、希望する仕事の内容、企業の理解度など、様々な要因によって異なります。
- オープン就労のメリット:
- 雇用主からの理解と支援が得られやすい。
- 障害に配慮した職場環境が整えられる可能性が高い。
- オープン就労のデメリット:
- 障害者雇用枠に比べ、求人数が少ない場合がある。
- 雇用主の理解度によっては、差別や偏見に遭遇する可能性がある。
- クローズ就労のメリット:
- 広範な職種や企業を選択できる。
- 障害者枠に比べて、より高い賃金が期待できる場合がある。
- クローズ就労のデメリット:
- 障害に関する配慮を受けられない。
- 障害が原因で困難が生じた場合、周囲の理解を得にくい。
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障害者雇用
障害者雇用:障害のある方のための就労支援
障害者雇用とは、障害のある方が、その障害の種類や程度に応じた合理的配慮を受けながら、一般企業や官公庁などの事業所に雇用される制度です。障害者雇用促進法に基づき、企業には一定の障害者雇用率が義務付けられています。
障害者雇用における合理的配慮
合理的配慮とは、障害のある労働者が、他の労働者と平等に働く機会を得るために、職場環境や業務内容を調整することです。軽度知的障害のある方が、職場において円滑に業務を遂行できるよう、以下のような合理的配慮が考えられます。
- 情報提供の工夫: マニュアルの図示化、フリガナやローマ字の併記、視覚的な指示の活用など、視覚的な情報提供を強化する。
- コミュニケーションの支援: 質問しやすい雰囲気づくり、指示の簡潔化、繰り返し説明の実施など、コミュニケーションの円滑化を図る。
- 作業環境の調整: 作業台の高さ調整、照明の調整、騒音対策など、作業環境を最適化する。
- 業務内容の調整: 複雑な業務を単純な作業に分割する、作業手順を明確にするなど、業務内容を調整する。
- 時間管理の支援: 時間配分表の作成、休憩時間の確保など、時間管理を支援する。
障害者雇用における支援体制
障害者雇用においては、以下の支援体制が整っています。
- ハローワーク: 障害者専用の窓口があり、求職活動のサポート、職業訓練の紹介などを行っています。
- 障害者就業・生活支援センター: 就職活動の支援、職場定着支援、相談支援など、幅広いサービスを提供しています。
- 企業の障害者担当者: 障害のある従業員の雇用や職場環境の整備に関する相談に対応します。
障害者雇用における注意点
- 個別の支援: 障害の種類や程度、職場環境によって、必要な合理的配慮は異なります。
- 継続的な支援: 障害のある従業員が働き続けるためには、継続的な支援が必要です。
- コミュニケーションの重要性: 障害のある従業員と職場との間で、密なコミュニケーションをとることが大切です。
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福祉的就労
福祉的就労とは、一般企業などで働くことが困難な、障害のある方が、障害福祉サービスの一つである就労継続支援事業所などで、支援を受けながら働くことを指します。
体調や障害の状態に合わせて、支援員のサポートを受けながら、自分のペースで働くことができることが特徴です。
就労継続支援事業所では、作業活動を通じて、社会性を身につけたり、働く喜びを感じたりすることができます。また、地域活動支援センターなどでも、福祉的就労の機会が提供されている場合があります。
福祉的就労を希望する方は、障害者総合支援法に基づき、これらの施設と利用契約を結ぶことで、サービスを受けることができます。この法律は、障害のある人もない人も、地域社会で共に生きていくことを目的としています。
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知的障害のある人向けの支援制度や機関
療育手帳は、知的障害のある児童・者に交付される、いわば「障害者手帳」の一種です。知的障害者更生相談所や児童相談所など、地域によっては発達障害者支援センターにおいて、専門家による知能検査などの評価に基づき、交付の可否が判断されます。
療育手帳を取得するメリット
療育手帳を所持することで、以下のようなメリットが得られます。
- 障害者総合支援法に基づくサービス利用: 就労継続支援B型、行動援護など、様々な障害福祉サービスを利用することができます。
- 障害者雇用: 障害者雇用枠での就職が可能になります。
- 税制上の優遇: 所得税や住民税の軽減などの税制上の優遇措置を受けることができます。
- 交通機関の割引: 一部の公共交通機関で運賃割引が受けられる場合があります。
療育手帳の等級
療育手帳には、一般的にA区分とB区分に分けられます。厚生労働省のガイドラインでは、IQ35以下で日常生活に介助を必要とする場合などがA区分、IQ50以下で身体障害を併発する場合などがB区分とされています。しかし、実際の等級は自治体によって異なり、A1、A2、B1、B2など、さらに細かく区分されている場合もあります。また、数字で等級を示す場合や、A、B以外の区分を用いる場合もあります。
療育手帳の取得と個人選択
療育手帳の取得は、個人の自由意志に基づいて決定されます。軽度の知的障害の場合、日常生活に支障がないと判断し、取得を見送るケースも少なくありません。これは、療育手帳を取得することで、周囲から過度な期待や制限を受けることを懸念するケースや、税制上の優遇措置などを必要としないケースなどが考えられます。
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知的障害者更生相談所
知的障害者更生相談所は、知的障害のある方を対象とした行政機関で、専門的な相談や判定業務を行います。この機関は、18歳以上の知的障害者に対する支援を担当し、障害の認定や療育手帳の交付、障害程度の判定、各種手当の認定などを行います。また、区市町村からの相談対応や地域のサービス提供機関への情報提供、指導、研修支援、関係機関との調整なども担っています。
対象者が18歳未満の場合は、基本的に児童相談所が対応し、18歳以上の成人については知的障害者更生相談所が対応することになります。知的障害者更生相談所は、都道府県と政令指定都市に設置が義務付けられており、地域における知的障害者支援の中心的な役割を果たしています。東京都では、これを身体障害者更生相談所や高次脳機能障害支援拠点と統合し、東京都心身障害者福祉センターとして運営しています。
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障害者総合支援法に基づく支援
障害者総合支援法は、2013年に施行された、障害のある人に対する包括的な支援制度です。従来の障害者自立支援法に代わり、身体・精神・知的・発達の各障害に加え、難病を持つ人も対象としています。
制度の特徴
- 個別支援計画(ISP): 対象者一人ひとりの状況に合わせて、サービス等利用計画を作成し、必要なサービスを総合的に提供します。
- 自立支援給付: サービス利用料のほとんどを公費で負担する自立支援給付制度により、経済的な負担を軽減し、必要なサービスが受けられるようにしています。
- 多様なサービス: 介護給付、訓練等給付、相談支援、地域生活支援事業など、障害のある人が地域生活を送る上で必要な様々なサービスが提供されます。
- 程度区分認定: サービス利用にあたっては、障害の程度に応じた程度区分認定を受け、その結果に基づいて利用できるサービスの種類や量が決定されます。
サービス等利用計画
サービス等利用計画は、障害のある本人やその家族、サービス提供者などが一緒に作成する計画です。計画には、現状の状況、目標、必要なサービスなどが具体的に記載されます。この計画に基づいて、必要なサービスが提供されることで、より効果的な支援が実現されます。
自立支援給付
自立支援給付には、以下のような種類があります。
- 介護給付: 日常生活における身体介護や生活援助が必要な場合に利用できるサービスです。
- 訓練等給付: 身体機能の回復や、社会参加のための訓練などを受ける場合に利用できるサービスです。
- 相談支援: 障害に関する相談や、サービスの利用に関する支援を受ける場合に利用できるサービスです。
- 地域生活支援事業: 地域での生活を支援するサービスで、グループホームやショートステイなどが含まれます。
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成年後見制度
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な成年を保護するための制度です。この制度では、後見人が選任され、本人に代わって財産管理や生活に関わる契約、治療、介護などの法的行為を行う権限が与えられます。また、本人が自身で法的行為を行う際に後見人の同意が必要となる場合があり、後見人の同意なしで行った法的行為は取り消すことが可能です。
成年後見制度には、家庭裁判所によって選任される「法定後見制度」と、本人があらかじめ後見人を指定しておく「任意後見制度」の2種類があります。この制度を利用することで、認知機能の低下した人が詐欺被害に遭ったり、高額な商品を誤って購入してしまうことを防ぐことができます。
法定後見制度
法定後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な方を法的に支援・保護するための制度です。この制度では、本人や家族、市町村長などから家庭裁判所に申立てがあった場合に、本人の判断能力の程度に応じて後見人、保佐人、補助人のいずれかを選任します。後見人等は、家庭裁判所によって、家族や法・福祉の専門家の中から選ばれることがあります。
制度は3つの類型に分かれ、判断能力を常に欠いている方には「後見人」が、判断能力が著しく不十分な方には「保佐人」が、判断能力が不十分な方には「補助人」が選任されます。成年後見人には、財産に関する法律行為を包括的に代理する権限や、本人が行った法的行為を取り消す権限があります。保佐人と補助人も、家庭裁判所の許可により特定の法律行為について代理権や同意権・取消権を得ることができます。
この申立ては本人自身や配偶者、4親等内の親族などが行うことができます。後見人等の支援により、本人が不適切な契約を結ぶことなどを防ぐことができます。
任意後見制度
任意後見制度は、認知症や障害などで将来、自身の判断能力が不十分になることを見越して、あらかじめ信頼できる人に法律行為の代理を依頼しておくための制度です。本人がまだ判断能力を持っているうちに、生活や財産管理、介護サービスの契約などに関する事務の一部または全部を、信頼できる任意後見受任者(後に任意後見人となる人)に委任する契約を結びます。この契約は公正証書によって行われます。
本人の判断能力が低下した後、任意後見人が代理として契約などの法律行為を行います。任意後見人が適切に活動しているかどうかについては、任意後見監督人が監督を行い、後見の過程をチェックします。
障害者虐待防止センター・人権相談所
障害者虐待防止センターは、2012年に施行された「障害者虐待防止法」(正式名称:「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」)に基づいて設置されている窓口で、各市町村に配置されています。このセンターでは、障害者に対する虐待の通報や相談を受け付け、虐待から障害者の権利と尊厳を守るための支援を提供しています。障害者が安心して自立し、社会参加をする上で、虐待を防止することは非常に重要です。
一方、人権相談所は法務局(支局)に設置されており、法務局の職員や人権擁護委員が窓口、電話、インターネットなどを通じて人権侵害に関する相談に応じています。障害者虐待防止法を理解し、適切に対応することが、障害のある人々が安心して生活するためには重要です。
障害年金
障害年金は、病気やケガによって日常生活や仕事に支障が生じた場合に受給できる年金で、身体障害、精神障害、知的障害などに対応しています。これは高齢者だけでなく、現役世代でも受給可能であり、原則として20歳から65歳までの間に請求できます。受給には定められた要件を満たす必要があります。
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があり、支給額や等級は、障害の状態や日常生活への影響の程度、国民年金や厚生年金への加入状況などを基に決定されます。障害年金を受給するためには、身体障害や精神障害の場合、初診日が年金加入中であることが求められますが、知的障害の場合は「発達期までに障害が現れている」という前提があるため、初診日は問われません。年金制度は、労働による収入が難しくなった場合の生活を支えるための所得保障として機能しています。
障害基礎年金
障害基礎年金は、国民年金に加入している自営業者や、初診日が国民年金加入中である人、または生まれつきの障害や初診日が20歳前にある人が対象となります。支給額は、1級が約97万円、2級が約78万円となっており、3級には支給がありません。
障害厚生年金
障害厚生年金は、厚生年金に加入している間に初診日のある病気やケガによって障害が生じた場合に支給されます。障害等級には1級から3級までが設定されており、1級または2級に該当する場合には、障害基礎年金に加えて追加支給が行われます。2級に該当しない軽度の障害に関しても、3級に認定されると障害厚生年金が支給されます。また、初診日から5年以内に治療が完了し、軽度の障害が残った場合には、一時金である障害手当金が支給されることもあります。
障害厚生年金の支給額は、等級に加えて、平均標準報酬月額と厚生年金の加入期間に基づいて算出されます。対象者は国民年金の第2号被保険者でもあるため、受給要件を満たしていれば、障害基礎年金と障害厚生年金を同時に受給できます。受給のためには、初診日以前の保険料納付要件を満たす必要があり、具体的には次のいずれかの条件を満たしていることが求められます
- 初診日が属する月の前々月までに遡り、その時点までの公的年金加入期間のうち3分の2以上の期間において、年金保険料が納付されているか、または保険料免除の適用を受けていることが必要です。
- 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に未納がないこと。
生活保護
生活保護は、生活に困窮している人々に対し、生活保護法に基づいて国が提供する公的扶助です。この制度は、憲法が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保障し、困窮する人々が自立した生活を送れるよう援助することを目的としています。生活保護を受けるためには、まず自身の資産や能力を最大限に活用し、それでも生活が成り立たない場合に限り申請が可能です。申請は国民の権利であり、誰でも必要とする状況に陥る可能性があるため、ためらわずに福祉事務所へ相談することが推奨されます。
平成29年時点では、生活保護を受けている世帯は約160万世帯にのぼり、そのうち約4分の1が障害者を含む世帯です。生活保護は、他の給付金や年金では生活が維持できず、資産を処分しても誰からも援助が得られない場合の「最後の手段」として利用されます。申請にはさまざまな条件があるため、詳細については福祉事務所での確認が必要です。
特別障害者手当
特別障害者手当は、「特別児童扶養手当等の支給に関する法律」(1964年制定)に基づき、精神または身体に重度の障害がある20歳以上の在宅者で、常時特別な介護を必要とする方を対象としています。支給額は2020年4月より月額28,840円で、支給は申請月の翌月分から開始され、毎年2月・5月・8月・11月に、それぞれ前月分までの手当が支給されます。なお、受給には本人、配偶者、扶養義務者に対する所得制限が設けられています。
障害がある方向けのエージェントサービス
提供されるサービスとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 求人紹介: 障害のある方のスキルや経験、希望する職種にマッチした企業を厳選し、紹介。
- キャリアカウンセリング: キャリアプランの策定、強み・弱みの分析、自己理解の深化を支援。
- 面接対策: 模擬面接の実施、履歴書・職務経歴書の添削など、面接対策を徹底的にサポート。
- 企業との交渉: 内定後の入社時期、給与、勤務条件などの交渉を支援。
- 職場定着支援: 入社後の困りごとや悩みへの相談対応、職場への訪問によるフォローなど、職場定着をサポート。
障害者向け転職支援サービスの大きな特徴は、企業側のニーズを深く理解している点にあります。障害のある方の採用を検討している企業は、合理的配慮の実施など、一般的な企業とは異なる対応が求められます。転職支援サービスは、企業側のこうしたニーズと、求職者のスキルや希望をマッチングさせることで、双方にとって最適なマッチングを実現します。
まとめ
軽度知的障害とは、IQや生活能力の評価により「軽度」と判定された知的障害を指します。知的障害は、身体障害や精神障害と並ぶ障害の一つで、一般的に18歳未満の発達期に症状が現れますが、軽度の場合、日常生活に大きな支障が見られないことから、子どもの頃に気づかれず、大人になってから仕事や生活の中で困りごとが表れた際に診断されるケースもあります。また、診断時には知能検査と日常生活の自立度などを総合的に評価します。
軽度知的障害の方は、自身の得意不得意を理解し、それに応じた配慮を求めることが大切です。すべての人に同じ配慮が適切ではないため、自分に合ったサポートを見つけることが重要です。困難を感じた際には、障害者雇用で働きながら配慮を受けることや、支援センターや自立訓練のプログラムを利用することも有効です。自立訓練では、生活スキルの向上や、苦手な分野の克服をサポートするさまざまなプログラムが提供されており、困りごとの相談もできます。
軽度知的障害は気づきにくいため、生きづらさやストレスに悩む方も多くいます。適切な支援を受けることで、日常生活や仕事の困難さを減らし、より自立した生活を目指すことが可能です。支援を受けるためには、医療機関や支援センターでの診断が必要で、特に発達障害が併存している場合は、簡易的なセルフチェックを通じて早めに確認することも役立ちます。これらの支援制度やサービスを活用し、適切なサポートを受けることが大切です。